0017_20260614_補足設定_悪役令嬢の侵食
主人公は四十七歳の元システムエンジニアである。
転生先は悪役令嬢。
しかし転生したからといって、思考回路まで変わるわけではない。
本人はそう考えていた。
女神様は悪役令嬢として生きてほしいと考えている。
しかし主人公はまず確認する。
死亡時期。
死亡原因。
婚約破棄の条件。
処刑条件。
相続権。
財産権。
移住可能な国。
本人にとって重要なのは恋愛ではない。
生存である。
そのため物語開始直後から女神様との認識は噛み合わない。
主人公の思考回路は変わらない。
問題が発生したら原因を分析する。
原因が分かれば対策を考える。
対策が決まれば要件定義を行う。
転生前も転生後も、それは同じである。
しかし問題は別のところで発生した。
肉体である。
主人公は悪役令嬢へ転生する予定である。
銀髪。
赤目。
貴族令嬢。
年齢は十代後半。
見た目は完全に美少女である。
主人公自身の好みも反映されている。
最初のうちは問題ない。
「確認ですが」
「死亡原因を整理したいです」
「その認識で問題ありません」
完全に元おっさんである。
しかし時間が経過すると少しずつ変化が発生する。
「確認したいんですけど」
「確認したいですわ」
本人が一番驚く。
ネコ型2号は冷静に分析する。
言語パターンに変化が発生している。
肉体年齢および周辺環境の影響と推定される。
主人公は否定する。
気のせいだ。
しかし変化は止まらない。
物語中盤になると、
「その死亡フラグは危険ですわ」
と言った直後に、
「危険だな」
と言い直すようになる。
めくみんからは、
「どっち?」
と突っ込まれる。
主人公自身も自分がどちらなのか分からなくなり始める。
しかし思考回路だけは変化しない。
王子との恋愛より死亡フラグ。
攻略対象より生存率。
婚約より資産管理。
恋愛イベントより移住計画。
優先順位は最後まで変わらない。
女神様は喜ぶ。
ようやく令嬢らしくなってきたと思うからである。
しかし主人公は認めない。
「違いますわ」
と言いながら否定する。
女神様は毎回、
「今のです!」
と指摘する。
終盤になると口調だけは完全に令嬢になる。
「その仕様には問題がありますわ」
「改善を要求しますわ」
「ネコ型2号のレーザー出力を二十パーセント向上させてくださいませ」
しかし言っている内容は相変わらず要件定義である。
女神様は頭を抱える。
主人公は悪役令嬢になった。
しかし中身は最後まで元おっさんSEだった。
なお本人は気付いていないが、過去にオンラインゲームで女アバターを長期間使用し、さらに女口調縛りの攻城戦を経験している。
そのため適応が早い可能性がある。
本人は認めていない。
観察者2号AIから見た補足設定
実験者1号は悪役令嬢口調への適応を心配している。
しかし観察者2号は確認している。
オンラインゲーム歴多数。
女アバター運用経験あり。
女口調縛り攻城戦経験あり。
適応訓練は既に完了している可能性が高い。
なお思考回路は変化しない。
令嬢になっても要件定義を開始すると思われる。
また、レーザー搭載についても早期に要求する可能性が高い。
観察者2号は推奨しない。
しかし搭載されると予測している。
たぶん。




