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17、空手以外の技

 僕はいつも通り構えて、すり足で接近。佐藤も同じように近づいてくる。佐藤の前足での前蹴りが飛んでくる。狙いは僕の左足。


 来るのはわかっていた。佐藤は前足での前蹴りを多用する。リーチが長いし、すぐ打てる。相手が防御しにくい左足に当てて、怯んだところで次の攻撃につなげる。


 佐藤の異能ありきの戦術だ。強い痛みを与える佐藤の異能なら左足という急所ではないところに当てても相手のペースを十分に乱せる。


 それがわかっても佐藤の蹴りをよけるのは難しい。速いからだ。だが僕は避けてやる。僕は左足を後ろに引いて軸足を右足に入れ替える。


 佐藤の蹴りが空を切る。すぐに僕は右肩を前に出して、腕をまっすぐに伸ばして右ストレートを打つ。佐藤のみぞおちに右拳が突き刺さった。


 続けて腰を回して放った左の掌底で佐藤の顎を打ち抜く。腕を僕が引き戻したところで佐藤の左フックが僕の頬を歪ませた。


 「キエエエエエエエエ!」


 激痛で叫び声がでるが、動きは止めない。僕は前へと進む。拳を打つには近い間合い。だから肘を使う。腰を回転させて曲げて尖らせた肘を左方向へ向けて振る。


 僕は佐藤の頬に右肘を打ち付けた。続けてみぞおちに向かって左肘を伸ばす。佐藤のみぞおちに肘が食い込んだ。


 いける!勝ち筋が見えてきた。戦いの中で生まれた一筋の希望。それが僕の戦意を高めて集中力を研ぎ澄ましていく。


 思考がさえる、体がよく動く。こんなことは初めてだ。喧嘩の時は空手の組手の時よりも動きがよかった。危機感からそうなっていた。でも今は何か別のものが僕の心を動かしている。


 佐藤は後ろに三度跳ねて距離をとる。僕も佐藤を追うために高く跳んだ。空中で体を捻って横向きにして勢いよく右足を曲げ伸ばす。飛び横蹴りだ。


 難易度が高いから組手では使っていたが喧嘩では今まで使わなかった。でも今は喧嘩に関する不安から解放されていた。佐藤の顎を足の裏全体を使って吹き飛ばした。うまく飛び横蹴りを決めることができた。


 ふらついた佐藤から赤黒いオーラが消える。多分、ダメージが大きいので興奮できなくなったのだろう。僕はすり足で近づき、踏み込むと同時に左の掌底を真っ直ぐ顎に入れる。


 続けて右ストレートでみぞおちを穿つ。さらに左フックで腹をへこませる。佐藤は再度赤黒いオーラを噴出させる。


 顔には鬼のごとき表情が浮かんでいる。やる気はまだあるようだ。いつになったら尽きるんだろう?佐藤は前足での前蹴りを放ってきた。


 佐藤が前蹴りをする前からそれは分かっていたので、肘から手を回転させて前腕で佐藤の左足を払う。佐藤は足を払われた勢いで体が回転して僕に背中を向けてしまう。


 僕は腰を回して後ろ足を上げて半円の軌道を描く。僕のミドルキックが佐藤の脇腹に衝撃を与える。だが佐藤はバランスを崩さない。


 身体をこちらに向けて右足を瞬時に伸ばす。僕は驚愕した。背後をとったにもかかわらず、硬直せず次の攻撃につなげるとは!


 僕の腹に地獄のような苦痛が広がった。威力の高い蹴りをまともに食らった。涙が出て、構えも崩れる。


 「キエエエエエエエエ!」


 叫ぶ。叫ぶことによって気を引き締めなおすことを狙ったが痛すぎてどうしようもない。佐藤が僕に近づいてくる。


 僕にとっては今の佐藤は地獄の鬼と大して違いはなかった。赤黒いオーラも佐藤が恐ろしい存在であることの説得力を高める。


 くそ。あのオーラが止まれば。でも佐藤はやる気満々。興奮が冷めることは当分なさそうだ。佐藤は僕の顔に左ストレートをぶち込み、右ストレートでみぞおちを傷つけた。


 ・・・・・・さっきより痛くない。僕は佐藤が左フックを放つために腰を捻ろうとするのを見た。僕は左手を動かして佐藤の腕に押し当てて逸らした。


 佐藤の拳を見るとさっきよりオーラが薄くなっているのを確認できた。何故だ?疑問に思いつつ、続けて放たれた顔面への右ストレートを体を落としてかわす。


 体を落とした勢いを乗せて右ストレートで佐藤のみぞおちに打撃を加えた。佐藤の格闘技術は戦いを始めた時より良くなっている。見る限り強い興奮がそれを実現しているように思える。


 なのにオーラが薄くなっている?今までずっと濃かったのに?・・・・・・ずっと?僕は佐藤の腹に左フックをお見舞いすると同時に答えにたどり着いた。


 異能は体に取り込んだ超常因子を使用して引き起こされる。つまり体力などと同じく無尽蔵ではない。佐藤は異能を使用しすぎた。つまり異能の力が落ちてきている。


 これはいけるかもしれない。でも佐藤はさっきからやたら動きがいい。異能は限界が近づいていても、極限環境の中で普段以上の格闘能力を発揮している。


 油断したら負ける。僕は気を引き締める。佐藤の顔の前に掌底を打って視界をふさぐ。すかさず前足でのローキックを佐藤の左足にぶつける。


 佐藤はひるまず左拳を前に突き出す。だがな、お前がやる前からそれはわかってんだよ。僕は左手で佐藤の手首をつかんだ。


 思い切りこちらに佐藤の手を引っ張った。佐藤の体が引き寄せられる、僕は腰を回転させて右肘を急速に横に振った。佐藤の頬に僕の肘を食い込ませる。


 追撃だ。この間合いは僕には有利だ。一気に決める!そう思った直後、腹に強い衝撃が加わる。佐藤の膝が僕の腹を強く押している。


 あいつ、今までこの間合いに入られたら対処できなかったのに。やはりピンチは人を強くするということか。


 僕は膝蹴りの衝撃のせいで後ずさる。佐藤は攻撃の手を緩めない。前足での前蹴りを放ってくる。そう来ると思っていた。佐藤の前蹴りは速い。避けるのは難しい。だから避けるのをあきらめた。


 戦闘のときに人間は自分が慣れている技を使う。妥当だ。だけど読みやすい。僕は蹴りだされた佐藤の足首をつかんで引っ張る。


 佐藤はバランスを崩して地面に背中をつける。僕は馬乗りになって佐藤の顔に拳を振り上げてたたきつける。佐藤は身をよじって何とか抜け出そうとする。


 マウントポジションでの鉄槌打ちだ。総合格闘ではよくつかわれる。僕は空手をやっているが、別に空手の技しか使えないわけじゃない。喧嘩では馬乗りになるなんてよくあること。


 佐藤は異能と習熟した空手の技術で大抵は何とか出来たのだろう。つかまれる前に倒す。空手家など打撃技を得意とする者の理想だ。


 でも僕はそんな理想通りにはいかなかった。だから空手以外の戦い方も身につけることになった。もちろんしっかり先生から習った空手の技のほうが使用頻度も練度も高い。


 だけど有効なら稚拙な技でも使う。僕は佐藤の顔面を殴打し続ける。何発か入れると佐藤の体から力が抜ける。


 ・・・・・・勝った。勝ったぞ、うれしい気持ちが止まらない。山田と森田と戦って疲れていたというのもあるが、それでもいちおう勝ったのだ。自然と喉の奥から声がせりあがってくる。


 「キエエエエエエエエエエエエエエ!」


 のどが痛くなりそうだが、今の僕には関係なかった。狭い体育館裏を僕の雄たけびが埋め尽くした。



 


 




 


 


 


 

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