LASERSTRAHL
「Willkommen, Zuki!」の横断幕。
嬉しい。
君が異国で歓迎を受けたこと。一人でサッカーをするんじゃないってこと。
甘えるな。期待してくれるサポーターに答えろ。
でも、最後の一人になっても、かあちゃんは君のサポーターだ。
「おばさん、選手なの?」
久々のカウンターパンチを喰らった。
スカウトしてきた高校生からチーム練習の初日挨拶。
忘れてた。私、おばさんだったわw
「そうそう、選手だよ」
周囲のチームメイトがチャチャを入れてくる。
「ただのおばさんじゃないんだよー」
「あの瑠と組んでたんだからw」
「るぅさんと?!ホントに?!」
瑠へのリスペクトはあるらしい。
あのプロフィール写真の効果は抜群で、「前所属」としてこのチームの名前が載っている。本人に言うとキレられるから言わないけど瑠って「キレイ」で華があるんだよね。あのプロフィール写真で結構ファンが増えてるし、知名度も上がってる。でも、それは不本意で、本人はプレイで認められたくてギラギラしてる。それでこそ瑠だ。でも、スカウトには遠慮なく「キレイな瑠」を使わせてもらってるよ。これは、うちのチームへの置き土産ってことで。
私もここから新しいスタート。
今まで以上に体をメンテナンスして「おばさん」を振り切らなきゃ。
瑠のいないピッチは広く、存在感の違いを感じる。
怒鳴ったりキレたりする選手もいないから、ゆるい感じにもなってる。
キャプテンとしても要だったんだ。
「嫌われることを恐れず、やりたいサッカーを貫く」
女子の世界で、瑠はそれをやってきた。レッドカードをもらいながら、「悔しい。勝ちたい」を前面に出しながら。
代わりなんていないんだよね。
でも、瑠の得点力を超えるシュートを狙える選手をスカウトしたつもり。そして、サッカーが全てな情熱のある子。
それがこの子。
「おばさん、ポジションどこ?」
「ピッチでおばさんは辞めね。私は鈴。今は、アンカーボランチだけど、今年のチーム状況で変わるかも知れない。」
指を指していった。
「あの子、MFとして取ったけど、いい目をしてるから私とポジション争いになる。あなたは、FWとしてとったって言うより得点王を取ったつもりだよ」
「得点王?!」
「このチーム、WEリーグ狙ってるんだよ。おばさんにスタメン取られてたらダメでしょw」
でもね。
「おばさん、舐めんなよw」
高校のチームを捨てて所属チームを移籍してきたこの子たちは「プロになりたい」その一心で移籍している。半端な気持ちでチームは作れない。
今は試合数をこなしてないので契約はCだが、いずれ高い金額でA契約が取れる選手にしていきたい。このチームを土台にして羽ばたけばいい。
律との共通意見。
女子サッカーの分母を増やすこと。
それには、目標や憧れを増やす必要がある。
瑠はビジュアルもあるが、見ていてワクワクするプレイが魅力だ。
女子が夢中でサッカーするかっこよさを伝えたいし、世界も目指せるんだと。
もちろん、おばさんが夢中でサッカーをやることを笑う奴がいなくなるくらい、誰もがサッカーに足を踏み入れる間口を広げたい。
「鈴、私はおばさんが選手?って思っただけで、バカにはしてないから。安藤とか菅澤だって、今は私には叶わない。でも、すぐに追い越してやる」
うん。わかってる。そーゆー子を取ったんだよ。
いいね。ワクワクしてきた。
よーし、始めるか!
その日の帰りにホームセンターに寄った。
10mの赤い布。白のペンキ。久しぶりに買った。
週末は瑠のデビュー戦。
手書きでごめんだけど、これ持っていくよ。
「LASERSTRAHL, Ru!」
23鈴
瑠、遠くにいっちゃったなー。
ダンマク持ってきたけど、ここからじゃ見えないだろうな。
チャレンジカップのチケットは簡単にとれた。
対アメリカの好カード。代表戦なのにいっぱいにならないんだ。
このがっかりな状況を昔の女子サッカー観てなかった愚かな自分に伝えたい。
「女子サッカーに向き合え!」って。
瑠のプレイに蒼がときめいたように、観ればわかるはずだったんだ。
私が「サッカーをする側になりたい」と思った時、公園でリフティングする私をドラゴンマスクは肯定的に受け止めてくれた。
「おばさんがリフティングしてる」と笑わなかった。
律は私にサッカーを教えてくれた。
昔、ドラゴンマスクの父も。
だからきっと、いつか、女子サッカーで国立がいっぱいになるという未来を信じたい。
瑠が出るかどうかはわからないけど、ベンチにいるなら出場に賭けてみたい。
リザーブ紹介に瑠はいた!
画像をドラゴンマスク(息子)に送る。
「瑠さん、出るかな?みんなに見てもらいたいな、瑠さんのゴール」
「さすが。NO,1サポーター蒼。ゴールする前提なんだw」
「瑠さんは、ぜ〜ったいゴールする!」
「お前さぁ、瑠のことになると毎回それだな」
「だってするもん」
「根拠は?」
「パッション!」
「あいつはドログバだからな」律が意外にも緊張してる。
「ドログバって南国のフルーツ?」
・・・蒼の時代の選手じゃないかw・・・
「人だよ。人。ただの人じゃないけどね」
律、答えが雑・・・私はこう付け加えた。
「ここぞって試合で点を決めちゃう選手だよ。」
と、結構カッコつけて言ったら、もう、蒼はスマホで検索してた。
「すごー!男、瑠さんだー!」
・・・逆だって・・・
ホイッスル。始まった。
アメリカは女子サッカーの人気は高い。そして、強い。
チャレンジカップでもベストメンバーを揃えてる。
日本は守ってカウンター狙いだ。
「苦しい展開だなー。高橋ハナが3人いればいいのに」
律、eFootballだってそんなことできないでしょ・・・
それより、この展開でゴールできるのは
「瑠さん出せばいいのに!」
そう、贔屓目じゃなく瑠だ。
「いや、まだだ。俺なら前半には使わない。残り15分。スパーサブで使う」
「得点されたら?」
「0−1?瑠なら」
うん。瑠なら、2点取り返す。
やられたらやり返す。それが瑠だ。
ビハインドの瑠が1番怖い。
合宿中の怪我でFWの追加招集が発表された時、瑠は私たちの試合を見にきていた。家に置いてきたスマホには、とんでもない量の着信と留守電とLINEとメッセージが入っていた。急いで支度をして合宿に合流した時には、同じチームの同僚に背中をバンバン叩かれながら大笑いで歓迎されたらしい。でも、そのビハインドをひっくり返してベンチに入った。
すごいな、瑠。
どんどん、上の景色へ行っちゃう。
「出るぞ」さらに緊張した律が言う。
律は試合なんか碌に見てなかった。ベンチの動きをずっと見てたのだ。
―選手の交代をお知らせします。背番号7番に変わって背番号14番」
瑠だ!
クールにピッチに入ってきたけど、ものすごいやる気が伝わる。
漫画だったら3mくらい立ち昇るオーラだ。
るぅ!るぅ!るぅ!レーザービーム!
るぅ!るぅ!るぅ!レーザービーム!
瑠のチームのサポータが来ている。。
瑠にボールが入った。
速い。ドリブルで仕掛けた。
瑠得意のカットイン。
ゴール前に3人いる。
パス。
誰もがそう思う。
でも、瑠が選ぶのは・・・
思い切り左足を振る。強い弾道のボールは
ゴーーーーーーーーーール!
やったー!
瑠が青いユニにもみくちゃにされている。
見て!これが瑠だ!
るぅ!るぅ!るぅ!レーザービーム!
るぅ!るぅ!るぅ!レーザービーム!
日本代表サポーターを巻き込んだコール。
当然、律は号泣。なんだか蒼も号泣。
るぅ!るぅ!るぅ!レーザービーム!
るぅ!るぅ!るぅ!レーザービーム!
コールは続く。
私はまだ泣かない。
瑠のあの不器用な試合後のインタビューを聞くまでは。
でも、ちっちゃな声でつぶやいた。
「彼女とサッカーしてた」
ささやかな自慢は、コールの渦にきえてった。




