第47話 最終決戦1・余興
氷の道を渡り切った瞬間、空気が一変した。火山ダンジョン《オリュンポス》の火口は、真紅の灼熱と黒煙が渦を巻く地獄の門のようだった。火口の真ん中には巨大な円形の足場があり、その中心にティターンは立っていた。
巨躯に刻まれた皮膚は鉄のように硬質で、亀裂からはマグマが流れ出している。燃え盛るタテガミのような炎を背に、眼窩には太陽の残滓を思わせる光。
さらには全身に一部が欠けた鎖が巻かれ、封印を破ったかのような痕跡がある。それは、ヤツの力を誇示する装飾にしか見えなかった。
ケルベロスに乗った俺達はティターンの立つ火口のステージへと降り立つ。
「貴様が強者を求めしものアシュラか。待ち侘びたぞ。余こそはティターン。かつて神敵と呼ばれ、封じられた存在。再び地上を焼き尽くし、天をも墜とす者なり!」
咆哮と共に大地が揺れ、岩肌がひび割れる。
「うるせぇな。好き勝手してくれやがって。ただじゃおかねぇからな」
「動揺せぬか。流石は強者を求めるだけはある。だがしかし、なんだ後ろの虫ケラどもは」
ティターンが視線をゼウ達に向ける。
「仲間、いや俺の一部さ。つまり——全員アシュラだ!」
決まったな。エモ過ぎる。俺ってカッコいい。
「アシュラが何か言ってるのじゃ」
「きっと宣戦布告だろう」
「いや、好きな食べ物を聞いているのさ」
「王子様、ステキ。でも何を言いたいのか理解に苦しむわ」
……はぁ。コイツら終わってんな。俺のイケてる台詞の良さが分からないとは。
ティターンも心なしかキョトンとしている気がするが、気のせいだろう。
「……御託はいい。虫ケラもろとも皆殺しにしてくれよう!」
ティターンが叫ぶ。
「行くぞ、みんな!」
構える仲間達。
そしてティターンとの最終決戦が幕を開けた。
火口を踏みしめるたび、足裏に伝わるのは岩盤の鼓動とマグマの脈動。ティターンは炎を背に、その巨腕を振り上げた。全身を覆う鉄のような皮膚から、割れ目ごとに赤々としたマグマが溢れ出す。
「当たるかよ!」
先頭にいた俺はバックステップで回避。
その間に聖女ステュクと邪姫アガペーが仲間全体にバフをかける。
それが終わった直後、最初に飛び込んだのは怪盗ハデスだ。マントを翻すと同時に影が幾重にも伸び、彼の姿を隠す。
「《怪盗影舞》!」
闇の中を疾駆したハデスはティターンの鎖に取りつき、体重をあずけてぶら下がる。鎖を伝って滑り込む姿は、まるで蜘蛛が巣をかけるようだ。
「さて、宝の封印はどこにあるかな〜?」
おい、ハデス。呑気なこと言ってんじゃねぇぞ。
ティターンが彼を振り払おうとするが、妨害するようにケルベロスが吠える。
「グルルルル!」
三つの首が同時に動き、それぞれが異なる術を解き放った。一頭は火で敵の体のマグマをかき乱し、もう一頭は毒で巨体の動きを鈍らせ、最後の一頭は氷を呼び寄せて攻撃。
「ここ掘るワンワン!」
「困らすワンワン!」
「凍らすワンワン!」
咆哮が重なり合うたび、ティターンの足取りが乱れる。
「小癪な!」
反撃に出ようとするティターン。しかし、それを防ぐように二人の古豪が前へ出た。
「若造どもに負けてられんぞ! 雷よ来い! 《雷轟乱》!」
「神よ、聖槌に宿るのじゃ! 《神槌撃》!」
雷帝ゼウの手が稲光を呼び寄せる。そして聖槌使いエクレシオンの得物には古き祈りが重なる。
雷が聖なる輝きと重なり、二人の連撃はティターンの膝を砕いた。巨人が膝をつく瞬間、戦場全体が震えた。
「エクレシオンと言ったか、ジジイの割にやるな」
「お主もジジイじゃろがい」
ダブルジジイが老人会をしているが、俺も負けてはいられない。六本の腕を広げ、声を張り上げる。
「《連環・多重撃》!」
腕ごとに異なる角度から拳を叩き込み、連鎖する打撃でティターンの胸板を殴りつける。拳の雨が鉄の皮膚にひびを刻んでいく。
ハデスがその隙に叫んだ。
「ここだ! 《封印針》!」
俺のスキルが終わったと同時、鎖に隠された敵の胸へと盗賊具を突き立て、封印を解くかの如くこじ開ける。真紅の光が溢れ、ハデスは迷いなく核らしきものを引き抜いた。え、ハデスさん強すぎだろ。
「よし、受け取れケルベロス!」
ハデスが放り投げた核をケルベロスが犬のように口でキャッチしてそのまま噛み砕く。破片が飛び散る瞬間、ティターンの身体が大きくよろめいた。
「ヌウウ!」
それを見たゼウとエクレシオンは視線を交わすと、同時に叫ぶ。
「行くぞ!」
「今しかないのじゃ!」
雷と聖槌が再び合わさり、ティターンの胸を穿つ。
そこに俺が最後の一撃を重ねる。
「《修羅天衝》!」
六本の拳を束ね、一点に叩き込む。拳と雷と槌と咆哮が重なり、火口全体を揺るがす轟音が走った。
「グオオオ!」
ティターンの叫びは空虚に響き、巨体が揺らいだかと思うとゆっくりと後ろへ倒れ込んだ。
「やったか!?」
だが、その胸の奥からは黒い瘴気が溢れ出していた。まだ終わっていない。ヤツの核は砕かれたはずなのに何事もなかったように再生していた。土埃を払いながら立ち上がるティターン。
「まさかこの程度で余を倒せると思ったか?」
さすがに無理だよな。なんか一方的すぎたし。
「余興は終わりだ。圧倒的な王の力を見せてやろう」
刹那、ティターンの体から禍々しい黒い炎が溢れ出した。
「ここからが本当の本番か……」
仲間たちが再び構える。俺も拳を握り直した。
決戦は、まだ続く。




