18、怪しければ殴ればいい
今は六月上旬すっかり暑くなってきた。・・・・・・なのに、喧嘩なんて吹っ掛けてきてんじゃねえよ!学生寮の前には力尽きた4人の学生たちが転がっていた。
これをやったのは僕と山田である。佐藤を倒した僕たちは少し有名になったらしく、喧嘩を売られるようになった。それも結構な頻度で売られる。
まあ喧嘩なんて寒くても暑くてもやるよな。僕もそうだったし。これからもっと数が増えたりすんのかな。でも逃げるのも面倒くさい。
住んでいる学生寮が特定されているので逃げても結局また帰ってくることになる。なら殴って速攻で解決が一番なのだろう。
「今回も異能を使ってくる敵はいませんでしたね。よかった。怖いですよね異能。」
戦いの緊張から解き放たられた山田の穏やかな声が聞こえる。異能を使ってくるやつはたまにいる。ちょっと強い力を手に入れて調子に乗っちゃったタイプだ。
そういうと間抜けに聞こえるが、いや実際そうなのだが調子に乗るだけあって、そういうやつの異能はそれなりに戦闘に向いている。非常に厄介だ。
だがそんなのはめったにいない。そもそも三級以上の異能者の数は少ないし、異能なんて三級にもなればエリート。エリート様は喧嘩で自尊心を満たさなくてもみんなが勝手にほめてくれる。第一いきなり強い力を手に入れたところで暴れようと思うやつは少数。この話は森田の受け売りだ。
僕にそんなことを考える頭はない。なんで異能が強い人は喧嘩しないのかなんて最近では疑問に思ってた。
つまるところ褒められることが少ない六級共が道を踏み外して不良になるということなのだろう。悲しくなってきた。こいつらも俺と同じ六級。仲間なのか?
・・・・・・仲間。僕の脳裏に仲間?が拳を振り上げてくるところや悪口を言ってくるところが映った。
「だあああ、こいつらは仲間じゃないいいい!」
僕は空に向かって絶叫する。直後、地面に何かをつける音がする。しまった!音がした方を見ると不良の一人が立ち上がっていた。
そして不良は地を蹴った。完全に油断した。余計なことを考えるべきじゃなかった。僕と不良の距離が縮まる。
僕も急いで攻撃の準備をする。左拳を上げて右足を一歩引いて左足を前にする。とりあえずここから左ストレートだ。
そう決意したとき、緑色の球が不良の胴体に着弾。不良が腹を手で押さえてうずくまる。山田が口調をきつくして言った。
「ダメですよ!油断しちゃ。」
山田は佐藤との戦いで異能を成長させた。戦いの後、いろいろ試行錯誤した結果、山田は突風を吹かせるだけでなく、空気を固めて飛ばすことができるようになった。
この前、異能の定期検査があり、山田の異能は見事、四級と認められた。僕は六級のままだ。僕は注入された超常因子を分解する体質らしいので、一生異能を使えない可能性が高いらしい。
山田も最初は六級だった。なのにどんどん距離が遠くなっていく気がする。山田の異能の成長速度はかなり早いほうらしく先生も驚いていたそうだ。
それに比べて僕は・・・・・・。いかん。さっき油断しちゃダメだって山田に言われただろう。僕と山田は周囲を警戒しながら学生寮に入った。
翌日の昼休み、佐々木と僕はおしゃべりしていた。昼休みに火上と喧嘩をすることがなくなったからな。こうやって会話ができる。
「この学校の学生寮の前に警官でもいればいいのに。そうすりゃ自分の部屋に行く前に喧嘩せずに済むのになあ。」
「そりゃあ、無理な話だよ。この街じゃ警官は大忙し。学生同士の問題は学生同士で解決してくれって思ってるよ。取り締まるのは学生がよそでやらかしたり、大けがしたり要するに大ごとになった時だけ。通報しても断られることがあるという話も聞くよ。」
思い付きで願望を口にしたが僕の願いは叶うことがないらしい。この街の治安の悪さは極まっている。ん!?僕はチラッと教室の入口の方を向いた。特徴的な赤毛が視界に入る。
「ひうえええええええ!何しにきやがった。」
「何もしねえよ。なんだ?俺がお前の教室の近くにいたらまずいのか。というか気づくのが遅い。おしゃべりがそんなに楽しかったか?社会に関するろくでもない話しかしていなかっただろ。そういう話は外ではするなって習わなかったのか?まあ普通、習わなくても覚えるけどな。」
「キエエエエエエエエ!」
火上を殴り倒した。怒っていたので火上が何でここに来たのか聞き出し忘れた。最近ここに来ていないのに何で急にここに来たのか。理由は全く見当もつかず、すぐに考えるのをやめた。
放課後、森田といつも通り試合をした後、他の部員に場所を譲って雑談する。僕は待ちきれず話し出す。
「今日、火上のやつが僕の教室のすぐ近くに来てたんですよ。悪口言ってきたからつい殴っちゃいました。」
「おい、鈴木。そういうことは笑顔で言うもんじゃないぞ。友達いなくなるぞ。」
「もとからそんなにいません。」
悲しくなってきた。中学に入ったら友達たくさんできてひょっとしたら彼女もできるかと思ったのに現実は残酷だ。
僕がこの世のどじょうり、いやフジョウリだったっけについて深く考えていると森田が話を変えてくる。
「そういえば火上の仲間たちが不穏な話をしていたのを聞いた。」
「どんな話ですか?」
すぐに僕は聞き返した。すごい気になる。場合によっては火上を痛めつけて全部話してもらわないといけないかもな。いや火上は痛めつけたぐらいじゃ話さない。火上の仲間から聞き出すか?
「おい、話聞いてる?なんかすごい顔してるけど。」
「あ、誰を痛めつけようか考えてました。」
「ひどいな。会話の途中に無意識に考えることじゃないぞ。悪魔かお前。」
「森田先輩、僕は思いますよ。人間より残酷な生物はいないって。」
「・・・・・・真理かもな。」
額に手を当てて森田がそうつぶやいた。シンリ?なんだそれ?まあいいや。とりあえず話をちゃんと聞こう。
「遠くから聞いたから聞き取れない部分があったが、廃工場に連れ込むとか木刀を買いに行くとか言ってたな。」
「明日殴って聞き出しましょうか?」
反射的に僕はそう言った。怪しければ殴ればいい。あいつらのことは憎いのでなんかの間違いだったとしても何も問題はない。
「やめろ。大事になるだろ。それにいきなりぶん殴ってもあいつらを警戒させるだけ、今は落ち着いて情報を集めよう。」
もっと近くで聞いてたらよかったのに。心底そう思った。待てそもそもなんで森田はあいつらの話を聞いたんだろう。
「先輩、なんでそもそもあいつらの会話を聞いたんですか?」
「前にあいつらが連れてきた剛太と喧嘩しただろ。だから定期的にこっそり見に行っているんだよ。そうしないと不安だからな。」
そうだった。森田は警戒心が高い。それぐらいしていてもおかしくはない。・・・・・・僕もこっそりあいつらの様子を見に行こうか?




