だからサッカーって面白い
息子から電話が来た。
珍しい。
大抵LINEで済ませるのに。
「もしもし?どした?」
「元気?」
そりゃ、まぁ。生存確認?
「おかげさまで、忙しく元気にサッカーしてるよ」
「そか」
ん?
「何?どした?」
「いや、ドイツのチームに移籍する」
「ドイツ2部、2.ブンデスリーガから話が来てね。決めた」
!!!!!!!!!!!
思いっきり動揺したけど電話でよかった。
「ほー」と言ってみた。
これは、困った時の私の上等手段だ。
「年明けには、あっちに行く感じ」
「ドイツ語わかるん?」
「わかんないw」
「代理人つけなよ(瑠からの受け売りだけど)」
「うん。そうする。年内に契約に行くから、それまでになんとか」
「そか。うん」
「以上、ひとつ目の報告」
え?まだあるの?
「えーっと、まぁ、こっちは後で話す!」
「え?え?気になるじゃん。何?」
「こっちは会った時、話すよ」
「えー気になる!けど、ま、いいか」
と、先日、カンガルー革のスパイク買ってくれたから引いてみた。
私自身、もう一つの大きさがわからないけど、今はひとつ目を受け止めるので精一杯だ。
「なんか手伝えることあったら言って」
母っぽいことを言ったら、頬を何かが伝った。
電話でよかった。
「うん。ありがとう。かあちゃんの誕生日には帰るよ」
「無理すんな。忙しくなるでしょ」
「いや、そこは無理する」
・・・
「じゃ、唐揚げ揚げておくわ」
「うん。じゃ」
切ってから涙に気がついた。
嬉しいのか悲しいのかわからない。
ブンデスリーガに見つけてもらったこと、
「行く」と決断したことを伝えてくれたこと、
遠くに行ってしまうこと。
あーとっくに自立してたから油断してたわ。
こんな日が来るんだ。
とうちゃん、息子がとうちゃんを超えるよ。
行っただけじゃどうなるかわかんないけど、今のあいつなら、思いっきりやるだけやってみるはずだ。それでいい。
瑠が以前言っていた「兄に置いていかれた」ってこんな気分だったのかもしれないな。瑠に会って話したくなった。
「もしもし、瑠?会って話せない?」
「いいよ。私も話がある」
「ありがとう。じゃ、後で」
カフェって言葉がサッカー用語に聞こえるふたりがカフェで待ち合わせした。店に入ると、瑠は先に来ていてこちらに軽く手を挙げた。
ホント、私服の彼女は別人。シンプルな服装は彼女らしいが、「ファールだろうがっ!」っと鬼の形相で審判に抗議している人とは別人に見える。
「ごめん。遅れた」
「いや、ぴったりだよ。何頼む?食事しちゃう?」
「いいね。そうしよう」
オーダーをし終えると、瑠が切り出した。
「私から話していい?」
「うん。いいよ」
今日はもう、ちょっとのことでは驚かないし、私の話の方が長くなるだろうしね。
「私ね。鈴の息子に告った」
!!!!!!!!!!
「え?うちの?」
「そうそう。お宅の」
「ぼーっとゴール前に立ってたから、先に1点決めてきた」
「得点したの?!」
「決めた」と、Vサインを見せた。
でも、でもさ。あいつは
「ドイツ行くんだよね」
「知ってるの?」
「同時進行の会話だったw」
「どうすりゃ、そんな話が同時進行するのよw」
「WEリーグ・・・は?」
「やるよ」
それでこそ、瑠だ。
「だから、一緒にドイツには行かない」
キッパリと言う。これも瑠らしい。
「でね、鈴。宣言しとくことがある」
試合前のフェアプレイ宣言?
「私は、どのチームにいても、あいつと付き合っても別れても、鈴とは今の関係を崩さない。これからも『りん』って呼ぶし、対等」
確かに宣言。
でも、
「私もそうでありたい」
私の返事に瑠は口角を上げた。
「私とあいつは、今、お互いに夢があって、好きでもそれは譲れない。だから、どちらかに合わせることはない」
「うん」二人のことはよく知ってる。理解できる判断だ。
「だから、先にサッカーをやり切った方がまだ、夢を追いかけてるヤツの所に向かうって約束してる」
なんだそりゃ?
「ちなみに、これは鈴の息子の提案だからね」
「つまり、二人ともサッカーをやりきりたいってことね」
「さすが。理解が早い」
ってことは、あいつも瑠が好きってことでいいのね?
これか!もうひとつの報告は!
「私みたいに諦めが悪かったらどうするの?」
「それは・・・その時よwその可能性は高いな」
一呼吸おいて瑠は言った。
「鈴、ごめん。あいつが浮気でもしない限り、孫は当分無理だから」
真剣な顔で言うもんだから、吹き出してしまった。
「了解」軽く手を上げて答えた。
「で、鈴の話って?」
もう、話すことないよw
私が持ってきた小さな淋しさに嬉しさを足して、瑠の話を引いたら「笑」しか残らなかった。
なんて素敵な人生だろう。
人生って想像しなかった面白いことが起こるんだ。
人生って、
面白い。
サッカーみたいに、
思ったところへ転がらない。
だから、
面白い。




