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16、現実を見たら正気を失った

 森田はみんなの目線が自分に集中しても全く動揺していない。僕はめちゃくちゃ驚いているが、僕よりも森田の出現に驚いている人がいる。


 「考・・・・・・。なんでここにいるんだ?」


 佐藤である。佐藤の赤黒いオーラはすでに無くなっている。佐藤は頭を掻きむしって息を何度も吸ったり吐いたりする。佐藤は静かになった。ただ周囲はうるさい。


 「誰、あいつ。」


 「なんで佐藤、慌ててんの?殴ればいいじゃん。」


 「部外者だし、俺たちが始末するか?」


 暴力をふるうという選択肢が出てくるのが早すぎる。周囲の不穏な会話を聞いて佐藤はさらに慌てた。体をゆすりながら佐藤は叫んだ。


 「ちょっ、ちょっと待て!ま、ま、まずある程度話す!」


 少々聞き取りにくいが、大きな声なのでみんなの耳にその声は届いた。ただし心には響いていないようだ。


 「えー、時間ないだろ。」


 「殴ったほうが早くね?」


 「面倒くせえなあ。」


 「やっちまえええ!」


 佐藤の意見に賛成する者がいない。人望ないのかな?佐藤が周囲の反応を把握して、まなじりを上げた。再び異能が発動する。


 「安心しろ!話してからでも十分早く終わる。」

 

 野次馬共は顔をしかめながらだがある程度、文句を言ったり議論をしたりしてから口を閉じた。静かになったのを確認してから佐藤が森田に問いかけた。


 「森田、何をしに来たんだ?そもそもどうやって気づいた?」


 森田に対する呼び方が苗字に変わったな。名前で呼ぶのは後ろめたいということか?いや待て。いまは森田がどうやってここに来たか?そっちのほうが重要そうだ。


 「荒っぽい奴らが体育館のほうに向かうのを見た。不思議に思ってついてったらお前らが喧嘩してんだ。だから止めに来た。」


 荒っぽい奴の行動に注意しているところに森田の危険に関する意識の高さがうかがえる。佐藤は森田の発言を聞き終わると、ため息を吐いて面倒くさそうにつぶやいた。


 「帰ってくれ。」


 「嫌だ。」


 端的だが明確な否定の言葉。そもそもこんな修羅場に来ている奴が帰れと言われたぐらいで帰るわけがない。それにとどまらず森田は発言を継続した。


 「剛太、もうお前疲れてるだろ。そこまで戦いたいわけじゃないんじゃないか?」


 「・・・・・・そんなわけねえだろ!戦いたくてたまらねえに決まってんだろお。」


 そうなのか?僕にはその言葉の真偽がわからん。空気読めないからな。しかし森田はそうではないらしい。


 「嘘ついてんの、丸わかりだぞ。馬鹿でもわかる。」


 僕はわからなかったんだが。周囲を見るとうなずいている奴がちらほら見える。僕、人の嘘を見抜くの下手すぎだろ。僕が少し落ち込んでいると森田は佐藤に向かって指をさしながら叫んだ。


 「どうせ、お前のことだ。頼まれたから断れなかったんだろ!お前は利用されてんだよ!」


 「そんなことはない!」


 佐藤が激高する。頼んだとしたら火上だろう。火上なら僕をいじめるためなら手段を選ばない。それくらいするかもしれない。


 「火上は言ってくれたんだよ。鈴木がそれなりに強いからきっといい経験になるって。それにそんな強い奴を倒してくれたら尊敬しちゃいますってな。だから鈴木と山田を限界まで追い込んでくれってな!そしたらさ可愛い後輩にちょっといいとこ見せちゃおうってなるだろ!」


 こいつ・・・・・・。これは僕でもわかるぞ。佐藤はとんでもなくちょろい。佐藤の衝撃的な暴露に火上は頭を抱えている。森田は拳を強く握って、大声で言った。


 「ダメだって、火上絶対ろくでもないからやめとけって。お前だって本当は気づいているんじゃないのか?火上に言いように使われてるって。現実から目を背けてんじゃねえ!」


 佐藤の目から少しだけ涙が出る。頭をかきむしり。森田のほうを見てうなっている。顔は真っ赤だ。そして体から適度に力が抜けていく。


 佐藤は構えをとってすり足で森田に接近。ブチ切れてしまったようだ。森田も即座に構えをとる。しかし構えたばかりなので佐藤の前足での前蹴りに対処できなかった。


 森田のすねに佐藤の靴がぶつかる。森田は大きな悲鳴を上げる。しかし体は硬直しない。森田の左ストレートが佐藤の顎に衝撃を与える。


 佐藤は反撃にひるまず、左フックを森田の頬に炸裂させる。森田は大きな悲鳴を上げるが戦いを止めることはなかった。


 そこからどれくらいの時間がたったのだろうか。昼休みが終わってないことを考えると少ししか経っていないのだろう。でもそうとは思えないほどに時の流れが遅く感じた。


 森田は何度殴られても立ち上がったが、先ほど限界がきて地面に崩れ落ちた。佐藤は途中から異能を止めてしまっていた。森田の根性に驚いていたのか?


 佐藤は肩で息をしながら、僕を凝視して構えをとった。まだやる気か?僕には佐藤の正気を疑った。佐藤はつぶやいた。


 「やるぞ。」


 やる気らしい。佐藤は火上に利用されている。森田にそう言われたのにまだ現実から目を背けているのか?森田があんなに必死に伝えてくれたにもかかわらずか。それを考えたら自然と言葉が出てきた。


 「森田先輩はあんたが空手部をやめた後もずっと心配してたぞ!いつか強くなったらあんたと話がしたいって言ってた。でも今、先輩は強くなる前にあんたの前に現れた。先輩が勇気を出したのにあんたは自分の殻に閉じこもってるままなのかよ!」


 「あああああああああああああああああああああ!」


 僕の説教を聞き終わった佐藤は赤黒いオーラを噴出させて天にに向かって吠えた。眼は限界までかっぴらかれ、顔は真っ赤だ。正気を失ってしまったのだろう。これは戦うしかなさそうだ。


 山田は僕が負けた後に代わりに戦って善戦したし、森田は勇気を出して佐藤を止めに来た。二人とも覚悟が決まっていた。僕も覚悟決めるとするか!



 


 


 


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