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試練

 弓道場の前までやっては来たものの、その戸を開けることが出来ない。

戸の向こう側からは高い声がし、どうやら女子部員が数名いるようだ。


(くっそ…… ただコクってしまいだってのに。 いざ言うとなると、足が重てぇ)


 実際、好きって訳じゃないから、余計躊躇ってしまうのか。 

心拍数が上がる。

課長みたいな既婚者でもなければ、ナンパ師でも無い俺には、ハードルが高いか。


(……グダグダ考えても仕方ねー)


 ただ、課長に負けるのはシャクだ。

俺は、思い切り戸を開くと、大声で言った。


「林道清花さんはいますかっ?」 


 数人の女性がこちらを向く。

その中から、前へと歩み出る者がいた。


「私ですけど」


 現れたのは、キリとした目つきの気の強そうな女子。

制服姿で、首にはマフラーをつけている。


「……ウッ」


 突然、俺の頭が割れるように痛み出した。

俺は思わずその場でうずくまる。


「い、いつつつ……」


 林道清花が呟く。


「あら、あなた、もしかして童貞?」


「そのマフ、ラー…… まさか……」


 我が社が開発した、童貞を殺すマフラーか。

俺は頭を抱えながら、後退る。

すると、他の女学生が俺を逃がすまいと取り囲む。

かごめかごめの要領で俺の周りを回り始めた。


「かーごめかごめ、かーごのなーかの……」


 どんどん意識が遠くなる。

するとその時、


「あっ、猫だ!」


 誰かが声を上げた。

朦朧とした意識の中、チラと見やると、道場の中にグレーと黒のまだら模様の猫がいた。

すぐに生徒がそちらに向かい、俺はどうにか輪から抜け出す事が出来た。








 汗だくになりながら、俺は石垣の塀に腰掛けていた。

遠くでガシャン、という音がし、しばらくしておばちゃんが缶コーヒーを持って俺の横に腰掛けた。


「ほら、あんだの分よ」


「……サンキュー」


 まだズキズキ頭が痛む。

暖かいコーヒーを手の中で転がしていると、おばちゃんが話し始めた。


「だらしないねェ、アンタ、童貞だったのかい」


「……るせーな」


 社内でも知ってる奴はいなかったのに、こんなおばちゃんに醜態を晒すとは。

おばちゃんが立ち上がる。


「アンタの童貞、アタシが卒業させてやってもいいよ。 今夜、ウチに来な」


「……え!」



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