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11,殴り合う日常

 山田と一緒に空手部に入ってから一か月がたった。毎日、山田と一緒に火上達と殴り合っている。火上達には全く勝てないがな。七人もいるから仕方ないか。


 山田はあれから吹っ切れたらしく全力で火上達と殴り合っている。いつかあいつらに勝てる日が来るかもしれん。


 ただ山田は空手を始めたばかりだから動きが拙い。一応山田に異能がどれくらい使えるか聞いたが、そよ風を吹かせるぐらいしかできないらしい。六級でもそれぐらいできるやつは多い。


 僕は何もできないけどな。少し寂しく思えたが、そんなこと気にしていられない。そよ風を吹かせるくらいだったらそんなにうれしくないだろ。


 いや待て成長するかもしれない。でもそこまで考えるときりがない。やめよう。俺は昼休みに佐々木に話しかけていた。佐々木とはよく話してトークアプリでフレンド登録をするくらいの関係にはなっている。


 「佐々木さん最近やせた?」


 「うん。寮のご飯が健康的だから。安く買える炭水化物ばかりでないからいいよね。」


 話す話題を間違えてしまったようだ。これで何度目だろう。佐々木は少しやせた。まだ少し肉が多いが健康的な体型になるのは時間の問題な気がする。とりあえず話題を変えよう。


 「佐々木さん社会の授業でいつも積極的だよね。」


 「私、あの授業には問題があるとも思うの。」


 「はい?」


 「アクティブラーニングといわれる授業形式はスピーチや班のメンバーとの対話が重要。時間がかかる。なのに授業で行う内容を減らさない。それじゃあ内容を消化しきれないよ。あとコミュニケーション能力が低い人は授業に混じれず、置いて行かれちゃう。他にも・・・・・・。」


 わお。難しい話が始まった。こういう時に空手ばかりやってた後悔するんだよな。佐々木が社会について話している時に俺は時間の使い方を考えていた。そろそろかな。時計を見た。あー。もうこんな時間か。


 「鈴木 秀太君いますかー。」


 みんなの表情が変わり。僕をじっと見つめる。あー、はいはい行けばいいんでしょう。僕は扉を勢い良く開けて教室を出た。


 「ひうええええええええええ!」


 耳がちぎれるような大声で叫んだ。しかし廊下に今いる人は誰も気にしていない。もう日常だからな。僕の声に混じって歩く音が響く。


 「鈴木さん。今回もやりましょう。」


 山田だ。声に恐怖を感じさせない。あいつもこの一か月ですっかり染まったな。火上とその仲間達はにっこり笑う。僕たちの戦いの火蓋が切って落とされた。


 負けたな。悔しい。マジで悔しい。首を掻きむしって天に向かって叫びたい。この一か月、僕達は逃げずに戦った。逃げられないこともないのだが、そしたらいつまでも昼休みは落ち着かないものになる。


 それは小学校で痛いほどわかったので開き直って逃げないことにした。勝てば相手も怖がって暴力を振るわなくなるかもしれんしな。


 クラスのみんなも最初は熱心に僕を教室から追い出していたが、僕が諦めておとなしく教室から出ていく用になると少し穏やかになった。ふざけるなよ。


 アクティブラーニングとかいう勉強が出来るやつとできない奴が見るだけで分かりそうな授業をぼーっと過ごす。


 教域は国が最先端の教育を施すと謳っているが要するに国の都合のいいように授業が行われるということだろう。これは佐々木の受け売りだが。


 アクティブラーニングって経済界のお偉いさんがもっと使える労働力を用意しろと言った。そのために私達が考えた最強の育成法を使え。そんな風な感じで始められたらしい。これももちろん佐々木の受け売りだ。


 佐々木の説明の仕方は悪くないように思えるが、それでも僕には理解が難しい。なので自分の頭で佐々木の言ったことを考えられない。よって佐々木の意見をそのまま受け入れがちだ。


 マジで勉強しておくんだったな。授業の内容がよくわからん。でも勉強している暇があったら強くならねば。どうせいじめられながら勉強しても頭に入らなそうだ。


 そんなわけで放課後、極真空手部に顔を出す。森田が空手着を着て待ち構えていた。僕に近づいてきて声をかける。


 「やろうぜ。」


 勝った。森田は四つん這いになって激しく呼吸を繰り返す。森田の疲れが取れるまで他の部員と組み手をした。そちらも勝った。ある程度疲れが取れたのか森田が話しかけてきた。


 「お前本当に強いよな。」


 「もっと強くなりたいです先輩。今のままではあいつらに勝てないです。山田が強くなるのを悠長に待っていられません。僕も強くなりたいです。なんか火上も少しずつ強くなっている気がするし、前より素早くなったような。火上の取り巻き共だってまあまあ連携が取れるようになってきました。あとは・・・・・・。」


 「話しすぎだぞ。」


 またやってしまった。森田がため息を吐いて頭に手を当てている。とりあえず一旦黙るか。森田が話を再開する。


 「火上って赤毛のやつだろ。ボクシング部に入っていると聞いた。一回近くで見たが、確かにそいつは山田よりは強そうだった。ただ取り巻き共は一対一なら山田でも勝てるかもな。鈴木が六人相手にして負けて。そのあとに山田に残った敵が殺到して負けるって感じか」


 「えっ、なぜ。・・・・・・そうですよ。よくわかりましたね。」


 森田の真剣な表情での解説。あいつボクシング部に入っていたのか。戦闘の状況の解説はおおむね正解だ。


 どうやったらそこまで詳しく分析できるのか。僕は首を傾げた。納得のいかない森田は得意げに話した。


 「鈴木は入ったばっかだから知らないだろうが、俺は見ただけで人の強さがざっくりわかる。」


 「い、異能?」


 「おいおい俺は六級だぜ。これは異能じゃない。俺は昔から危機に敏感だった。だからだろうな。」


 本当かよ。そのほうがやばい。僕も空手を始めて六年くらいだが人の強さを見積もることはできない。弱そうな人が実は強かったりするし、その逆もある。なのに・・・・・・。


 「だが強さがわかるってのはいいことじゃない。そのせいで・・・・・・。俺はいまだにあいつに挑めないんだからよ。剛太を遠くから見るたびに無理だって感じる。」


 佐藤 剛太のことか。森田は強さが見えるから、自分が負けることがわかる。だから挑めないのか。そこで僕は気になった。


 「先輩は異能を含めた戦闘力を測ることはできますか?」


 「それはできないと思う。俺が剛太に挑んでない理由は異能なしでも俺はあいつに勝てないからだ。純粋な格闘でも勝てないのに戦闘向きの異能を持ったあいつには挑むことすらおこがましい。」


 森田は諦めたような顔をしてそう言った。その声にはどこか元気がない。空気の読めない僕でもそれぐらいはわかった。


 


 


 



 






 

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