自分のためか・他人のためか ギルドの迫る選択
「その上で言います。今後、この作戦に参加するかしないか。あなた方には判断し、この場で決めていただきます!」
周りの冒険者やら、作戦に参加する実力者たちが騒ぐ中、アンナたちも例外では無かった。
アンナは心の中で「なんで?」と意味が分からず困惑してしまう。
相棒のデリバーは「なんだと?」と、心の声を漏らして眉を寄せて、より一層深く腕を組み込んだ。
「どういう意味だー!」「早く説明しろ!」と、突如として下された選択肢によって多くの人たちが喚き出す。
当然だ。無論、突然選択を迫ることにも不満はあるだろうが、彼らからすれば街の状況改善のために調査に行き、しばらくはなんの成果も掴めなかった。
なのにある日突然、どこも休暇を言い渡され、そして急に召集されたのだ。
皆が不満を抱き、ギルドの慌ただしさを「まとまりがない」だの「対応が遅い・後手に回っている」などといった評価を抱いている。
最初はやる気があっても、時間が経てば人間の思いは変わる。ギルドの慌ただしさが、この作戦に参加する者たちを翻弄してしまい、不満が広がるのは当然といえよう。
「落ち着いて! 今から伝えますので、静かに!」
職員たちが声を大にして宥めて、やっと皆が黙る。
彼らが聞く姿勢を見せたことで、やっと職員さんが口を開き、資料を提示したり、分からないことには質疑応答を重ねたりと真摯に対応した。
この数日間の調査で得た情報の共有。
まずは各々の班で目立ったことが無かったこと。少し不審に思われた箇所。そこから情報共有していった。
続いて、ロウ班に起こったことを、順を追って丁寧に解説する。
「銃の魔術を扱っていた実力者。元旅人のロウさんが、ある魔物と対峙しました。通りすがりのハンターが犠牲になったのち、彼らはなんとか討伐に成功したものの......」
チラッと職員さんがこちらを見る。アンナやマイルスのことに気がついていたようで、どう表していいか分からないが、複雑な思いを抱いている表情でこちらを見ている。
マイルスを見ると、相変わらず窓の外を見ているだけだ。
「大丈夫ですよ」と何が大丈夫なのか分からないが、とりあえず彼を安堵させるように頷き返す。
職員さんに思いが伝わったのか分からないが、彼も頷き返して、その後の展開について説明してくれた。
「......突如、敵の襲撃に。何者かの攻撃を受け、ロウさんが死亡しました」
「なんやて!?」「ロウさんが......」
ロウの死亡を初めて知った人々が驚愕し、再び辺りが騒がしくなる。
やはりロウはこの街でもそこそこ有名だったようで、この騒ぎ様から彼を知る人々が多いのも頷ける。
「アンナ。大丈夫か」
「ああ、うん......。気持ちは割り切ってる。心配はいらないよ」
腕を組んで彼らをじっと見つめながら、デリバーの心配を受け取る。無論、言われるまでもなく気持ちの整理はできている。
それはマイルスも同じだろう。以前と雰囲気が変わってしまったが、身内の死を経験することで人間は必ず何かを思い変わっていく。
深く傷ついた心が治癒するまではもう少しかかりそうだが、心配はいらないだろう。
(だといいけど......)
しかし先ほどから一切目立った動きを見せないことが気になり、自然とマイルスの様子を見る。
「皆さんお静かに! 皆さんもご存知の通り、銃の魔術という技術を極めていらっしゃった方が亡くなるほど、この作戦は危険なものになりました! ですので参加の是非を問う機会を設けています!」
「参加を続行する方はここに残ってください! 拒否される方は......」
「なるほど。そういう訳か」と一人納得するデリバー。
「お前はどうする?」とアンナを見て、是非を聞き出そうとしていたが、当のアンナはマイルスを見たまま動きを止めて固まっていた。
「アンナ?」
デリバーが不思議に思って彼女の肩をポンと叩く。
そのやりとりの最中、多くの人々が既にギルドを出て行った。
「......マイルス、まさか」
左ではギルドの職員と実力者たちが揉めて、退出してと忙しい中、右側では妙な反応を示しながらマイルスを凝視するアンナ。
彼女が何を見ているのか。その視線の先を見て、アンナの気持ちを理解したデリバーだった。
「......こりゃ、悪い方に行っちまったな」
さっきまで窓の外を見ていたマイルスが、気づけばギルドの様子を伺っていた。
そこまではなんら問題なかったのだが、職員たちを見つめるマイルスの顔は明らかに様子がおかしかった。
その表情は静かな怒りに満ちており、目を見開いて奥歯を噛み締めている影響で首に筋が浮かんでいた。
ふらりと椅子から降りて、アンナの横を素通りするマイルス。
「ま、待て——」と手を差し伸ばすが、アンナの右手をパシィとはたいて、真っ直ぐとどこかへ向かっていった。
手を払われ、そして一番なってほしく無かった。そんな状況になってしまったために、今アンナが何を考え、どうして手が震えているのか即座に理解し「落ち着け!」とその手を握って落ち着かせる。
「な、なんで......」
「......まあ、そうなる可能性はあったからな(復讐か......)」
今、アンナとマイルスを二人にさせると必ず揉めてしまう。
それを避けるため、マイルスに向かっていこうとするアンナの体を引き留め、しばらく様子を見守ることにした。
「は、離してくれ!」
「だめだ。行ったら蹴飛ばされるかもしれんぞ」
「アイツは冷静じゃないっ。そうなった責任はウチにある、だから——」
「復讐の獣になりつつある人間の手綱を握るか? その責任は、今よりずっと重いぞ」
「っ......」
言葉で諭される。
言いたいことは分かる。デリバー曰く「余計な口出しをすると、今より悪化するかもしれない」と言いたいのだろう。
マイルスは明らかに、内心では激情に駆られていた。それが表に出るのも時間の問題だ。
それを止めようと、責任感からか飛び出そうとした。しかし、デリバーに行く手を阻まれた。
「でもやっぱり——」
「ああもう、落ち着くのはお前もだっ」
それでもと、進もうとするアンナを取り押さえるデリバー。
腕を掴むだけじゃどうしようもないので、仕方なしに片手で腰に手を回しガッチリとホールドする。
そのまま持ち上げて、抵抗する力を奪うべく左肩にアンナを担いだ。
「うおっ!? 持ち上げっ!?」
「少しこのまま見てろ」
このまま動けないのはわかっていたアンナは、言われた通り仕方なしにマイルスが何をするのか、その様子を目で追うことにした。




