出会い
女性はその場でクルと回り、手にしていたハンドバッグに遠心力を乗せ、上島元課長の横っ面に叩きつけた。
バッグの角が深くめり込み、スローモーションで顔が歪む。
思わず体制を崩し、床に倒れ込むと、女性は「死ねっ」と捨て台詞を吐き、そのまま人ごみに紛れた。
「大丈夫…… ですか?」
俺はゴミでも見るように元課長を見つめていた。
相手は、手をついて体を起こすと、胡座をかきながら言った。
「……格好悪ぃとこ、見せちまったな」
「……」
この人は恩師だが、今はただのやべー奴だ。
知り合いだと思われたく無かった為、早く立ち去りたい所だが、放置する訳にもいかない。
小さな声で、
「課長、地べたに座ってると汚れますよ」
と言ったが、全く聞く耳を持たず、何やら話し続ける。
「あの時話した、焼き鳥屋になるっつった話、忘れた訳じゃないんだ。 今のはいい気付けの一発になった。 っし、やってやる! 俺はやるぞ!」
「声、でか……」
周りがこちらに注目し、最悪だ、と内心思った時だった。
改札の横にある駅務室から、ややだらしない感じの男がこちらにやって来た。
駅員の制服は着ているものの、前のボタンは留めておらず、腹が出ている。
年は40代後半といった具合か。
「焼き鳥っつったか?」
その男は、そんな言葉を発した。
上島は顔だけ振り向くと、その問いに答える。
「ああ、言ったが。 何か?」
駅員の男は、腕時計をチラと見やり、口元をつり上げた。
「あと5分で勤務が終わっから、したら、うめぇ焼き鳥屋連れてってやるよ。 2人共、ちょっと待っとけ」
そう言って、男は駅務室に戻って行った。
2人ということは、俺も行かないといけないのか?
(早く帰りたいっつーのに……)
改札の上の電光掲示板。
その中央の時計が、17:56分を示した所だった。




