第34話 危険薬物!密造酒!違法賭博!
祝福の間に急に現れた謎の老人と取り巻き。
警報はなかった。観光客判定されていたか? ガイアは退勤しているし分からない。
ダンジョンの機能により、頭の上に表示された名前を見ると“エクレシオン”と書かれている。
ステータスは不明だが、説明文は見れた。それによると、宗教団体【浄光の槌】邪滅派の幹部であり、聖女ステュクの実の祖父だった。
邪滅派というのがなんなのか分からないが、恐らく宗教の派閥の一つだろう。
俺が分析している中、老人に動きがあった。
背筋を反らせて茶色いアゴヒゲを震わせながらカウンターを見渡す。
「ふん……なんだここは。卑猥な店かのう?」
失礼なヤツだな。
とはいえ、目に映る光景は、酔い潰れて眠るプスプス、シラフ顔で本を抱えたまま寝落ちしてるナビビ、グラスを傾ける気取った怪盗ハデス、セクシードレスで脚線美を惜しげもなく晒すアガペー。
……あー、まぁ、言われてみたら場末のキャバクラ感がなくもないな。
俺が半笑いしていると、聖女ステュクが前に出る。
「お祖父様!」
「……ステュクか。こんな所で何をしているのじゃ」
「それはこちらのセリフです!」
「お前が古代生体兵器アシュラを飼い慣らしたと聞いて来てみれば……品性を疑う下卑た店で働かされておるではないか」
「ここはそういうお店じゃありません! 昼はカフェ、夜はバーを開き、疲れた心を癒す場です!」
「かふぇ? くだらぬのじゃ」
鼻で笑い、エクレシオンは机に置かれたガラスポットに目を向ける。
「なんだこの茶葉は? そうか! これは危険薬物なのじゃ!」
おいおい、ただのハーブティーだぞ。眠気を取るくらいの効能しかねぇよ。つーか聖王国の特産品だろ。
「そしてこの酒は……禁じられた悪魔の水! 密造酒に違いないのじゃ!」
いやいや、ただのワインだから。葡萄絞っただけだし、お前んとこの名産だろ。
「さらにこの書物たちは……禁書だらけで知恵の毒なのじゃ!」
はぁ? せめて中身見てから言えよ。
続いて店の一角に飾られている魔法のオモチャに目をつけた。
「これは! オモチャと見せかけた賭博用具を置くとはなんたることか……! これで違法ギャンブルをしているに違いないのじゃ!」
いやいや、ただの魔導すごろく、元素玉ルーレット、魔法カード合わせだぞ。これもお前んとこの国のオモチャだろ。
「つまりこのカフェ&バーは犯罪の温床! 汚らわしい金稼ぎをするためと、善良な人間を毒沼に引きずりこむための肥溜めなのじゃ!」
ただの飲食店だよ! なんで裏社会の店みたいなレッテル貼ってくんの!?
俺のツッコミは当然、魔導スクリーン越しだから誰にも届かない。
それにしても、すげえ言いがかりだな。俺のダンジョンを勝手に違法カジノバー扱いするんじゃねぇ。
「ま、待ってくださいお祖父様!」
ステュクは必死に両手を広げ、客と祖父の間に立つ。
「ここは人々の心を休める場所です! 争いを減らすために——」
「黙れ、ステュク!」
エクレシオンの怒号が響く。
「お前は聖環派の甘言に毒された。祖父として最後の情けをかけに来たのだ。今なら戻れるのじゃ!」
「わ、わたくしは戻りません……! ここに居ることで、わたくしの祈りは生きるんです!」
聖環派ねぇ。まだよく分からないが、邪滅派と揉めているっぽいな。
エクレシオンの目が細められ、冷えた光を宿す。その背後の信徒たちが『邪を滅せよ』と口々に唱え、槌の頭を床に打ち鳴らすたび、重苦しい音が脈打つように広がった。
客たちも凍りついていた。
プスプス族はテーブルの下に隠れ、ナビビ族は本を抱えて震える。
アガペーは静かにドレスの裾を直しながら、俺のスクリーンに向かってウィンクを飛ばしてきた。おい、遊んでる場合か。
ハデスはというと、ちゃっかり酒瓶を懐に滑り込ませていた。コソ泥すんなよ。
「……なるほど。なるほどなるほどなのじゃ。全てはここを率いる古代生体兵器アシュラが原因かのう」
エクレシオンがぎろりと天を睨む。
「弱き魔よ、今すぐこの不浄の迷宮を閉じるのじゃ! さもなくば、我が槌が裁きを下す!」
俺は天を仰ぎ、目元を押さえた。このままだと戦いになりそうだ。
ステュクは唇を噛み、必死に声を振り絞る。
「アシュラ様は何も悪くありません! どうか槌を振るわないでください!」
「ほう……庇うか」
エクレシオンの声が冷たく低く落ちる。
「ならば証明してみせよ、聖女。貴様が従える魔が“悪”でないと……!」
エクレシオンは槌を肩に担ぎ、獣のような笑みを浮かべた。
「模擬戦だ。出てこいアシュラ! 尋常に勝負せい!」
槌が光を帯び、祝福の間が眩く染まる。
ステュクの顔から血の気が引いた。
うわぁ。めんどくせぇ展開になったなぁ。
俺は深くため息をつく。だが逃げる選択肢はない。魔導スクリーンをエクレシオンの目の前に出現させた。
「俺がアシュラだ。玉座の間に来い。相手してやるよ」
近くにいたスーツナビビが俺の言葉を翻訳する。
それを聞いたエクレシオンは口端を上げて、槌を肩に担ぎ、祝福の間を後にした。
こうして俺vs難癖ジジイの模擬戦が開幕する運びになった。




