第46話 突入
俺はケルベロスの背にしがみつきながら、火山ダンジョン、通称——《オリュンポス》を睨んだ。
そこから次々に現れる赤黒い溶岩モンスターの群れは、まるで大地が牙を剥いているようで、数も力も桁違いだ。雷帝ゼウや怪盗ハデス、S級冒険者たちが奮闘しているが、押し寄せる勢いは止まらない。
『アシュラよ。早く来なければ世界が終わるぞ。山も空も大地も、すべてが余の兵だ』
ティターンの嘲笑が空気を震わせる。
同時に鳥やコウモリ型の溶岩モンスターが出現。場はさらに混沌と化した。
そのとき、断崖に女の声が響く。
「道を空けなさい! 呪われし王子様の花嫁が、今ここに舞い降りるわ!」
現れたのは、禁断の花嫁アガペー。蛇髪とサソリの尾を揺らし、火口を睨み据えると、両の瞳が妖しく光を帯びる。
「『蛇王の眼光』!」
視線を浴びた溶岩巨兵の足が次々と石化し、硬直したまま倒れ込む。後続を巻き込んで崩れる様は、まさに天変地異。
「『毒火の尾槍』!」
尾から出る紫の禍々しい炎が槍となり、前線のモンスターを一息に粉砕する。さらに蛇髪から生まれた幻影兵が並び立ち、冒険者たちを援護する姿は圧巻だ。
「見よ! 愛の力こそ、灼熱の軍勢を退ける真なる力! 私とアシュラの未来を邪魔させはしないわ!」
気合が入ってんな。
彼女のお陰で士気は跳ね上がった。
雷帝ゼウが雷を轟かせ、怪盗ハデスが避難誘導をしながら盗人顔負けの機転で戦線を助け、第一王子セイド率いる騎兵は氷槍で前線を支える。そこにアガペーの補助魔法が加われば、押し寄せる溶岩兵すら徐々に押し返せる。
「よし、流れはこちらにあるな」
俺は再度、仲間たちを見渡す。ステュクは祈りを捧げながら光の結界で民を守り、その祖父エクレシオンは聖なる印を刻んで大地を鎮めている。
誰もがティターンとの決戦に向けて足並みを揃えつつあった。
「アシュラ!」
セイドが声を張り上げる。
「今なら山腹まで通れる! だがこの炎の濁流を完全に抜けるには——」
「ここは私達に任せてもらおう」
現れたのは天翔剣士ブリューナ。背後には風魔導士ジャギル、憤怒のダルダ、それと他のS級冒険者達。
「ブリューナ……!」
「私達S級で道を作ります。セイド王子はアシュラと共に先へ」
「理解した。後で褒美をやろう。楽しみにしておけ」
「はい!」
返事をした直後、彼女は落ちていた氷槍を突き立て、魔力を解き放った。轟音と共にできていく氷の道が灼熱の溶岩流を覆い、火口へと続く一本の白銀の橋を作り出す。
「氷の道は長く保てない! 急げ!」
俺はセイドと共にケルベロスに乗って氷の道を駆ける。
「我らも行くぞ!」
声のした方にはゼウ、ハデス、ステュク、エクレシオン、そしてアガペー。
「お前ら……!」
胸の奥から熱いものが込み上げる。信じられる仲間が共に来てくれる。これほど心強いことはない。
そしてケルベロスの分身体に乗った仲間と共に氷の道を踏みしめ、炎と煙に閉ざされた火口へ。
ついに俺たちは、ティターンの本陣である火山ダンジョン《オリュンポス》へ突入する。




