15、ゴミなりに葛藤
佐藤と山田がお互いを睨みながら構えをとった。二人の準備が終わったことを確認した火上が叫びながら手を振った。
「はじめええ!」
山田の左目が緑の光をまとった。その直後、山田の右手から緑色の風が佐藤の顔に向かって放出された。佐藤は目を開けていられない。
山田はその隙を逃さず、右の掌底を突き出して佐藤の顔を攻撃する。さらに左の掌底を顔にぶつけることを試みる。
佐藤は顔に狙って伸ばされた山田の左手をつかんだ。今、目を開けたばかりだ。状況を把握してすぐに行動を移せる。なかなかできることじゃない。佐藤は山田の手を強く握った。
「アアアアアアアア!」
いやに扇情的な絶叫が周囲に響く。あの異能、握るときでも痛みを増幅させられるのか。佐藤の攻撃は握るだけではない。山田の手を放さず、空いているほうの手で山田を何度も殴打する。そして一部の野郎どもは山田の痛がる姿に熱い視線を送っている。
「いいねえ。本当に男か?すごい興奮する。」
「いい声だ。もっとやれ!佐藤!」
「可愛いいいいい!」
この変態どもが!どうしよう、このままでは山田の心が壊れる。だが山田は諦めない。右手で異能を使い佐藤の顔に風を浴びせた。
すぐに佐藤の手を振りほどく。佐藤はすぐに目を開ける。再び山田は佐藤の顔に風を吹きかける。佐藤の動きが止まった。
すかさず山田は前足をまっすぐ降るように佐藤の股間を蹴りつけた。だが佐藤は山田を睨みつけ、山田が足を引き戻した瞬間に奥足での前蹴りを腹に入れた。
おそらく興奮しているので股間を蹴られても佐藤にはあまり痛みがなかったのだろう。対して山田は痛すぎて声も出ず、腹を抑えている。呼吸も乱れ、目には涙がにじんでいる。
一部の野郎どもの呼吸も激しくなっている。顔も赤くなっている。こいつらも股間を蹴られるべきだと思う。
佐藤は山田に一歩踏み込んで、右ストレートを顎に入れる。山田はふらつきながらも風を連続で放出。佐藤は風が顔にかかるのを恐れて接近できない。
山田はふらつきながら後ろに下がって距離をとった。ある程度の距離をとっても山田の風は届くが、佐藤の攻撃は当たらない。
悪い手段ではない。でも言い換えれば距離を詰めることが出来れば佐藤は勝利する。佐藤は勝ちを譲る気はないようだ。
佐藤は不規則な動きで接近する。すり足を使った速くて予想しにくい移動だ。山田は風を何度も放っているがまるで当たらない。
徐々に佐藤と山田の距離が縮まっていく。山田は異能を発動させると同時に、佐藤のほうに突っ込んだ。異能に注意を向けさせた後に素手での攻撃を狙う。
そんなところだろう。佐藤は山田の掌底をかがんで回避。そこから流れるように右ストレートを山田のみぞおちに刺し込んだ。
痛みに苦しむ山田に佐藤は連続攻撃を仕掛ける。腹への左フック、少し下がってからの奥足での前蹴り。
「アアアアアアアアアアアア!フーッ、フーッ。ハアハア・・・・・・。」
僕はどうすればいい仲間がやられるのをさらに見なきゃいけないのか。俺がもう少し粘って勝つことができていたら、山田は苦しまずに済んだかもしれない。
今からでも僕が変わったほうがいいのか?でもあの痛みは・・・・・・。どうすればいい?僕は交代を真剣に検討した。
その時、山田は後ろに跳んで緑色の風を吹かせる。距離をとりつつの牽制。発想は変わらない。しかし規模は違っていた。風の大きさが数倍は上だ。
佐藤の体が少しぐらつくぐらいだ。嘘だろ?山田も一瞬、自分がやったことを見て驚いた顔をしている。
だがすぐに表情を戻した。もう一度、風で佐藤のバランスを崩す。そしてすり足で近づき、右の掌底で佐藤の顎を振動させる。
佐藤はすぐに山田の足に左足での前蹴りを入れる。山田は小さく悲鳴を漏らす。佐藤が追撃のためにつま先を内側に引き込む。
パンチを打つつもりか?動きが速いな。次の瞬間、緑色の風が佐藤の顔に噴射された。・・・・・・山田の異能発動のほうが先だったようだ。前より発動時間が短くなってる。
山田はすかさず佐藤の顎を掌底で打ち抜いた。続けて手を佐藤の顔に向ける。風で再度、攻撃の妨害をするのだろう。
だが佐藤は風が吹く直前に首を横に軽くひねる。緑色の風が佐藤の顔の横を通過する。山田は何度も後ろに跳んで距離をとる。
佐藤もすり足で接近。追ってくる佐藤に対して、山田は地面に足をつけた瞬間に風を放った。手がぶれていたので佐藤の顔には当たらなかった。だが胴体には直撃し、佐藤の姿勢を崩す。
少しの間、動きが止まった佐藤は山田にみぞおちを右ストレートで打ち抜かれる。佐藤はすぐさま、つま先を内側へと移動させる。右ストレートをお返しするのだろう。
山田は右拳を引き戻せていない。山田は右手からしか風を吹かせられない。右拳を顔に向けられない今、佐藤の顔に風は当たらない。
これは当たる!そう思った時、山田が佐藤の顔に左手から出した風を浴びせた。佐藤の表情が驚愕に染まる。鏡がないからわからんが僕も同様であろう。
やはりこれは異能のレベルが上がっているということだろうか?おいおい、この前上がったばっかだぞ。なんか先生から説明されたような気がするが、異能は脳の動きと密接な関係がある。
なんかピンチの時に脳がよく動いて、そのおかげで異能が強くなる?だったっけ?僕は頭が悪いからよくわからんがそういうことだろう。
驚いて動けなくなった佐藤の顎に掌がぶつかる。同時に佐藤の拳の赤黒いオーラが消えた。佐藤が興奮しているときは自動的に発動する異能のはずだ。驚きすぎて興奮が冷めたか?これは勝てるかもしれん。
僕はそう期待して山田の顔を見た。まずい。山田の左目の光が弱くなってきている。つまり山田の左目の視力が下がってきている。
さっきから山田の異能は僕の予想を超えているが、流石に目の光に関する機能はそのままではないだろうか?
僕の不安は的中してしまった。佐藤の左フックが山田の腹にめり込んだ。左目がよく見えないから左フックは避けづらいだろう。あと痛みを与える赤黒いオーラがなくても攻撃されたら少しの隙ぐらい生まれる。
佐藤はそれを見逃さない。即座にみぞおちに右ストレートを命中させ、追加で頬への左フック。山田はたまらず風を噴出させる。
佐藤は即座にかがむ。風が佐藤の真上を通り過ぎる。その時、佐藤の拳と足が再び赤黒いオーラに覆われる。
くそ調子が戻りやがった。山田は佐藤の拳を凝視してしまう。敵の調子が戻ったんだから当然だ。かがんだまま佐藤は山田のみぞおちに左ストレートを突き込んだ。
山田が息を大きく吐き出して顔をゆがめる。続けて佐藤の左拳が半円を描き山田の左頬を強く打った。さらに容赦なく繰り出された右フックが腹を圧迫する。
山田は後ろに跳んで下がると同時に突風を吹かせる。佐藤の体が揺れる。山田は少し距離を詰めて左ストレートを打った。
しかしその左ストレートは当たらなかった。距離が遠すぎた。山田は左目が見えないせいで距離を把握しきれていなかったのだ。
佐藤は一歩地面に踏み込むと同時に左フック。山田の腹をへこませる。山田は糸が切れた人形のように地面に倒れ込んだ。
左目の緑の光も消えて目が黒くなっている。しばらく異能は使えない。体力も限界だろう。なのに山田は地面を手で強く推している。戦闘でのダメージのせいで力が入っていないがそれでもまだ立とうとしている。
山田がこんなに頑張っているのに僕は勝利をあきらめた。僕はゴミだ。昔から自分でもそう思っていた。でもこうして現実を突きつけられるとやはりつらい。
ゴミをやめなくては、いや昔からゴミだったのだ。もうごみであることは当たり前なんだから気にしなくていいのではないか?そんな見苦しい言い訳が頭をよぎる。
結局痛いのが怖いから動きたくないだけなのだ。佐藤は山田をしばらく見下ろした。それからこちらに目線を向ける。また戦わされんのかな?
もういいだろ。あいつ疲れないのか?いやすこし息が上がってる。戦力差が離れているとはいえ万全じゃない状態で戦おうとする。少し不自然だな?いやあいつがいかれてんのか?
「鈴木、もう一回戦え。」
いやな予感が的中した。もう勝ち目ないから本当にやりたくないんだけど。嫌すぎて頭がおかしくなりそうになった。あー昼休み終わんねえかな?
「ちょっと待ったああああ!」
誰?その場にいる人全員がいきなり聞こえた大声の方向に顔を向けた。・・・・・・嘘だろ。あんたはまだ立ち向かうことができないって言ってただろ。森田。




