表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3部 クロノス王国編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/51

第28話 死闘

 (つい)にクロノス王国の精鋭達と玉座の間で直接対決することになった。


 正直、絶体絶命といっていいだろう。生き残るための細い糸はまだ繋がっているが希望的観測に過ぎない。ベストなのはここで誰も殺さずに勝つことだ。


 無謀だろうが準備はしてきた。この玉座の間は俺の本拠地。全てのギミックがここに集約され、俺の息づかいに呼応する。壁のきしみ、床の振動、天井の落石。どこに罠が潜んでいるか、どの壁が動くか、俺の(てのひら)の中にある。だから負けない。


「来な。レイドボスをなめんなよ」


 三つの顔で同時に笑い、六本の拳を構えた。巨体を浮かすように玉座を蹴って前に(おど)り出る。


「行くわよ、アシュラ。婚約者同士、阿吽(あうん)の呼吸ってやつを見せつけましょ?」


 アガペーが蛇髪を揺らし、空間に複雑な紋様を描く。彼女の声は張り詰めていたが不思議と(つや)めいていた。


「ああ。初めての共同作業だな」


 彼女の魔力が炸裂する。


「《蛇影(じゃえい)の誓約》! 効果範囲拡大。アシュラのHP、筋力、反応速度、全て二倍よ!」


「助かる……!」


 全身を駆け巡る膂力(りょりょく)奔流(ほんりゅう)。俺の拳の一つが空間を割る。


 敵の第一波が来る。侵入してきた十数名の討伐者たち。


 刹那(せつな)、床がぱっくりと裂け、天井の一部が落下し、(ゆが)んだ空間が敵の動きを縛り付けた。玉座の間は大胆な改造はできないが、ほんの少しは融通(ゆうずう)が効く。これがその成果だ。


「ぐっ……あああっ!」

「なに、この地形……!?」


 敵がパニックに(おちい)っている。その隙にアガペーが詠唱。玉座の間に無数の壁が現れ、簡易的な迷路が出来上がる。


「くそ、固まれ!」

「いや、一旦引け!」


 連携が乱れている間に俺は《分身体の手》をロケットパンチのように飛ばして敵を削っていく。


 アガペーは迷路を作り続ける。位置や幅を自在に変え、俺の攻撃を完璧にアシストしてくれている。さすがは俺の嫁。


「《連環・多重撃》!」


 俺の六本の腕が縦横無尽(じゅうおうむじん)に暴れ、複数の前衛が吹き飛ぶ。金属音と悲鳴が交じり合い、玉座の間にこだまする。


 だが。


「《時界断(じかいだん)》」


 低い(つぶや)きと共に背後の空間がひしゃげた。


「……ッ!?」


 ひとりの男が敵の最前線へと滑り込む。第一王子セイドだ。彼の剣筋は時間そのものを切り裂くようだった。


「速っ……!?」


 俺の拳が触れる寸前、奴は空間を遅らせて自分だけが正しい時間で動いているかのようにすり抜けていく。


「君たちは強い。だが、過信だな」


 声が冷たい。()()まされた刃のような眼差しが俺を射抜く。


「チッ……!」


 俺は迎撃の拳を繰り出すが、アガペーの叫びが割り込む。


「アシュラ! 左後ろッ!」


 《蛇眼(じゃがん)空間視(くうかんし)》という視界共有スキルで、彼女の視界と重なり、俺には別方向から忍び寄る精鋭組の姿が見えた。セイドは俺を引きつけ、別動隊は側面突破を狙ってきている。


「分断作戦か……!」


「空間を遮断するわ!」


 アガペーが迷路を再構築した、と同時、精霊ガイアが魔導スクリーンに現れる。


「報告! 外周にて潜んでいた新手の王国突撃隊、接近中! 五十名!」


 クッ、まずいか……。


 外からも内からも攻め込まれる。しかもセイドの動きは、時間を操るたびに鋭さを増していく。


 三つの顔が同時に焦り、呼吸が乱れる。


 アガペーがぽつりと(つぶや)いた。


「アシュラ……もう、殺すしかないかもしれないわ」


 声が静かすぎて逆に怖かった。


「いや、まだ……!」


 だが、迷いが俺の拳を止める。


 本気で殺すか? そうまでしなきゃ止まらないのか?


 いや、セイドさえどうにかすれば……!


 俺の中の何かが、その一線を越えるのを(こば)んでいた。


 その一瞬の躊躇(ちゅうちょ)を埋めるように凶刃が迫る。


「どうしたアシュラ。一手の遅れは致命的だぞ」


 セイドが詰めてきた。彼の剣が空間を断ち、俺の拳をかすめる。血が散った。


「……ッ」


 俺は焦りながらも殴り返す。六本の拳が暴風のように(うな)り、セイドを圧倒する。


 罠が床から突き出し、天井から岩槍が降り注ぐ。アガペーの蛇髪が敵兵を絡め取り、次々と弾き飛ばす。


 しかし、セイドは倒せない。


「《時逆歩(じぎゃくほ)》」


 セイドの剣が(ひらめ)いた瞬間、俺の三本の腕が同時に敵の一撃を迎撃する。だが、確かに弾き飛ばしたはずの刃が、なぜか俺の胸を(つらぬ)いていた。


 「……っ!?」


 痛みが走るより早く、世界が(ゆが)む。斬られたはずの剣は元の位置に戻り、セイドの姿も一歩、後方へ巻き戻されている。


 なんだよ、このスキル!? 反則だろ!


「《時逆歩(じぎゃくほ)》。致命打をなかったことにし、攻撃の軌跡を記憶したまま再挑戦する、時戻しの技だ」


 あ、説明ありがとうございます……じゃなかった余裕かましやがって!


「さて、アシュラよ。私の技、いつまで耐えられるかな」


 セイドの剣が同じ軌跡をなぞりながら、さらに別の角度から斬撃が重なる。


「《時刃連閃(じじんれんせん)》!」


 空気が裂ける。一本の剣筋が、(とき)を細切れにしながら多重に刻まれていく。


 残像ではない。実際に数倍の斬撃が畳みかけ、俺の六腕すら追いつかない速度で迫ってきた。受け止めたはずの剣圧が遅れて二度三度と肉を(えぐ)り取る。


「クク……さすがに防ぎきれないか」


 セイドが不気味な笑いを浮かべる。瞬間、背後からアガペーの声が響いた。


「《蛇縛(じゃばく)(くさび)》!」


 俺の巨腕を狙って(から)みつく魔法の(くさり)。敵ではなく、俺にかけられた呪縛(じゅばく)。だがそれは、セイドの刃を受ける位置を強制的にずらし、急所を外させる援護だった。


 彼女は続けざまに翡翠(ひすい)色の光を放つ。


「《石化の守印(しゅいん)》! アシュラを害する斬撃よ、(にぶ)れ!」


 空気に刻まれた斬閃(ざんせん)の数撃が岩を(こす)るような重苦しい抵抗を受けて速度をわずかに落とす。


「……フッ、伴侶(はんりょ)を守るためか。やるな、禁断の花嫁アガペー」


 余裕があるセイド。


 だが遅延(ちえん)した刃は、逆に俺の反撃の糸口となった。


「今度はこっちの番だ」


 俺は六腕のうち三本で地を叩いて衝撃波を広げる。


 《修羅扇(しゅらせん)》。扇のように広がる気流が、時の断片を散らすかのようにセイドの連撃を押し戻した。


 さらに残る三本の腕を重ね合わせ、(うず)を巻く魔力を集中させる。


「喰らえ、《修羅琴(しゅらきん)》!」


 叩きつけられた衝撃音は大気を共鳴させ、(げん)を弾くような振動波が空間を震わせる。目に見えぬ斬撃の残滓(ざんし)をかき消し、逆にセイドの聴覚と平衡(へいこう)感覚を狂わせた。


 彼の剣筋が一瞬、空を切る。


 その隙を俺の拳が確実に(とら)える。


「《修羅(しゅら)流転(るてん)》!」


 伸びる六つの拳が同時に振り下ろされ、玉座の間全体が震えた。セイドの時空結界(じくうけっかい)が砕け散り、彼の身体が宙を舞う。


 俺の拳は確かにセイドを捉えた——だが、その瞬間、彼の姿が揺らぎと共に消え失せた。


「またかよ……!」


 再び巻き戻された時間。致命打を避けるためにセイドは《時逆歩(じぎゃくほ)》を繰り返したのだ。


 だがその動きはもはや鮮烈(せんれつ)ではなかった。彼の呼吸は荒く、瞳の奥には細かい亀裂のような血管が浮かんでいる。時間を操るというのは、それほどに肉体へ負荷(ふか)を与えるようだ。


 それでもセイドは剣を構え、歯を噛みしめて前へ踏み出す。


「まだまだ! ついて来いアシュラァ!」


 声を張り上げ、渾身(こんしん)の《時刃連閃(じじんれんせん)》が解き放たれた。


 無数の剣閃(けんせん)が空間を細切れに切断し、光の帯となって襲いかかる。


「そう何度も喰らうかよ!」


 俺は六腕を交差させ、《修羅車(しゅらぐるま)》を展開した。


 円環状に回転する全身が、(とき)を刻む斬撃を受け止め、火花のように散らしていく。


「ぐっ……押し返されるだと!?」


 セイドの瞳に(あせ)りが宿った。


 そこへアガペーの声が重なる。


「アシュラ、今よ! 《蛇髪の護矢(ごや)》!」


 蛇の髪が矢となり、斬撃の軌跡をかすめて乱流を生み出す。その一瞬の隙に俺は大地を踏み鳴らした。


「《修羅窟(しゅらくつ)》!」


 床が陥没(かんぼつ)し、重力を(はら)んだ(うず)が発生する。空間そのものが俺の拳に引き寄せられ、セイドの身体を逃げ場なく引きずり込んでいく。


「チィ!」


 セイドは(あらが)い、剣を振り抜こうとするが、もう時間を巻き戻す余力は残っていなかった。


 俺の拳が振り下ろされる。大気が(うな)り、衝撃波が玉座の間を震わせた。


 セイドの(ひたい)に汗が流れる。誰もが次の瞬間、彼が粉砕されると思っただろう。


 だが、俺の拳は寸前で止まった。


 鼻先をかすめるほどの距離で、俺は巨大な拳を止めた。


「……もう終わりにしないか」


 三つの顔が同時に笑みを浮かべ、低く(ささや)く。


「第一王子セイド、いや——ポン」


 瞬間、ガイアが空中に現れ、今の俺の言葉をセイドへ伝えた。


 セイドの目が大きく見開かれる。その瞳に憤怒(ふんど)も敵意もなく、ただ理解が宿る。


 そして彼の全身が光り輝き、第一王子セイドの姿から——かつて俺と出会った少年、ポンの面影が(あら)わになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ