01
シャハルとハルトはそれぞれ、ルシア・ロペスに疑念を抱いていた。
クローンの設計段階からルシアは専門ではない作業に戸惑うハルトに、秘密の共有者として手を貸していた。
だがそれが善意によって行われているのかと言えばそうでは無い、とハルトは感じていた。
それが『愛する対象への貢物』といった歪んだ思いからなのかは計りかねていた。
逆にシャハルは、的確にルシアの意図を見抜いていた。
「あの女、色を変えやがったなぁ。俺が嫌がって放り出すとでも思ってんのかねぇ」
目の色が違うと指摘した時、ハルトは想定外だという顔をした。
ソフィアが身投げした後の治療の時から、ルシアがルース機関士長とハルトに接触したのは知っている。
──おそらく何か企んでいるんだろう。
ソフィアが生きているなら、無理やり手に入れる事も考えないでもなかった。
だが、彼らの思惑に乗ってやるのも一興だとシャハルは悦に浸った。
即位して三年ばかり経った頃、ステファンが子孫を残せと十五歳の自分の娘を差し出した。
王妃との間に一向に子供ができる様子がなかったからだ。
当然だ。シャハルは元々行為自体する気もなく、クローンにも生殖能力がないのだから。
シャハルは娘を側妃に据えはしたが、相手をする事はなく人工授精で妊娠させた。
娘は屈辱を受けたとステファンの胸に泣き縋ったが、シャハルを信奉する彼には子供の戯言程度にしか響かなかった。
初めのうちはソフィアのクローンに満足していたシャハルだが、本人と違い反応の薄い様子に段々と苛立ちを覚えてきた。
開拓が進み、少しずつデータを集積し淡々と演算するだけのクローンは、シャハルにとって人形にも等しいまがい物だった。
ハルトは早々に星船の冷凍ポッドに入ってしまった為に、自分を崇めるだけの刺激のない面々に辟易し始めた。
マグノリア星に根を下ろして十年、シャハルは次の交易船が来た時に地球への帰還を画策した。
生活の基盤が形成され、王都近隣での大きな被害も減った。
自分がいなくとも勝手に繁栄していくだろうと予想した。
世継ぎの子供の面倒をみろと側妃はけたたましく騒ぎ立てた。
元老院は何かと国のためだと言ってシャハルを持ち上げ続けた。
そしてルシアが鬱陶しく纏わりついた。
王城に設えた自分のみが入れる禁足地で、ドーン商会の交易船と策を練った。
禁足地の通信機器は、マグノリア星軌道上の衛星を介して外宇宙と通信が出来る。
──こんなつまらん場所にいるだけ無駄だ。
シャハルは情報と刺激を欲した。
交易船とのプランが成立し、シャハルは置き土産を用意した。
「お前に俺をやろう。その代わりお前が死ぬ時には、俺の為にその脳を禁足地に据えろ」
ルシアは狂喜した。
脳を据えることの意味がわからなくとも、シャハルが自らに課した、という事実だけで満足だった。
それにも増して、シャハルが手に入るという確約が彼女を高揚させた。
シャハルはルシアに自分のコピーアンドロイドを造らせ王城に残し、自身はマグノリア星を後にした。
ルシアの脳を据えるのは、いつか禁足地に来るかも知れないハルトへの嫌がらせだ。
それからシャハルは地球で再びやりたい様にドーン商会を動かし、時々交易船に乗ってマグノリア星を観察し、王族の思考に干渉した。
シャハルはソフィアは生きて星船に匿われているだろうと思っていたが、きっと最後のクローンで何かしてくれるに違いない、と自分もその時を心待ちにした。




