第6話 弟子のアルベール
「わしの名はイズミ・ロードウェルじゃ。お主の名は?」
「アルベール・シュヴァイクです」
成り行きでついてきてしまったがどうしよう?
「ではアルベールよ。立ち合おうではないか」
「え?」
ロードウェルさんの家の隣にある道場にて木刀を構えるロードウェルさん。なんの説明もなしでついていけない俺。
「あの……なんのつもりですか……一体なにをしたいんですか?」
たまらず問いかけた。するとロードウェルさんは静かに答えた。
「……わしの妻は困ってる人を放っておけん性分でな。妻が生きておればそんな酷い顔をしたお主を放っておかんと思っただけじゃ……」
「……ひどい顔……」
「他者へ怒り……そんな感情を抱く自身を嫌悪し……人生の歩み方に苦慮している……そんなところじゃろう?」
「……そんなに顔に出てますか……」
言い当てられた気がした。心を見透かされた気がして俺は恥ずかしい気持ちになった。
「言うたじゃろう?お主はわかりやすいとな?」
その言葉の後に俺も立ち上がりロードウェルさん木刀を取りに行き構える。
「刀を振るう時が一番己と向き合える時とわしは思っておる。心に迷いがあるのならお主も刀を振るえばよい。 ゆくぞ……」
「はい」
俺は魔法は使わないと決めた。これは勝ち負けではない。ロードウェルさんは俺の心の苦悩を読み取って指南してくれているだけだから。
「(刀は素人だけど俺だって3.000年近く魔物を狩り続けてきたし森に侵入する人間を相手にしたこともなんどもある。魔法を使わなくってもある程度は戦えるはずだ)」
そう心の中で高を括っていた俺。決して目を離したつもりはない。その動きを見逃さないように注視していたつもりだったが・・・
トン
「わしの勝ちじゃな?」
いつの間にか俺の首筋にロードウェルさんが木刀を置いていた。これが真剣なら俺はここで死んでいたことになる。
「なんで……俺は目をそらさなかったのに……なんの気配もしなかった……」
またロードウェルさんの気配を感じることができなかった。
「すまんのう……わしはこうしてお主に刀術を指南する以外にやり方を知らん……どうする?」
「……ロードウェルさん……いえ!師匠!俺に師匠の刀術を教えてください!」
俺は勢いよく頭を下げた。その頃にはすっかりヒューマンに対してとかは頭になかった。人は何かに没頭している間は悲しみを忘れることができるから。だけどそれは根本の憎しみが消えてなくなっているわけではない。
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道場にて瞑想。己の心を見つめなおすための精神の修行。
「(あの時……俺がみんなの近くにいれば結果は変わっていたのだろうか……1人で突出することがみんなを守ることにつながると思っていた。でも結果は俺以外が死んだ……あの時の判断は間違っていたのか……俺は……みんなを殺す判断をしたのか……)」
思考はどんどんと沈んでいく。悪いほうに悪いほうに考えてしまう。
「……呼吸に集中しなさい……」
瞑想している隣に師匠が来て現状の俺を見透かしたかのようにそう声をかける。
「嫌な思考を頭をよぎればそれを受け入れて呼吸を戻る……振り払おうとしなくてよい……何度でも呼吸に戻ればよい……」
「すうー……ふうー……」
師匠の言葉通りに呼吸をすると先ほどまでの思考がリセットされた。
「過去を思考し……"ああすればよかった"と"こうすればよかった"と考えること自体は悪ではない……しかしそこに没入し過去の世界へ留まるのは適切ではない……アルベールは今を生きているのだから……」
「……ありがとうございます……」
俺は師匠と木刀で打ち合いながらも瞑想で己を見つめなおしていた。それもやはり根底にあるのは異世界に転生したからにはこの世界を楽しみたいという前世の純粋な心。
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--20年後--
カンカンカンカン!
「く……っ!」
「まだまだ力が入りすぎじゃな。脱力こそ我が刀術の真髄じゃよ」
「はい!」
俺は師匠と打ち合っている。この20年で数えきれないほどに師匠と打ち合っているが同じように軽くあしらわれ続けている。
「師匠……俺は成長できているのでしょうか……やはりエルダーエルフは刀術にしても成長は遅いということでしょうか?」
訓練中にもかかわらず俺は足を止めてつい師匠にそう尋ねてしまった。
「ほっほっほ。悠久を生きる種族にしてはせっかちじゃのう?」
「……昔によく言われた言葉です……」
俺は久しぶりに似た言葉を言われて昔のことを思い出した。
「……わしが生まれたのは今は亡き小国アトゥミ国。そこで刀を握り90年以上。お主が成長を実感できんのはわしが同等に成長しておるからじゃよ……」
「ははは。その年でいまだに成長するとは……さすがは剣神イズミですね」
「ほっほっほ。わしもまだまだ現役じゃよ。とはいってもお主はそろそろわしとは違う剣士と戦うべきじゃな」
「……それって……」
そういうと師匠の雰囲気が一気に急変。冷や汗が流れるほどの圧力を感じていた。
「……構えよ……」
師匠から感じる尋常ではない圧。それは今までは見ることのなかった闘気を発動しているからだと今になって気づく。
「(なんて洗練とされた闘気……まるでそこに流れるのが当たり前かのように……気づくのが遅れた)」
その本気の師匠を見て俺も無詠唱ながら雷迅を使用した。
バチンッ!
「……行くぞ……」
「……はい……」
両者ともに身体能力を向上させる術を用いての立ち合い。俺の雷迅はいまや雷の速度を軽く超えたものがある。
「(これを発動して速度で負けはしないだろう。だけど師匠ほどの人物なら速度を上回る相手への対処も取得済みなはず……どう動くべきか……)」
俺はこの20年で師匠・剣神イズミの下でその剣を受け続けてきた。巧みな剣術や気配の殺し方も見て学んできた。師匠の剣は知っていると思っていた。だがそれはとんだ思い上がりだと理解させられた。
トン
「……まだまだじゃのう……アルベールよ……」
俺は気が付かないうちに首筋に木刀を差し込まれていた。まるで師匠に弟子入りを願ったあの時のように。
「噓だろ……俺が……雷迅を使用した俺が……」
雷迅を使用していながらその動きを一切とらえることができず殺されるまで気づかなかったことに俺は驚きを隠せない。
「これが……技術、じゃよ……アルベール……。 悠久を生きるお主なら……いつか……わし以上に……影抜や………………朧抜を…………習得するじゃろう………………」
バタン
「師匠……!?」
突如として師匠が倒れこんだ。近づき抱きかかえる。
「アルベール………………憎しみは………………そのまま持ち続ければよい………………それが………………アルベール・シュミットなのだから………………ありのままの自身を受け入れるんじゃ………………闇を恐れるな………………お主は数多の光に………………守られておる………………」
「師匠!師匠!」
これが剣神イズミの最期となった。俺はまたしても大切な人を目の前で失い孤独となった。
「師匠……俺を……どうかお守りください……」
俺は師匠のみんなの光を信じ新たな一歩を踏み込んだ。
影抜:短距離高速移動術。まるで瞬間移動したこと錯覚するほどの速さでの高速移動。しかし大事なのはそこではなく音や気配など一切を消し去り相手に技の始まりを悟らせない。
朧抜:神速の居合術。影抜を使用したそれに相手は死んだことを殺された後に知る。
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