第41話 ケルベロス攻略3・ボス
荘厳な扉を押し開いた瞬間、空気が一変した。
そこに待ち構えていたのは、銀色の巨犬。三つの頭を持ち、それぞれが炎、毒、氷の息を漏らしていた。赤い瞳は血のように輝き、咆哮が空間を揺るがす。
「コイツがケルベロス……!」
毒なんて吐きやがってずるいぞ。俺は出せないのに。キャラ被りで更に上位互換とはな。絶対に許せねぇ。
「へぇ……凶悪そうな番犬。私好みかも」
そう言いつつもアガペーは蛇髪を逆立てて、魔力を編み上げる。
「面白い。ワシの聖槌がどこまで通じるか試してやるのじゃ!」
エクレシオンがハンマーを掲げた。
ステュクは胸に手を当て、透き通る声で祈る。
「《神光結界》!」
仲間全員を包む光の壁が展開される。
準備は万端だ。しかし、その時だった。
「……っと、いいところに来たねぇ!」
壁の影から飄々とした声。黒いマントを翻し現れたのは怪盗ハデスだ。
「ハデス!」
チッ、生きてたか。じゃなかった、生きててよかった!
「宝の匂いに釣られて来てみりゃ、随分とかわいい犬っころがそこら中で吠えてて驚いたよ。でも確信した。これだけ厳重な守りなら、門の先に俺の求めるものが必ずある」
周りを見ると、色んなレリーフが刻まれた門が、壁や天井に所狭しと並んでいる。ウチのダンジョンと同じでハリボテじゃねぇの?
俺は疑いの視線をハデスに向ける。だが彼は、意にも介さず話を続ける。
「これだけあれば、どこかは理想郷に繋がっているはずだ」
はぁ……そうなんだ。ちなみにコイツの求める理想郷ってレーズンバターサンド食べ放題のとこらしい。それぐらい働いて買えよ。
「ハデス様、よろしければケルベロスを倒すのを手伝っていただけませんか?」
ステュクが願い出た。
ハデスって戦えるのか? まぁいざとなったら勝手に逃げそうだし、居ないよりはマシか。
「やれやれ、犬小屋荒らしは趣味じゃないが……今回は特別だ」
短剣を逆手に持つハデス。
アタッカーか? 俺の邪魔になりそうだなぁ。
俺が嫌な顔をしつつ肩をすくめた、その瞬間。
「オオオオオオ!」
ケルベロスの三つの首が一斉に咆哮した。炎が壁を舐め、毒霧が地を這い、氷槍が天井から雨のように降り注ぐ。
「待たせ過ぎて、ご立腹のようだな」
俺は六本の分身体の腕を顕現させて拳を鳴らした。
「行くぞ!」
俺の声と共に全員が一斉に動き出した。
直後、ケルベロスの三つの首が同時に吠え、炎・毒・氷の混じり合うブレスが襲い掛かる。
「結界を重ねがけします!」
ステュクが追加の障壁を張り、衝撃を和らげる。だが熱と毒は突破し、波のように押し寄せた。
「ならば! 《聖槌衝波》ッ!」
エクレシオンが床を叩き、聖なる衝撃波が熱波と毒霧を吹き飛ばす。
「ガアアア!」
ケルベロスが叫びながら、追撃のブレスを放とうと口内を染める。
「捕らえるわ! 《蛇帝の抱擁》!」
アガペーの蛇髪が伸び、巨犬の前脚を絡め取る。しかしケルベロスは咆哮一つで引きちぎり、氷の刃を放った。
アガペーは回避するも、ハデスに氷の凶刃が迫る。
「危ないねぇ。《影盗り》!」
ハデスが影に飛び込む。影にダメージを肩代わりさせて回避したようだ。そのまま敵の背後に滑り込む。
「ちょいと削らせてもらうぜ! 《影縫いの刃》!」
影の刃で敵の後脚を切り裂いた。
俺も腕を交差させ、スキルを解き放つ。
「《修羅扇》!」
六本の腕が生む扇状の巨大な斬撃がケルベロスを切り裂く。
畳み掛けるようにスキルを続けざまに唱える。
「《修羅琴》!」
振動の衝撃波が空気を震わせ、巨犬の動きを鈍らせる。
「効いてる……! それなら私も!」
アガペーが叫び、魔力を集中。
「《蛇髪の魔眼》!」
三つの首の一つが硬直する。しかし残る二つが炎と毒を吐き、反撃に出た。
「横がガラ空きなのじゃ!」
エクレシオンが全身に神気をまとう。
「奥義! 《聖輝爆砕槌》ッ!」
聖なる閃光を伴う一撃がケルベロスの胸板を打ち砕く。
「グルゥア!」
ケルベロスが息と唾液と血を吐きながら倒れる。
だが、すぐに巨犬は立ち上がった。胸に穿たれた穴が塞がっていく。
「自動回復持ちかよ。俺にもよこせ」
俺の愚痴を無視して、ケルベロスは三つの首を振り乱し、天地を割るような咆哮を轟かせる。
「グオオオ!」
炎と氷が混じり合い、さらに毒を孕んだ暴風が津波のように押し寄せてきた。
「きゃあ!」「のじゃ!」「ですぅ!」「レーズンバターサンド!」
各々鳴き声を上げながら吹き飛ばされる。
ステュクの光の壁により、誰も死にはしなかったが、少なくないダメージはあった。
……これが、冥府の番犬の本気か。
俺は一歩前に出る。仲間を守るように。
「そろそろ切り札を出すか」
リスクが大きいため温存していたが、もう余裕がないので使う。
俺は覚悟を決め、手を前に出した。




