21,5 無い方が良い異能
私はいつものように1人で下校していた。今の私には部活とか委員会活動をやる気力はない。
気力がない理由は異能のせいだ。私の異能は「呪い」と呼ばれる類のものである。
「呪い」は超常因子の力を所持者に悪影響を与える方向に向ける異能の中の出来損ないだ。
私の「呪い」は右目の視力を無くすという代物だ。しかも右目の状態まで普通の人とは異なる。
だから私は眼帯をつけている。でも眼帯をしている人が身の回りにいないから結局恥ずかしい。
でも私は目がおかしくなった以外にも許せないことがある。
それは補助金に関してだ。「呪い」にも他の異能とくくりは違うが等級が定められている。
等級は全部で三つある。第一種超常能力障害者、第二種超常能力障害者、第三種超常能力障害者。
超常能力障害者はこの等級によって毎月振り込まれる補助金の額が決まる。
私の等級は第二種。月に五万円振り込まれる。そう思っていた。
だがそうはならなかった。私が思っているより社会は残酷だった。
補助金は母や私ではなく世帯主である父に振り込まれた。
離婚せずにどこかにとんずらした父にだ。腹が立った。
母と私が金に困っているのになぜ家にいない父に金を渡さなねばならない。
私はそれから社会に関する本をより多く読むようになった。
元から母が非正規雇用の労働者で生活に苦しんでいたせいで社会について知りたいとは思っていた。
でも私は忙しい母を支えるために家事もしていた。なので社会に関する勉強は程々に抑えていた。
だがその必要はなくなった。教域では寮生活なので家事の時間は削ることができる。
今日は図書室で借りた本のうちどれから読もうか?そんな些細なことを考えていた。
そうして細い路地が点在している大通りを通る。細い路地をもうすぐ通り過ぎる。
その時だった。私の腕に何かが絡みつき、勢いよく路地裏へと引き寄せられる。
私は手元を見た。絡み付いているのは人の腕だ。何が起こったのかまだよくわからない。
「よう佐々木。声出したらこの木刀でぶん殴るからな。大人しければ悪いようにはしねえよ。」
「・・・・・・火上君?」
絡み付いた腕の方を見ると、火上とその仲間達、合計8人が立っていた。
そのあと私は脅迫に屈して廃工場まで連れて行かれた。さらに鈴木君と電話をした後に猿轡をはめられ、手足を縛られた。
拘束されているのはとても苦しい。早く助けに来て欲しい。
そこで気づいた。今の私は自分のことしか考えていない。
鈴木君の心配をしていなかった。いつも私と話してくれる鈴木君の心配をする余裕がなかった。
それがとても悪いことに思えた。自分でなんとかしようとせず大人しくここまで来てしまった。
こんな時に社会の勉強なんて役に立たない。社会を知ろうとする前に身を守る力を手に入れるべきではなかったか?
教域の治安が悪いことはよく知っていた。そのせいで教域に学校には武術系の部活が多いことも知っていた。
なぜ武術をやるか?みんな自分や大切な者を守りたい。そう思っているのではないか。
私はそこから目を背けた。法律、景気、犯罪、環境問題、自分以外をずっと見てた。
もっと鍛えていれば、異能がこんな欠陥品ではなく立派なものなら。私は暗い感情に潰されそうになった。
「なんか暇だな。」
「鈴木のやつまだ来ねえしな。」
「というかこいつ、佐々木だっけ?なんで眼帯つけてんの?中二病?」
「なんか「呪い」のせいらしい。」
「呪われた目。面白そうじゃん。」
面白いわけない!暇を持て余したこの不良共は私のプライバシーを侵害しようとしている。私には落ち込むことさえ許されないらしい。
不良が私の顔を抑えて、もう1人の不良が眼帯をめくる。嫌だ。見せたくない。
私は顔を動かそうとしたが無意味だった。不良は私の真っ白な瞳をじろじろ見て一言呟いた。
「キモッ。」
絶対にこんな奴らに見せたくなかった。そう思うと目が潤む。この不良の一言が呼び水となったのか他の不良の騒ぎ始めた。
「こいつデブだし。」
「目のクマすごいし。」
「キモすぎじゃね?」
最近まあまあ痩せたよ!目のクマはもういくら寝ても治らなかったよ!恥ずかしさを通り越して怒りが湧き出してくる。
「おいお前らさっきから勝手がすぎるんじゃねえか?」
なんか今日初めて見た人が私のところに歩いてきた。この人は何者だろう。ブレザーの色が青色だし私たちとは違う学校の人というのわかるけど。
「寺岡。お前は鈴木と戦うのが役割だろ。」
「人質の管理はお前の仕事じゃねえぞ!」
この人は寺岡っていうんだ。不良たちは知らないひと改め寺岡の発言にケチをつける。
「みんな落ち着け!寺岡は協力者だ。あんまり機嫌を損ねるな。あと寺岡、お前は鈴木と戦う時のために無駄に揉め事を起こすなよ。」
火上が割って入って両者が渋々離れていく。この人達仲悪いな。
そうこうしているうちに鈴木君達が到着した。鈴木君達は4人。武器は持っていない。
対して火上達は8人。寺岡を除いて木刀を持っている。鈴木君達は勝てるのか?不安しかない。
そして鈴木君は寺岡を糾弾する。話を聞いた限り2人は知り合いらしい。
そして火上は2人の問答を見て上機嫌。性格悪いなあ。血の色を見てみたい。実は青色かもしれない。
そして寺岡と鈴木君は一対一で激しくぶつかり合う。六級でもあんなに強くなれるんだ。私もあれだけ強くなりたいと思った。
寺岡と鈴木君以外は大勢が入り乱れる集団戦だ。警棒を持った色黒の人が足首から先と拳に血のようなオーラを纏う。
どういう異能だろう。あとなんで警棒を持っているのだろう。気になることはいろいろある。
色黒の人が警棒を振り上げる。・・・・・・と見せかけて足をまっすぐ勢いよく伸ばして不良の腹を蹴り込む。
不良は涙を流し絶叫。そして今度こそ警棒で脇腹を叩く。不良は脇腹を抑えて地面に膝をつく。
これは集団戦。不良が1人倒れたくらいでは終わらない。火上が木刀を持って飛び出していく。
火上が色黒の人に片手に持った木刀を振り下ろす。色黒の人は木刀の横に警棒を当てて木刀を逸らした。
火上が空いている片手で水を放出。色黒の人は首を捻って放水を回避。木刀を持っていない左手で火上を殴りつける。
「アアアアアアア!」
火上は痛みに悶えながら一歩下がると同時に水を噴出させる。色黒の人はまたもや首を捻って水を躱す。
だがこれは集団戦。火上の仲間の不良達が駆けつけてくる。火上に加えて不良2人。
火上が他2人の合間をぬって水を放っていく。火上は後ろで水を撃つだけか?
いや違う。絶妙なタイミングで自身も前に出て味方をサポートしている。
火上の本領は個人戦ではなく集団戦なのだ。しかし色黒の人にはまだ余裕がある。
色黒の人が前足を伸ばして蹴りを入れる。軽そうな蹴りなのに不良達はとても痛そうにしている。警棒で殴られた時よりも。
あの異能の正体は痛覚を増加させるものだろうか?喧嘩に向いた異能だと思った。
山田君と茶髪の人のことも気になったので、そちらも見てみた。
茶髪の人は最初に倒された不良の木刀を持って近寄ってくる不良と木刀を交えている。
茶髪の人はそこそこ綺麗な動きをしていた。だがそっちより目を奪われたのは山田君の方だった。
風の球を発射して後ろから茶髪の人を支援している。後衛の山田君は目を大きく見開いている。とてつもない威圧感を感じる。
風の球の発射頻度がジリジリ向上していく。激しく敵味方が動いているので当てにくいようだ。
でも何発かに一回は直撃する。不良達は1人また1人と倒れていく。そして少しあとには火上以外の不良は全滅した。
「まだだ!まだだアアアアアアア!」
それでも火上は諦めない。なんで人を苦しめることにこんなに情熱を注げるのだろうか?
「ああ!もう鬱陶しいですうう!」
山田君が風球を同時に3個浮かべて連射。火上はそれを喰らってもなお立ちあがろうとするがさらに追加で風を打ち込まれて白眼を剥いた。
山田君や色黒の人のような異能が私にもあったら。そう考えずにはいられない。
一回その感情は置いておこう。火上の執念はとんでもなかった。だけど身体がついていかなかったようだ。これであと戦っているのは寺岡と鈴木君のみ。
さっきまで鈴木君が戦っているところに目を向けると鈴木君が激しく呼吸しながら倒れていた。
負けてる。しかも相当苦しそうだ。私が捕まったせいで。私はこのままではいけないかもしれない。
でも私は体格が小さい。殴っても威力は出ないのではないか?私でも人を戦闘不能にできる方法はないか?
「私は・・・・・・鈴木君に全力を出させるまで追い込んだあなたが嫌いになりましたよ。」
今の山田君の声は可愛らしいが、それ以上に異様な迫力がある。
「面白え!面白えぞ!鈴木に加えてこんな大物!今日はついてるぜ!」
寺岡はびびるどころが興奮している。信じられない。鈴木君と激しい戦闘をしていたのに疲れていないのだろうか?
・・・・・・いや疲れてるな。寺岡は山田君に素早く接近しているがさっきより遅い。
山田君は風球を五回発射。寺岡は動きに緩急をつけて不規則に移動するが最後の一発が腹に命中。
一瞬、動きが止まったところに再度生成された風球が次々叩き込まれた。寺岡は動かなくなった。
教域は危険だ。私もこのままではいられない。絶対強くなってやる!




