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【完結】最弱レイドボス『アシュラ』に転生した俺、討伐対象になったけど人類を滅ぼす気はないんだが?  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第3部 クロノス王国編

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第25話 訓練

 玉座の間。


 俺は謎の少年ポンを呼び出していた。理由は、いじめられないよう体を鍛えてやるためだ。ただし、これは表向きの理由で、真の目的は“過去がない”というポンの正体を突き止めるためである。


「父さん、また呼んでくれてありがとうございますッス」


 コイツは俺のことを父さんと呼ぶ。理由は構ってくれるかららしいが真意は(さだ)かではない。


「ポン、今日からお前を鍛えてやる」


 と言うと、ガイアが翻訳(ほんやく)してくれた。


「え? むしろこちらが胸を貸す側ではないスか?」


 このガキ。いつまで自分が俺に勝ったと勘違いしてんだよ。


「どっちでもいい。訓練するぞ」


「仕方ないっスね。あと、一応言っておきますけど、決して僕はいじめられてないッスよ? 決してね?」


 プライド高いヤツだな。


「はいはい、わかったわかった」


 そして、俺とポンが対峙(たいじ)する。ポンにはダンジョン内の売店で売っているそこそこいい装備一式を渡している。そんな売店の営業を許可した覚えはないのだが、まぁいいだろう。いつもの事だ。


「行くぞ、ポン。《連環・多重撃》ッ!」


「ッしゃああああああああ!!」


 六本の巨大な腕がそれぞれ異なる角度、異なる速度、異なる圧力で襲いかかる。風を裂き、地を揺らし、空気すら()ぜる連撃。


 そのすべてをポンは盾を構えて受け止める。


「ぐあ、ぐへ、ぐぼぉ!!」


 グロテスクな声を出しながら、一発目で壁へ吹き飛ばされ、二発目で壁と拳のサンドイッチになり、三発目で地面に叩きつけられた。それでも。


「まだまだぁ! ふん!」


 四発目は立ったまま受け止めた。


「やるじゃねえか」


 俺は思わず、そう(つぶや)いた。


「まだまだ、動けますッス!!」


 ボロボロでも笑うポン。俺も釣られて笑う。


 それを見たガイアが心底引いた顔をした。


「アシュラ様、意外と加虐(かぎゃく)趣味がおありなんですね」


「ねぇよ。ただ、人に教えるのは結構好きなんだ」


 俺がプレイしていたMMORPGティタノマキアでも初心者にボスの攻略法やクラフトの効率良いやり方を教えていたりした。


「ポン、頑張るプスよー!」


 玉座の周りでプスプスとナビビが顔を突き出して声援を送っている。


「ポン! そっから逆転だぁプス!」

「受けきれ、受けきれープス! お前は鉄壁の男だぁ!」

「四発目でひっくり返ると思ったのにぃ〜!」


 応援と揶揄(やゆ)が飛び()っていた。


「お前ら、悪ノリだけは超一流だな」


 実は俺が彼らに見ておくよう頼んでおいたのだ。声援という成功報酬があった方が、やる気に繋がるし、成長度合いも速くなるだろうから。


 それからも毎日、訓練は続いた。


 俺はポンに全力で拳を叩き込み、ポンは盾を構えて受け止める。俺は地面に重力魔法を流し、ポンは軸をずらして立ち続ける。


 ポンの動きは日を追うごとに進化していた。


 初日、ポンは一撃で吹き飛んでいたが、二日目には二発まで耐え、三日目でまた一発で吹き飛んでもう駄目かと思った。けれど今日、四日目には六連撃の中盤まで耐え抜いていた。


 さらに動きは洗練され、攻撃を真正面から受けるのではなく、衝撃をいなす。盾で耐えるのではなく、盾ごと動いて受け流す。そういった小技も使えるようになっていった。


「ポン様」


「はいッス!」


「明日からは魔法攻撃も混ぜる、だそうですよ」


「ありがとうございますッス!!」


 深々と頭を下げるポン。


 ポンを鍛え始めて四日目。もういつクロノス王国から討伐隊が来てもおかしくないフェーズに突入している。


 このままポンと遊んでていいのだろうか。コイツがクロノス王国と何の関係もないなら今やっている事は無駄以外の何ものでもない。かといって、アガペーが戻るまでやれることもない。


 そんなモヤモヤした気持ちを抱えて沈んでいると、ポンが話しかけてきた。


「それと父さん」


「誰が父さんだよ。お前みたいな息子いらねぇよ」


「今日も殴ってくれて、ありがとー!」


 DVクソ親父が洗脳してるみたいだからやめろ!


 ——それから。


 訓練のあとは温泉だ。ポンは毎日、ぼろ雑巾(ぞうきん)のようになってナビビ族に運ばれて温泉へ沈められる。


「はぁ……今日も生き残れた……」


 ポンの体は意外と筋肉質で胸筋も腹筋も、その他のパーツも盛り上がっており、普段から体を鍛えているのが分かる。


 そんな彼の隣に、もう一人くつろぐ青年がいた。手にはレーズンバターサンドを持っている。


「おっ、キミ。いい傷だねえ」


「えっ……あなたは?」


「ハデス。怪盗だ。アシュラのとこに宝を盗みに来たら、間違って温泉にハマったってわけ」


 そう言って、ハデスは肩まで湯に浸かり、身体を伸ばす。いつになったら怪盗っぽいことするんだよ。


「へ、変な人ッスね……あ、いやなんでもないッス。それより宝ってなんのことスか?」


「あるんだよ。アシュラのいる玉座(うら)にある門の先にさ」


 ねぇよ。いつまで言ってんだよ。あれはただの壁なんだよ。


「そ、そうなんスか」


 ポンもドン引きしてそうだ。でもお前もバカみたいな勘違いしてるんだぞ。……いや、ワザとの可能性もあるか。


「ところでキミ、盾職? いいじゃないか。盾は浪漫だよ。盾を極めた者は誰よりも前に立てる」


 その言葉にポンは目を丸くした。


「盾って、やっぱ凄いスか?」


「当然。受けて、耐えて、守って。誰よりも強い。そういうヤツが一番、信じられる」


 ぽつりと、ハデスが言った。さらに続ける。


「オレは少し前までパーティーを組んでいた。その中に盾使いがいてな、そいつは優秀でタンクとしての役割も完璧だった。ただそいつはな……」


 そこでハデスは言葉に詰まる。


「え、まさか亡くなって——」


「いや生きてる。ただ、やつは禁忌(きんき)を犯しちまった。オレが楽しみに取っておいたレーズンバターサンドを勝手に食っちまいやがったんだ」


 禁忌(きんき)ってほどかよ!


「その行為がどうしても許せなくて、オレはパーティーを抜け、理想郷を探すことにした。誰もレーズンバターサンドを盗まない世界、あるいはレーズンバターサンドが食べ放題の世界を探して」


 もう自分でレーズンバターサンド屋開けよ。


「ハデスさんにそんなつらい過去があったんスね」


 つらい要素どこだよ。


「オレの事はいい。キミの事を聞かせてくれ。なぜタンクをやろうと思ったんだ?」


 お、いいぞ。ポンの情報は欲しい。泥棒もたまには役に立つな。


「……僕は教育の厳しい家庭で育ったんスけど、両親は過保護なところもあって、戦場には立たせてくれなかったんス。それである日、魔物と戦うパーティーを見たんス。その先頭に立つタンク職の人の活躍に心を打たれたんスよね」


 戦場、ね。やはり推測通りの人間かもな。まだ確定ではないが、ほんの少し可能性は高まったか。


「それから両親を説得して訓練所に通い始めたんスよ。もちろんタンクになるために」


 ポンは拳を握り、湯気の中で顔を赤くした。


「でも、ギルドには凄い人が多くて自信を失ってて、ちょっと前まで自分なんて何も守れないと思ってたんス。ただ今は、少しずつですけど変わってきた気がするッス。新しい父さんのおかげッスね」


「新しい父さん? 複雑なご家庭か?」


 ちげーよ。生々しいこと聞くなよ。


「いえいえ、アシュラさんのことッス。厳しくも面倒を見てくれるところが本当の父と重なって見えたんス」


 うんうん、と、ハデスがもの凄く納得したように(うなず)く。


「なるほどな。そういうことか。やっぱりアシュラは——繁殖(はんしょく)してたのか!」


 おい! 都合のいい解釈やめろ!


「こうしちゃいられない! みんなに教えないと!」


 おいバカ、誤情報をシェアしようとすんな!


 温泉から上がったハデスを、プスプスやナビビが捕まえようとするも上手くいかなかった。さすが怪盗、逃げ足だけは一流だ。いや、そんなこと考えてる場合じゃねぇ、早く捕まえろ!


 しかし、残念ながらいつものように逃げられてしまった。


 そして。


 ポンもダンジョンから出ていき、少し経った頃。


 疲弊(ひへい)した様子のアガペーが帰還した。


 そして彼女は俺の目を見るなり、バツの悪そうな顔をして一言。


「ごめん、失敗したわ」


 その言葉に俺は一筋(ひとすじ)の汗を流した。

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