最終話 エピローグ
ティターンとの死闘を制して一ヶ月後。
火山ダンジョン《オリュンポス》があった西の平原とその周辺は溶岩によって悲惨な状況になっていたが、四大国の協力により魔法の力で大部分が元通りになっていた。
驚いたのは死亡者がゼロだったことだ。みんなの迅速な対応が功を奏したのだろう。本当に良かった。
俺も勿論協力して媚を売っといた。その後、落ち着いたのを見計らって、ようやく自分のダンジョンに戻り、スローライフの続きを満喫している。
共に戦った仲間達はどうなったかというと。
まず、クロノス王国第一王子セイドは王国に戻ると、上流階級の忙しない政務に追われていた。時折、俺のとこに顔を見せては王族貴族の愚痴をこぼしている。
天翔剣士ブリューナ、風魔導士ジャギル、憤怒のダルダなどのS級冒険者達は無限に湧いてくる魔物を狩って過ごしている。
聖女ステュクは俺のダンジョンでヴァルトラント聖王国の大使を続けながら、祖父エクレシオンとカフェ&バーを経営している。
雷帝ゼウは、また旅に出て各地で俺の武勇伝を語り回っているらしい。変な噂を流すんじゃねぇぞ。
怪盗ハデスは『理想郷は門の向こうではなく、内側にあったんだ』と俺のダンジョンを絶賛して、ウチでレーズンバターサンド屋を営んでいる。初めからやっとけよ。
邪姫アガペーは相変わらず俺の側にいて、家事や炊事を卒なくこなす完璧な嫁と化していた。
ケルベロスは外交官として各国に尻尾を振りつつ、本体は俺のダンジョンで自由に過ごしている。
それからプスプス族のトップになったまつ毛の長いマツゲーノと、同じくトップになったナビビ92号(通称クズ)は意外にも真面目に働いていた。まぁ、俺が小型化を覚えたおかげで監視できるようになったってのもある。
こんな感じで、みんなそれぞれの人生を楽しく謳歌していた。
「ふぅ、いい湯だなぁ」
俺は今、農作業を終えて温泉に入っている。疲れた体によく沁みるぜ。
まったりしていると、緑髪の精霊ガイアが出現した。そういえばコイツもいたな。忘れてた。
「アシュラ様」
「うん?」
「そろそろネタバラシしてもよろしいですか?」
「え? どういうことだ?」
「実はあなたを転生させたのは私なのです」
「えぇ!? 嘘だろ!?」
「MMORPGの《ティタノマキア》は、この異世界を模して作られたものだったのです。理由はティターンを討伐できる者をみつけるため」
……まだ頭の整理がつかないし、よく分からない。俺は必死にガイアの話に耳を傾ける。
「この異世界にある予言の書には間もなくティターンが現れて大陸を滅ぼすと書かれていました。そこでMMORPGを作り、英雄を探すことにしたのです。一種のシミュレーションとしてティターンを倒せる者を。しかし、残念ながらティターン実装直後にタイムリミットが来てしまい、サービス終了せざるを得ませんでした」
なんだクソゲーだからじゃなかったのか。正直ゲームとしては微妙だったからな。俺は楽しんでたけど。
「マジかよ……。なんで俺が選ばれたんだ?」
「エンドコンテンツまで辿り着いた者で、純粋で優しく、また与し易そうな者。噛み砕いて言うとバカそうだったからです」
噛み砕きすぎだろ。
「冗談ですよ。本当はあなたのプレイログを見て初心者に優しくしていたり、悪辣なムーブをしていなかったのを見て安全な方だと確信したからです。世界を救うには心が綺麗な人でないといけませんからね。あ、あとあなたの寿命が近かったというのもあります」
最後の一文なんだよ。ホントはそれが一番の理由だろ。
「アシュラに転生させたのは?」
「正確にはヘカトンケイルですね。ティターンを倒すために最適な個体だったのです。アシュラに擬態させていたのにも理由があります。あなたがいくら安全な存在とはいえ、人の心は変わるものです。だから転生させてから様子を見る必要がありました」
ふむふむ。
「そこで転生体に最弱レイドボスのアシュラを選び、玉座から出られないようにして心身共に追い込むことにしたのです。人間は極限の状況に置かれれば本性が出ますからね」
確かにそうか。
「私が非協力的だったのもそのためです。ただ、半分くらいは楽しんでましたけどね」
だいぶ楽しんでそうだったけどな!
「転生させるのは、かなりの賭けでした。転生魔法は、異界の人間にしか使えない上に、今までに亡くなった精霊の魂を膨大に消費するので何度も使用はできません」
なるほどなぁ。……もし初めから事実を伝えられてたらどうなってただろう。多分、プレッシャーでメンタルやられてたかもなぁ。
ガイア視点から見ると、俺が小型化した瞬間に手のひらを返すかもしれないし、言わないのが無難な選択だったんだろうな。
「とにかくこれで解決したってことでいいんだよな?」
「はい。ありがとうございました。あなたはティタノマキア大陸を救った伝説の英雄です」
ガイアが悪意のなさそうな笑顔を浮かべる。
色々あったけど、どうにかハッピーエンドを迎えられたわけだ。
俺は三つの顔に安堵の笑みを浮かべ、温泉に体を肩まで沈めた。
その後、温泉を堪能し終わった俺は玉座の間に戻った。すると、ガイアがまたしても木の葉を舞い散らせながら現れる。
「アシュラ様。報告があります」
「な、なんだよ」
嫌な予感がして少し言葉に詰まる。
「大陸の外から勇者と名乗る者が現れました。どうやら“魔王アシュラ”とその配下である四天王が支配するこの大陸を救いに来たようです」
へ、へぇ。俺と同名の敵がいるんだぁ……。知らなかったなぁ……。
「し、四天王って?」
「禁断の花嫁アガペー、暗黒雷帝ゼウ、影怪盗ハデス、悪獣ケルベロスです」
「へ、へぇ。なんか聞いたことあるような、ないような」
「もう寸劇はいいので早く準備をなさった方がいいのでは? ちなみに勇者はティターンと比較にならないくらい強いらしいですよ」
「はあああああ!? もう勘弁してくれぇぇ!!」
俺は玉座にへたり込むように腰掛けた。
こうして俺のスローライフはまたしても霞のように消え去ったとさ。
めでたしめでたし。めでたくねぇよ!
【最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?】 —終—




