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【完結】最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3部 クロノス王国編

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第27話 アガペー対討伐隊

 クロノス王国の精鋭五十名が、俺のダンジョンに現れた。


 訓練と実戦を重ねた精鋭部隊。その足並みは乱れず、俺を、アシュラを討つために迷宮を突き進む。


「アシュラ様、侵入者の進行速度が速すぎます。第一層の罠群をわずか数分で突破しました」


 ガイアの声は冷静だったが、その中に少し(あせ)りが混じっている。


 俺は三つの顔で同時に(まゆ)をひそめて腕を組んだ。


「さすが王国の精鋭。この程度の罠じゃ(たい)した時間稼ぎにもならないか」


 タワーディフェンスゲームはあまり得意でなかったことを思い出した。ダンジョンポイント返せ、くそ。


 だが、それはもういい。すでに次の迎撃(げいげき)(こま)は放ってある。


 第一層、中央回廊。


「ふふ……やっと来たのね。私の愛を(さまた)げる(おろ)か者たちが」


 通路を塞ぐようにアガペーが立ちふさがっていた。蛇の髪がぞわりと逆立ち、サソリの尾が鋭く揺れる。


「前方に敵確認。識別名“禁断の花嫁アガペー”。討伐対象の一体です」


 隊列の後方、魔導士が淡々(たんたん)と告げる。


「やれるものなら、やってみなさい」


 アガペーが手を(かか)げ、指を鳴らす。瞬間、敵の足元に黒い(うず)が出現する。そして床が沈み込み、前衛の数人が悲鳴と共に落下した。


「うわあああ!」

「くそ、後退しろ!」


 足場を求めて叫ぶ声。しかし落とし穴の底からはサソリの尾のような槍が突き上がる。


「《鉄塊障壁(てっかいしょうへき)》!」


 盾を(かか)げたタンクが咄嗟(とっさ)に魔法を展開し、数人をかろうじて守り切った。


 だが、補助通路に逃げた討伐者たちを迎え撃ったのは幻惑の(きり)


「《魅了(みりょう)蛇髪(へびがみ)》!」


 アガペーの蛇の瞳が赤く輝いた。視線を交わした兵たちが一瞬で棒立ちになる。


「状態異常確認! 《精神解呪》を——!」


「遅い。《蠍尾(さそりび)》!」


 アガペーが宙を舞い、拘束された騎士の首筋に尾が突き刺さる。紫色の毒が走り、男は(うめ)き声を上げて倒れ込んだ。


「安心しなさい、死なない程度の毒よ」


「化け物がっ……!」


 仲間を(かば)おうとした槍兵が飛び込むが、アガペーは蛇髪を(むち)のように叩きつけて槍を弾き飛ばす。


 討伐者たちは素早く隊形を組み直した。詠唱が重なり、次々と魔法が放たれる。


「《雷槍(らいそう)連突(れんとつ)》!」

「《焔弾雨(えんだんう)》!」

「《封魔陣(ふうまじん)》、展開!」


 雷の槍が空を裂き、炎の雨が降り注ぐ。さらに、彼女の足元には封印陣が浮かび上がった。


「ふふ……面白い」


 アガペーの尾が地面を叩くと、床石から石蛇が()い出し、炎の雨を受け止める。雷槍を蛇髪で受け流し、幻影を三体生み出して封印陣を踏ませ、強引に破壊した。しかし。


「《断鎖矢(だんさや)》!」


 敵集団の後方部から飛んできた銀色の矢がアガペーの幻影を一掃する。


 直後、隊列が割れ、一人の男が前へ出てきた。クロノス王国第一王子セイドだ。サラサラの金髪、重厚な鎧、きらびやかな剣と盾。王家の血を引くだけのお飾りの王子では決してなく、他の者とは一線を(かく)す精鋭中の精鋭とわかる。


「その程度の罠や小細工、全て読み切っている」


 セイドの冷ややかな声。彼の周囲で空間が(ゆが)み、空気が重く沈む。


「《時界圧縮・弐段(にだん)》」


 世界がねじれ、兵たちの動きが一瞬で加速したかのように変化する。逆にアガペーの動きは引き延ばされたように(にぶ)る。


 クロノスの血を引く者は“時間”に関するスキルを発現する可能性が高いという。それがこれか。


「なにこれ、ムカつく……!」


 アガペーが必死に(あらが)うが上手くいかないようだ。


「《断時穿(だんじせん)》」


 セイドの剣が音もなく振り下ろされた。風も、光も、時間さえ止まったように。


 その刃が地面に触れた瞬間、通路に満ちていた(きり)霧散(むさん)し、罠の魔力線が次々と断ち切られていく。


「なっ……!? 私の罠が、全部……!」


「我々との戦いに狭い通路を選んだのは悪くないが、私のスキルの前では全てが無意味」


 セイドが冷酷に告げた。


 こいつチート級スキルしかねぇな。お前がレイドボスやっとけよ。


 アガペーは唇を噛み、そして小さく息を吐いた。


 その瞬間、俺の声が彼女の背に届く。


『アガペー、もういい。玉座まで退け』


「……了解よ、アシュラ。必ずあなたの元へ戻るわ」


 彼女はどうにかスキルの拘束を抜けると、(あで)やかに身を(ひるがえ)し、闇の中へと退いていく。


「追撃を——!」


 敵の前衛が駆け出しかけたが、セイドが片手を上げて制した。


「待て。罠が再展開される可能性がある。焦るな」


 セイド王子の一声に隊は静止する。


 その間にアガペーは黒い霧に溶けるように消えた。


「毒を打たれた者の様子は?」


「傷は浅く、大事ありません」


「……そうか」


 セイドは一度だけ長めに目を閉じると、やがて決心したように前を向いた。


「行くぞ。目的地はすぐそこだ」


 そして、玉座の間。


「ようこそ、迷宮の最深部へ」


 俺は三つの顔を笑わせ、玉座に深々と腰掛けて待ち構えていた。


 隣には戻ってきたアガペーが優雅(ゆうが)に一礼して立つ。


「私の婚約者を追い詰めるとは命知らずね」


 セイドが数歩進み出る。背後の兵たちが武器を構え、空気が張り詰める。


「対象アシュラ確認。これより討伐を開始する」


「王子(みずか)ら来てくれるとはな。お前を人質にでも取れれば、奇跡の一つくらい起きるかも」


 俺はゆっくりと立ち上がる。六本の拳に魔力を収束させ、空気がひび割れたような音を立てる。


「ここは俺の迷宮だ。そう簡単には踏み荒らさせない」


 アガペーの蛇髪がうねり、毒尾が鋭く構えられる。


「この愛の巣を壊すなんて許さない。お前たち全員、痛い目を見せてあげる」


 セイドの剣が光を()びた。


 討伐隊の詠唱が重なる。


 六本の拳と、サソリの尾が、今にも叩きつけられようとする。


 そして、死闘が始まる。

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