第56話 大浴場①
第四階層の攻略に出ていた宝殿達も一旦帰還し、夕食が終わった後……突如、待機エリアの一角がざわついた。
「おい、マジで大浴場出てんじゃん」
「何その夢仕様……」
壁に新しく現れた扉。
薄く湯気が漏れていて、その上に「大浴場・期間限定利用可」の文字。
「行くしかねーだろ!」
運動部組が一斉に立ち上がる。
その盛り上がりから、少し離れた待機エリアのベンチで、湊と圭は顔を見合わせた。
「……どうする、これ」
「どうしろってんだよ」
圭が、スプーンを皿に置く。
「男側に混じるのは、さすがに無理だろ。
今のお前、その格好で入ったら“事件”だぞ」
「分かってるよ……」
湊はジャージの袖を握りしめる。
自分の身体のラインが、前よりずっと“柔らかい”ことなんて、もういやというほど自覚している。
「女子風呂とか、あるわけないしな」
「男子校だしね、ここ」
圭が肩をすくめる。
「湊、どうせならさ」
「なに」
「時間ずらして、二人だけで使わね?」
あっけらかんと言われて、湊は一瞬言葉を失った。
「……二人で?」
「うん。男子が一通り入り終わったあと」
「その時間、こっち側のクラスメイトには『サニタリー・ゾーン』使わせて、大浴場は“女子会タイム”ってことで」
「女子会タイムて」
変な言葉に、思わず吹き出しそうになる。
けれど、その案は現実的だった。
この身体になってから、大きな湯船に入るのは初めてだ。
シャワーで汗を流すので精一杯で、それ以上の余裕なんてなかった。
「……圭は、平気なのかよ」
「何が?」
「その、見られるのとか」
「湊ほどは気にしてない。まぁ、さすがに今の身体で他の男共と一緒は無理だけど」
圭は苦笑して、自分の前髪をいじった。
「だから、二人で。ルベルも連れてってやろうぜ。甲羅洗ってやれよ」
「キュッ?」
足元で丸くなっていたルベルが、名前を呼ばれて顔を上げる。
湊はしばらく黙ってから、小さくうなずいた。
「……分かった。一回、行ってみる」
「じゃ、行こっか」
「お、おう」
大浴場の扉の前に立つと、さっきよりも湯気が濃い。
圭がさっと中をのぞき、誰もいないことを確認してから、湊を手招きした。
「大丈夫。貸し切り」
「なんか……変な感じするな、これ」
「ん? 何が?」
「男子校で、“女子二人で貸し切り風呂”って」
「最高じゃん」
圭はあっさりと言ってのける。
「文句あんの?」
「……ない」
そう答えて、自分でも情けなくて笑った




