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アンチテーゼ/アンライブ  作者: 名無名無
第二章 霧の街のミステリー
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ギルド内での揉め事

 ロウが死んだという発表をするため、休暇を言い渡されてから二日後に召集がかけられた。


 しかしその知らせを受けたことで、街の実力者として名を馳せていた彼を殺したという輩に恐れ、皆が辞退を申し出る事態となってしまった。


 おかげさまでギルド内は騒然としている。


「冗談じゃねえ! そんな化け物が出るなんて聞いてねえぞ!」


「自分の命が惜しい!」「あわわ、なんてこと......」


 多くの人々の喧騒が聞こえ、次々とギルドから人が減っていく。

 その様を黙って見ているアンナとデリバー。


 (......当然だ。極めることそのものが難しいという魔術。それを収め、しかしそのような実力者が死んでしまったんだ)


 例え疲労が溜まった状態で不意打ちで殺されたとはいえ、現場を目撃せず情報だけで真実を知った彼らからすれば「魔術を極めた人間が死んだ」という事実だけが心に残りやすいだろう。


 恐れの混じった声や怒号。多くの人々が、各々の感情を言葉に乗せて騒いでいた。


 そしてその喧騒にまた一人、銃の魔術を扱う者が混じっていった。


「お、お前は......」


 騒ぎ立てる若い冒険者の胸ぐらを掴み、「文句言うんじゃねえ!」と怒りの混じった声で吠えるマイルス。


「ジジイは勇敢に戦ったんだ! そんで死んだ! 文句言う暇あったらお前らも戦え! 街を守れよ!」


「なんだとっ!!」


 胸ぐらを掴まれた若い冒険者。そいつがマイルスを思いっきり蹴飛ばした。


 そして彼も同じく怒り、自らの思いを口から勢いよく吐き出した。


「ふざけんな! 俺は命が惜しい! 街のために死ねるかぁ!!」


「自分の命が惜しいだ!? ここはテメェが住む場所だろうが! 俺たち力のある人間が、臆病なまま引きこもっても死人が増えるだけだ!」


 二人が大声で揉め、多くの人々が何事かと思い彼らの喧嘩を傍観し始める。


 職員さんも二人の白熱した言い合いに仲裁へ行くことができず、どうしようかとオロオロしている。


(二人とも言っていることは間違ってないんだけど......)


 デリバーに担がれたまま、二人の言い合いを見て思ったのは、どちらも自分の主張をまかり通すために言い合っていること。


 お互いに何も間違っていはいないことだ。


「お前の爺さんみたいに戦って死ねってか。そんなアホみたいなことはごめんだね」


「そ、そうだそうだ」


「私たちは死に急ぐつもりはない!」


 死にたくないと多くの者が、怒り狂うマイルスに負けじと、唾を撒き散らす勢いで口を開いて言葉を捲し立てる。


 彼らだって一人の人間だ。死の恐怖が身近に迫った結果、我先にと保身に走るのは当たり前だ。

 アンナも彼らの気持ちが痛いほど分かる。


 奥歯をギリッと噛み締めて、彼らの表情に混じる恐怖の色を見て生前のことを思い出す。


 あの恐怖に身を晒されるのは相当堪える。その恐怖は理性でどうにかなるものじゃない。払えたくても払えない。


「......」


 だから口出しができない。黙るしかない。マイルスの味方をして、彼らの弁論にたいして反論する権利を、アンナは持っていない。


 それに、彼らは自分たちの実力なんて高が知れていると考えているだろう。ロウのような実力者を殺すような奴を相手に、自信や信念、勇気だけでは叶わない。


「んだと!? ジジイだって死に急いだわけじゃあねえ、アホでもねえよ! お前らみたいな弱い奴らを守るため、最後の最後までジジイは戦ったんだぞ!! 悔しくねえのかよお前ら。皆、ジジイに世話になったことあっただろ!?」


 再び若い冒険者と取っ組み合いになって、お互いに腕を組み合って睨み合うマイルス。


 彼の事情を考慮しないで見るならば、身内がうざったらしく叫んでいるとしか思えないかもしれない。


 しかし、一方でマイルスの言うことにも共感できる。


 ロウと彼らの関係は知らないが、今の口ぶりからして過去にお世話になったことは本当だろう。街に長く住んでいるなら、一度は接点があるのも想像できる。


 そしてマイルスは身内の無念を晴らしたいと考えている。あの怒りの原因は臆病な冒険者たちにではなく、死してまで守ろうとした仲間。最後の最後まで抗い、一齧りして亡くなったロウの執念。


 そんな生き様を仲間に「死に急いだアホ」と評され、そんな弱者のために戦った彼を悪意があろうが無かろうが馬鹿にされてしまった。


 冒険者の言葉が例え本心ではなく激情から来る偽りの言葉だったとしても、愛する親を馬鹿にされて黙っている子供なんていないだろう。


「ジジイジジイって、親離れもできねえガキが......。もういい。行くぞお前ら」


 最初に胸ぐらを掴まれた冒険者が呆れた様子で話を切り上げ、数人の仲間を連れてギルドから出て行った。


「......弱腰め」


 歯を強く噛み締めて拳を震わせ、怒りに耐えたまま、去っていく冒険者の背中を睨むマイルス。


 どちらも間違っていない。しかし状況を考えると、マイルスの思いに共感する人はそう多くないだろう。

 現に吐き捨てるように呟く彼を見て、多くの人々が冷たい視線を向けている。


 見ていられない。今の彼は冷静じゃない。

 少なくとも、マイルスは状況を考えられないような人間ではないはずだ。


「デリバー。降ろしてくれ」


「......そっとしておくべきじゃないのか?」


「だとしても、やっぱり放っておけないよ」


「全く......。存外、お人好しだな。分かったよ」


 仕方ない言った様子で、アンナを肩から降ろすデリバー。

 所詮は他人の自分が何を言っても無駄かもしれないが、言葉だけでなく行動で示す必要がある。


 マイルスを取り押さえて、とにかく落ち着かせるのが先決だ。


 そう思って一歩足を踏み込んで、歩き出そうとした時。


 そんな彼に追い討ちをかけるように、心許ない声が次々と寄せられることになった。


「ふん! 第一、お前の情報だって信用できねえ! あの人は確かに強いが、それは若い頃の実力だろ! 力及ばず死んだ、そのことを出鱈目に報告したんじゃねえのか!!」


 報告書に書いてある内容。それを否定し、あまつさえロウを侮辱する大柄の荒くれ者のような見た目の男。


 その人に付き添う小さな女性も、消極的ではあったが、相方と同じようなことを恐る恐る言った。


「そ、そうだよ。あの人もおじいさんだったし......。きっと無理して死んだんだわ。マイルスくん。”黒い世界”がどうとか聞いたけど、あのおじいさんの名誉とか守る嘘じゃあないの?」


 二人組の男女のコンビが放った言葉。それが引き金となり、「嘘つくな!」とか「本当はみっともない死に方したんだろ!」と暴言を吐く輩が数人出てきた。


 いつだって、どんな場所にも他人の事情を顧みず、自分の言いたいことを好き放題言う人間は存在する。そういう奴らを「我が儘」とか「空気の読めないヤツ」と世間では言われている。


 たった数人。片手で数えられるくらい少ない人たちだ。


 しかし好き放題言われたせいで、マイルスが理性の壁を失い、激昂するには十分だった。


「ジジイは勇敢に戦って死んだ! 何も見てないテメェらが侮辱すんな!」


 ロウの最後の意思。自分の命すら顧みず掴んだ情報。それらを信じようとせず、彼のことを裏切るかのような態度。


 彼を慕っていたマイルスがその暴言に耐えられるはずがなかった。


「うわっ、なんだ!?」


「うるせえ、それ以上言ったら殺すぞ!」


 マイルスが暴言を吐く輩に飛びかかる。怒りが沸点を超えて、体が勝手に動き出したといったところか。


 しかも腰に手を伸ばし、銃を取り出そうとする素振りを見せている。


「これは本格的にマズい。彼を止めなければならない」と頭で考えるよりも先に体が動いた。


 彼と初めて魔物狩りに行った時、魔物の攻撃から彼を守る時のように、今度は暴走するマイルスを取り押さえるために体を動かした。


 咄嗟に両足に力を込めて飛び出し、銃を使って手遅れの状況になる前に、アンナがマイルスに飛び込む。


「ぐわっ!!」


 そして彼を抱き抱えて地面に転がり、本能的に応戦しようとする彼の反撃の拳を片腕で受け流し、少し優しめにマイルスの顔を一発殴った。

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