03
それから一年後に星船は惑星へと降り立った。
しばらくの間は星船で居住しつつ、開発はゆっくりとしかし確実に進められた。
人々が開拓と野生生物の討伐に明け暮れている間、ハルトは医療セクションに籠もりきりでソフィアのクローンの成長を見守った。
初期段階でハルトが中座した折り、ルシアが研究室に入り込んだ。
しばらく作業した後、何食わぬ顔で立ち去ったが誰も気付かなかった。
そうして二年が過ぎ、シャハルはハルトのもとを訪れた。
成長を加速させた最初の一体は既に培養槽から出され、白い術後服を纏い診察台に座っていた。
ハルトが小声で何か告げるとクローンはゆっくりと目を開いた。
固唾を呑んで見守っていたシャハルは、眉間に皺を寄せた。
「目が赤いなぁ。髪も白すぎないかぁ?」
「きちんと設定したはずなんだが、何故かこうなった。予知のギフトについてはソフィア自身も成長してからのようだし、まだ様子見だ」
「⋯⋯髪は誤魔化しが利くが、目は困るな。本人と思わせたいからな。二体目からはそのままでいい。建国祭に即位と婚礼も合わせる。それまでに何とかしろ」
「承知した」
シャハルは周りに持ち上げられるまま国王となった。
王妃はソフィアのクローンだが、クローンである事は秘匿された。
惑星名を『マグノリア』、国名は『マグノリア王国』、そしてシャハル自身は『オルトゥス・レイ・マグノリア』と改名した。
十一のセクションの部長たちを元老院と称して政治の核とし、彼等とシャハルのお気に入りは爵位を与えられ貴族社会が構築された。
星船で地球のドーン商会の交易船と通信が行われていたが、エピ公爵となったステファン・バーレイがこの移住計画の目的である『必要最低限の科学で生きる』為にはそろそろ星船を捨てる事を進言した。
盆地に着陸した星船は埋められ、その上部に発光微生物による有機発電所が建設された。
居住地の間には【大神殿】が据えられ、後世にまで続く移住のシンボル【聖女ソフィア】が祀られた。
時を経るにつれ、ステファンの科学への拒否感は度を越えていった。
ステファンは地球から定期的にやってくる交易船を締め出そうとした。交易船は地球からの監視を兼ねているからだ。
流石に全てを今すぐ閉じるのは問題があると他の元老院メンバーは考え、二千キロ弱離れた遠隔地に交易船との窓口を造った。
娘の件でシャハルと険悪になっていたルース機関士長が立候補し、そこへ家族と共に赴任する事となった。
ルース機関士長はハルトの肩に手を置きソフィアの眠る生命維持カプセルを見つめた。
「俺が行けば何かとバックアップ出来るだろう。
いざという時の為にソフィアを移動出来る準備もしよう。
君が六十四人目まで命を続かせるなら、子孫にもバックアップを引き継がせる。
安心してしばらくの間カプセルに入るといい」
ハルトは一人目のクローンをシャハルへ渡した後、タイミングを見計らって六十四人のクローンたちを見守るつもりだった。
だが寝ている間、クローンの管理を任せられる人物がいない。
星船で作業するアンドロイドの一体を自分に似せて、後を任せる事にした。
「機関士長、よろしくお願いします」
ハルトは深々と頭を下げ、ルース機関士長を見送った。




