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17,5 火上の執着

 あの憎々しい鈴木が佐藤に勝ってから数日が過ぎた。仲間たちは怖がっている。もう鈴木と戦うのは嫌だろう。


 嫌がっていることをやらせるのは嫌だし、そんなことをさせたらもう友達ではいてくれないはずだ。佐藤をもう一度けしかけるのも無理だ。


 森田とかいうやつのせいで、俺が佐藤を都合のいいように利用しようとしたのがばれた。それ以来、佐藤は俺と会いたくないと言ってきた。どうしようか?鈴木を苦しめる策がもう思いつかない。


 なかなか悪いことを考えている自覚はある。でも俺はそんなことがどうでもよくなるくらいには鈴木のことが嫌いなのだ。


 あいつにはしっかりした親がいる。それが腹立たしい。最初は立場の弱そうなやつをいじめて、ストレスを発散しようといじめてみた。


 その時には別にあいつ以外でも良かった。でも先生との週一回の双方の親を呼んでの面談を重ねるにつれてその気持ちは変わった。あいつじゃなきゃダメになった。


 「火上、難しい顔してどうしたんだよー。」


 「学校終わって、これから帰るんだから楽しい顔しようぜ。」


 それもそうだ。学校が終わって今日は部活ないし、こいつらと一緒に帰れるのだ。それでいいじゃないか。だけどなんとなくそれじゃ足りない気がした。


 帰り道、七人で会話しながら帰っていると裏路地のほうから悲鳴とか足音とかがした。この街では喧嘩なんて珍しくもない。


 「ちょっと見に行かねえ?」


 仲間の中で一番好奇心がある加藤が言い出す。・・・・・・この人数だし、面倒ごとに巻き込まれても何とかなりそうだがみんなはどう思っている?


 「いいんじゃね?」


 「たまには刺激が欲しくね?」


 「ちょっと前に佐藤と鈴木が喧嘩したばっかだけどなあ。」


 いくら勝率が高いからといって鈴木と喧嘩を何回もやっていたこいつらには今の生活は刺激が足りないようだ。


 「よし行くか!」


 俺はそう言ってみんなの前を歩いた。喧嘩の現場に着くとそこには信じられない光景が広がっていた。


 一人の地味な中学生が二人の不良の前で鈴木と似た構えをとっていた。激しい呼吸音、震える手、紅潮した肌。限界が近そうだった。


 辺りには戦闘不能になった不良たちが六人もいた。地面にあおむけになっている者、膝をつく者、座り込んでいる者。


 信じられない光景だ。あのどこにでもいそうな見た目の中学生がとんでもない化け物に見えた。あれなら鈴木に勝てる!


 すぐその思考に行きついた。我ながら鈴木のことを考えすぎだと思うが、思い立ったが吉日。あいつを仲間に引き込んでみよう。


 道端で会ったやつを信用してくれる可能性はごくわずかだが、そのごくわずかに賭ける。俺は戦意の高そうな不良達に元気よく挨拶した。


 「こんにちは。」


 「なんだお前、引っ込んでろ!」


 「あともう少しでこいつを倒せそうなんだよ!」


 元気よくあいさつしたからか元気のいい返事が返ってきた。まあ挨拶はほどほどにして本題に入るか。


 「あなたたちそろそろ帰ったほうがいいと思うよ。」


 「うるせえ!」


 取り付く島もないようだ。仲良く話すのは無理そうなので脅して解決することにしようと思う。どすの利いた声で不良達に問いかける。


 「こっちは7人いるんだ。あんたたちじゃ勝てるはずがないだろう。おとなしく帰れ!」


 不良達は舌打ちした後に黙って帰っていった。倒されていた不良達の歩みは遅かったので早く話を進めたい俺からしたら少し迷惑だった。でも満身創痍なのだから仕方ない。


 不良達の姿が見えなくなった。仲間たちは俺が何をしようとしているかわからず不安げな顔をしていたが俺にとって重要なことだということは理解している。


 だから無駄に騒ぐことをしない。空気が読めるいい奴らだ。鈴木とは全く違う。そこの中学生が黙っているのは息を整えているからだ。そろそろだいぶ回復したと思うので交渉を開始する。


 「大丈夫か?あんなにたくさん倒すなんて君すごいんだな。俺は火上だ。君は?」


 「・・・・・・火上?あんた下の名前はなんだ?炎人だったりするのか?」


 途端に険悪な雰囲気に辺りが包まれた。何故か俺の下の名前を知っている。嘘をつくべきかと悩んだが、協力してもらうのだったら嘘がない関係のほうがよさそうだ。返答は決まった。


 「なんで知ってるんだ?炎人で正解だ。」


 「この野郎!」


 少し震えた声で正解を告げたら、中学生はますます怒り出した。こんなやつに恨まれる覚えはないのだが理由を聞かなくては話にならない。


 「な、何か恨まれるようなことをしたか?もしそうだったらそれを教えてくれないか?」


 先ほどよりさらに震えた声で理由を問う。この中学生が不良を何人も倒しているのを確認したので相手が怒っているのが怖くてたまらない。


 「てめえがいじめてた秀太は俺の親友なんだよ!」


 ・・・・・・は?思考が止まる。あいつに友達なんていたのか。学校で孤立していた鈴木にも友達がいた。それが信じられなかった。


 「何ボケっとしてやがる!」


 いかん。会話を続けなくては。でももうこいつを仲間にするのは無理な気がする。親友をいじめている相手に協力してくれるとは思えない。


 それに少し怒りもわいてきた。あいつはまともな親がいて友達もいたのか。俺のほうが友達が多い。そう言って心を落ち着けようとしたが無理だ。どうせ協力しないのなら好き放題言うことにした。


 「ああそうだよ。俺は鈴木をいじめたさ!あいつがクラスで友達もいないし、弱そうだったからいじめたんだよ。でもな生意気なことに空手なんて習いやがって今では七人いようが、加虐の決闘者をけしかけようが倒すことが出来ねえ!でもあいつはこれからも孤立する。まともに人と付き合うことなんてできねえ!暴力しか取り柄のねえ奴なんだよ!」


 鈴木の親友とやらは急に叫び始めた俺を見て少し動揺しているのかポカンとした顔をしている。いい気味だ。


 「嘘だろ。あいつ佐藤に勝ったのか?」


 ・・・・・・驚いた理由はそっちなのか。というか佐藤のことを知っているのか?少し頭が冷めてきた。

 

 ただこのままでは鈴木の親友は鈴木が佐藤に勝つくらい強いと誤解するんじゃないか?それはいけない。あいつが勝ったのはあいつの実力以外も関係している。


 「・・・・・・鈴木の力だけじゃない。佐藤は連戦で疲れていたんだ。」


 今の俺の言葉には元気がない。鈴木が勝ったのが気に食わない。鈴木の親友は勝った理由を告げても驚いた顔をやめない。何に驚いているのか?


 「佐藤が疲れていようが、俺の知っているあいつなら勝つことはできなかったはずだ。なんでだ!」


 どうやら鈴木の親友の中では佐藤と鈴木の戦闘能力の差はかなりあるらしい。というかこいつは佐藤を知っている?・・・・・・まあ不思議ではない。こいつも喧嘩っ早いだろう。佐藤と戦ったことがあっても納得できる。


 俺は苦しげにうめく鈴木の親友に意地悪なことを言ってやった。鈴木の親友ってだけで腹が立つのだ。


 「お前は鈴木の全力を引き出せていなかったんじゃないのか?」


 「そんなことはない!俺は佐藤にだって勝ったんだ。強さは十分だ!」


 こいつ佐藤に勝っていやがったのか。佐藤は強いことで有名だったが勝てるやつはそれなりにいるようだ。俺の中で佐藤の株がガンガン下がっていく。そんなことより鈴木の親友の発言が気に食わねえ。


 「強いだけで人のやる気を引き出せるとでも思ってんのか!アホが!病院に行け!」

 

 相手が強いだけで戦闘意欲が上がるほど人間は単純ではないだろう。そんな当たり前のことを指摘してやると鈴木の親友は顔を下げて先ほどより小さい声でつぶやいた。


 「どうすれば・・・・・・本気のあいつと戦えるんだ?」


 そのつぶやきを聞いた瞬間、俺は閃いた。思考がさえる。俺は興奮を表に出さないように鈴木の親友にアドバイスをする。


 「あいつが本気を出すのは自分や仲間に危機が迫っているときだ。組み手じゃそれが足りないんだろうよ。」


 「・・・・・・そんな。じゃあ無理じゃないか。」


 弱弱しい声だ。さっき不良相手に大立ち回りを演じていたとは到底思えない。その弱さを俺は利用しなければならない。


 「簡単なことだ。お前が俺と組んで鈴木を追い詰めればいい。そしたら本気のあいつと戦えるぞ。」


 にっこり微笑んで俺は鈴木の親友に手を貸すよう要求した。鈴木の親友は、手を額に当てて悩んでいる。予想より説得は簡単そうだ。俺は笑い声を上げないように注意しなくてはならなかった。


 


 

 


 



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