第48話 最終決戦2・崩壊
黒炎をまとったティターンの気配は、もはや巨躯を超え、火山そのものを支配しているかのようだった。空気が震え、視界は歪み、耳鳴りすら敵の存在感で塗りつぶされる。呼吸ひとつままならない。
「皆様、気をしっかり! 《聖障壁》!」
聖女ステュクが光の結界を幾重にも展開する。
「ムダだ」
ティターンの腕のひと振りで黒炎の波が襲いかかる。結界を一枚ずつ砕かれるたびに、背筋を削る衝撃音が響いた。だが砕けてもステュクの連続詠唱により即座に再生する。
「繋ぎます! アガペー様!」
ステュクがアガペーに視線を送ると、意図を察してスキルを詠唱した。
「任せなさい! 《呪縛の花鎖》!」
ステュクの障壁が時間を稼ぎ、その隙を狙って、植物の蔓のような鎖が花を咲かせながらティターンに迫る。光の結界と花の鎖が同調し、黒炎を吸い取りながら巨腕を拘束した。
「くだらぬっ!」
ティターンが黒炎で焼き尽くそうとするが、ステュクの聖光が花々を強化し、それを阻止した。
「わたくし達の絆は簡単に断ち切らせませんよ!」
いつの間に絆ができたんだよ。
俺がちょいツッコミを入れていると、ティターンが口角を上げる。
「ほう。ふたりで、ここまで強力なスキルを使えるか」
ティターンの腕が鈍り、その隙に仲間たちが一斉に動いた。
ゼウ、エクレシオン、ハデスが背後からスキルを叩き込む。が。
「舐めるな、虫ケラァ!」
黒炎が全方位にばら撒かれる。俺は悲惨な状況を幻視して目をすがめる。だがそうなる前に乾いた音が響く。
「時よ、絡め取れ! 《クロノスの楔》!」
セイドの指を鳴らす音が響き、時間が軋む。炎の動きが遅延して大惨事は免れた。
さらにティターンの動作が止まった瞬間を俺は見逃さなかった。
「合わせろ、セイド!」
セイドは俺の声と視線で、意図を察したように頷く。
「……理解した」
再び放たれたセイドの楔がティターンの腕を止め、俺の拳がそこへ叩き込まれる。
「《修羅の流転》!」
時間の楔で固定された巨体に、六本の拳が暴風のごとく叩き込まれる。セイドが時間を削ぎ、俺が物理で削る。二重の圧力で、鉄の皮膚が裂け、マグマの血が迸った。
「ぐぅぅ……小賢しい!」
ティターンが咆哮を上げると、火口全体が震え、灼熱の渦が結界を突き破った。
「うわぁぁぁぁぁ!」
全員が吹き飛ばされる。
だが、一番後方にいたステュクがすかさず光を走らせ、横のアガペーが花の盾で補強する。
「まだ立てます! わたくし達が押し返します!」
「王子様も、みんなも、やらせないわ!」
二人の声が重なり、再び光と花が巨体を縛る。
「援護するワン!」
ケルベロスが三つ首の咆哮で炎を裂き、ハデスが影を舞わせ鎖を足に巻きつける。ゼウとエクレシオンは雷鳴と聖槌を同時に叩き込む。
仲間全員の一撃が束ねられ、ティターンを包囲する光となった。
「これで終わりだッ!」
閃光の爆音が火口を覆う。
「ば、バカなっ!? この余が押し負ける……だと……!?」
ティターンが膝をつき、巨躯が崩れ落ちる。黒炎は霧散し、静寂が戻った。
誰もが勝利を確信した、その直後。俺の足元だけが崩壊した。
「なっ……!?」
火口の下、さらに深淵へと続く裂け目。仲間の手が伸びるが届かない。俺の体は灼熱の奈落へと落ちていく。
「アシュラ!」
仲間たちの叫びが遠のいていく。
やがて焼けた大地に叩きつけられた。どうやら下に着いたようだ。
そして舞い上がる砂煙の晴れた先にそれはいた。下層に鎮座する、もう一体のティターン。さきほど倒した巨体と瓜二つ、いや、それ以上に濃密で禍々しい。
「……分身体、だったのか」
ティターンは肯定するように口角を上げた。邪悪な光を帯びた眼窩が俺だけを見据える。
「これが望みだったのであろう? 強者と一対一の決戦をすることが!」
いや、望んでないです……。
「さぁ真の強者がどちらなのか決着をつけようではないか!!」
ティターンの体から爆発するように黒炎が噴き出した。
火口のさらに下、灼熱の奈落にて、俺と本物のティターンだけの最終決戦が幕を開ける。




