東京港への帰還の中で
ヴィジョン教授を始めとする皆全員は海上保安庁の船に乗って東京港に向かっていた。
弟子達や二人の盾頭や辰准教授は各それぞれの場所から豪華客船だった『ヴィクトリア・プリンセス号』の無惨な姿を見つめながら悲しい目で皆は見ていた。
もう半分まで黒煙をあげながら沈みかけているのが分かる。
「…あの巨大客船、もったいないねえ…」誰かは知らないが女子学生がそう答えてしまった。
「…イナズマ団がいなかったら、こんなことにならなかったのになぁ…」ある男子が悔しさが溢れて言った。
「ただ乗客達が一番悔しがっていると思うよ。せっかくのあの船のデビューをきっかけに沖縄までの旅をしたかったのが本音なんだから」三回生の男子も言いたくなった。
「…これ今、ニュースで一番大きく取り上げているんじゃない?みんな朝になったらニュースを見てすごいびっくりしているんじゃないか?」もう一人の三回生男子もそう聞いた。
「ただその中で、俺達の大学にまた記者会見が開かれるのは間違いないな…ヴィジョン先生、休んでいる暇はないんじゃないんですか?」上級生達がそう話が終わらない中でヴィジョン教授に聞いてみた。
「…それは確かだが、私に構うことはない。これも私の仕事だからね」ヴィジョン教授は英語でそう説明したかのように話した。
今までヴィジョン教授の英語を聞いても理解できているかできていないか、実は弟子達は半分半分と分かれていた。
準司や葵はヴィジョン教授の英語を理解はできているが、将吾はいまいち理解できているか自身もよく分からなかったみたいだ。
将吾は基本マイペースなので、ついていくスピードが遅ければ何だか皆と比較してしまうことが心配になっていた。
そういえば坂本はどうしているんだろうかと準司はふと思った。確かにあいつも十一番目のイナズマ団ボスと戦っていたのは知っているが、あの攻撃で大怪我をしたのだろうか?
準司は少し心配になった。もしそれが本当なら一大事だと思って辺りを見渡したが、坂本は端の隅っこで丸い窓からあのイナズマ団に爆破された大型クルーズ船の姿を眺めているのが見えた。
あの目は怒っているのか、悲しんでいるのか、それとも何かの決意を新たにしているのか、何だか真剣な眼差しでジーッと猫が遠くへ睨んでいるかのような感じを受けた。
準司はしばらく坂本の様子を眺めていたが、全く動かない様子だったので視線をまた別の方に移した。
爆発したクルーズ船の姿がだんだんと遠ざかっていくと皆ほとんどがクルーズ船をしばらく眺めていた。
…あの惨劇を繰り返してはならない。
準司も座ったまま窓の先に映っている最悪な姿のクルーズ船をずっと見ながら新たな誓いを思った。
幸い誰もが死亡するといった惨劇に巻き込まれはしなかったのは良かったが、豪華客船でこのような事件が起こることなどを許してはならないことが一番頭の中で思いよぎっていた。
今後は二度とこのような事件が起きないように改善をしなければならないのは分かっているが、当分暫くはこういった大型豪華クルーズ船は運営しないのかもしれない。
「…もう事件は終わった。少し仮眠しないか?…」
「ああ、そうしよう」
三回生男子達は、壁を背もたれにして暫く寝ることにした。
爆破された大型クルーズ船を通りすぎると皆もほとんど床に座って寝ることにした。
「ねえ、私達も少しは仮眠することにしない?もう…解決したことだし、イナズマ団のあの要注意人物を捕まえられたんだし、ねっ?」葵はだんだんと眠くなってきたのを理由に準司達に向かってそう言った。
「そうだな。もう…そうしよっか」準司もそう言って眠気がだんだんと強くなってきて座ったまま寝ることにした。
将吾もすぐに目をつぶって寝ることにした。
「残念だ。下級幹部の全員は消滅したことになる。あの黒井にもあれだけの褒美を言って差し上げたのになあ…お前達は覚悟はあるのか?」
イナズマ団アジトの奥の部屋でワインの入ったグラスを片手に持ちながら上級幹部の手下達と上級幹部十人を集めて直接神威本人が聞いた。
「大変申し訳ありません、神威様。あの人物はこの私めがイナズマ団に入団させました。黒井が捕まえられたのも私の責任があります。私が責任持って辞任致しましょうか?」上級幹部七番目のこのイナズマ団の男がそう自己犠牲になって神威に尋ねた。
「お前が辞任するなど必要ない。何故そこまでしてこの私が許しを問わねばならぬ。そんなことをするまであるなら他のやることもあるだろう?冷静に考えればそういうことだ、宮津丸よ…」
「はっ、承知しました」この上級幹部七番目の宮津丸という名前の男は深々とお辞儀をした。
「もうこうしてはいられないようだ。まさか上級幹部の誰かが捕まるような真似はしないだろうな?」神威の圧が強くなってきた。
「…こんなことにならないよう…最善を尽くしてまいります…」刀を横に置いたこの男こそ、上級幹部の最上位に君臨する一番目のボスだ。普段は無口だが、怒った時の表情は非常に怖く感じられる。
「お前はそう簡単には捕まらない強者だ。その刀でどれほど斬ってきたか。あの盾でも一撃で斬れるぐらいなんだろ?どうだ?最上級者よ…」
「はっ…その覚悟も十分できております…」
「ならば皆を守れるまでにはしておけ…」
「…かしこまりました」この上級幹部最上級の一番目の男は深々とお辞儀をした。
「四番目と五番目!…」
「あっ、はい!…」
「ヴィジョンが研究しているあの場所も見つけられたか?…」
「…あっ、それはお任せください。居場所を特定できましたので」四番目のこの男が言った。
「それはどこなのかは後で私に着いてくるようにすることだ、いいな?…」
「はい!かしこまりました!」四番目の男と五番目の男も深々とお辞儀した。
「…二番目の赤田…」
「はい…」冷静にいつものように静けさを保ちながら神威に返事した。
「お前にはいつも大変面倒をかけている。だが、気を緩めるな。二番目の上級幹部だからな。簡単にはお前も捕まりはしない強者だ…まさか捕まることはないよな?…」
「はっ、肝に命じておきます」この赤田という二番目の上級幹部も矛を地面に置いて深々とお辞儀をした。
「そして残りの者達よ、ここから派手にいこうじゃないか?奴らは宣戦布告を唱えたのだ。一気にたたみかけるぞお!」
上級幹部全員は立ち上がり、その手下達は「おおお!」と士気を上げて大声を出した。
やる気に満ちたその勢いは灼熱に燃え上がっていた。
準司は息を切らして目を覚ました。やばい…もう情報がイナズマ団に伝わっている。何故なのか、何故こんなに情報が早く入手できたのだろうか…。
…そうか、マスコミでもう知ってしまっているからなんだろう。あの勢いと士気は物凄く恐ろしかった。
準司はまだ息がきれている。準司が見たあの恐ろしい夢が本当なら今までとは違う恐ろしいことが待っているのかもしれない。
ヴィジョン教授に言っておいた方がいいのか、準司には分からなかった。次にイナズマ団は何をしてくるのかが怖くて仕方がないからだ。
「おい!お前らもう起きた方がいいぞ。もう東京港に着く頃だ」水盾頭の伏竜が皆にそう呼び掛けるとまだ眠気はあるがもうそろそろ停めてあるバスに乗らなければならない。
皆はもう着いたと安堵すると白いカバンを背負い直して船から出る準備を始めた。
準司達三人もくたくたになってでも我慢して立ちながら白いカバンを背負い、東京港に着くのを待った。
そして、全員が乗せた船が東京港に到着した。
ヴィジョン教授を始めに皆も海上保安庁の船を操縦してくれた乗組員達に感謝の言葉を伝えて東京港へ降り立った。
まだ夜という時に寝る時だというのにまだ歩かないといけないと考えると余計にメンタルがきつかった。
東京港からバスまではそんなに距離は離れていないのでそこは助かった気持ちだ。
やっと全員でバスまで歩いて到着した。バスの運転士もヴィジョン教授達を待ってくれていたみたいだ。
豪華客船に乗る前まで乗っていた順番に皆もそれぞれ乗っていった。
全員が乗れたことを確認できると、ヴィジョン教授は一番目に乗っている灯田原のバスから降りてきたのだろう、伏竜が乗っているバスまで乗ってきて皆に言いたいことがあって乗りにきた。
そして、日本語で話し始めた。
「皆諸君、よくここまで戦ってくれた。こんな時間だからもう寝たくてくたくたなのだろう。それは私もよく分かる。もう寝たい分寝てくれ。だが、大学に着いた後からも動かないといけないこともあるからそれは各自責任持ってくれ。…また一人暮らし以外の人達は寝るところ大丈夫か?まあその事については大学に着いてからにしよう。それでは出発するのでゆっくりしてください」
ヴィジョン教授はそう言って、灯田原が乗っているバスにまた戻っていった。
バスの中は皆本当にくたくたで休みたい気持ちで誰も喋る気がないようだ。
準司の隣は坂本だが、ヴィジョン教授の言葉に甘えて早速寝ることにしていた。
左横を見ると葵と将吾もすぐに寝ていた。
準司はまたあの嫌な夢を見るのはメンタル的にしんどいという理由もあって、バスの外の景色を眺めることにした。




