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第55話 実戦テスト②

 動く鎧が、再びこちらに向かって踏み込んでくる。


 さっきよりも、わずかに速い。

 だが、それでもサソリやロブスターの突進ほどではない。


「歩幅読める。落ち着いていこうぜ」


川端の声が、広間に落ち着いた響きを残す。


「牛久、右膝から」


「延徳は腕を潰せ」


「二階堂は、止まったところをぶっ叩け」


「了解」


「はいよ」


「任せろ」


 三人の返事が、ほぼ同時に返ってきた。


 鎧の剣が振り上がる。

 その瞬間には、すでに牛久が動いていた。


「──っ!」


 低く潜り込むように踏み込んで、槍の穂先を右膝へ。


 ガンッ。


 硬い。

 だが、さっきよりも明確に「引っかかる」感触があった。


「右膝、少し沈んだ!」


 すぐさま延徳のハルバードが、左腕を狙って横から飛び込む。


「おらっ!」


 刃ではなく、柄の中程で叩きつける。

 金属音とともに、鎧の左腕がわずかに軌道を外れた。


 剣先が、牛久の肩の上を空切りする。


「今!」


 鈍い衝撃が、メイス越しに腕まで突き抜けた。


「……っしゃ!」


 膝のプレートが割れ、鎧の右脚がぐらりと崩れる。


 姿勢が、一瞬だけ大きく傾いた。


「次、左足!」


 牛久が、すかさず左足首へと槍を滑り込ませる。


 さらに乱れる。


「延徳!」


「分かってる!」


 延徳のハルバードが、鎧の背中側から首元へと回り込む。


 刃先ではなく、フック部分を首の隙間に引っかけるようにして──


「そらよ!」


そのまま思い切り引っ張った。


 バランスを完全に崩した鎧が、前のめりに倒れ込む。


 ドン、と重たい音が広間に響いた。


「頭、空いた!」


ガシャァンッ!


 ヘルム部分が派手な音を立ててへこみ、そのまま砕けた。

 中からは、何も出てこない。

 空洞だった。


 鎧の体が、糸の切れた操り人形のように、力を失って崩れ落ちる。


 静寂。


二階堂が、メイスを肩に乗せたまま、足先で鎧を軽くつついた。


 動かない。


「うん。完全に沈黙してる」


 宝殿が、前に出て慎重に確認する。


「打撃と関節狙いで、ちゃんと崩せたね」


「いい感じに“教科書通り”だったな」


 川端が、前線三人を見回す。


「牛久が膝を沈めて、延徳が腕止めて、二階堂が割る。第四階層の“標準パターン”にできそうだ」


「毎回こんな綺麗に決まるかよ」


 そう言いつつも、二階堂の表情は悪くない。


「でも、さっきのサソリとロブスターより、こっちの方が分かりやすくていいな」


「“硬いから、殴る場所工夫しろ”ってだけだし」


「手応えあったろ」


 牛久が槍をくるりと回す。


「足止めに関しては、オレと延徳で十分やれる。お前は安心して“ラストハンマー”やってりゃいい。相手”には刺さってる」


 川端が、メイスと槍とハルバードを順に見る。


「第四階層は、“俺たち前衛三人のテスト場”って感じだな」


「テストでこれなら、実戦でもどうにかなりそうだけどな」


 二階堂が、崩れた鎧を見下ろす。


「何体か、まとめて突っ込まれると面倒だけどな」


「そのときは、そのとき用に、また崩し方考えればいいさ」


 川端の言葉に、三人はそれぞれ武器を軽く構え直した。


「よし。一回ここで区切るか。広間の出口まで様子見て、今日は“第四階層の顔見せ”ってことで帰還しようぜ」


「賛成」


「おうよ!」


「風呂と飯は逃したくねぇしな」


「お風呂楽しみ」


笑い混じりの声を背に、五人は広間の奥へと歩き出した。


 第四階層は、まだ入り口を見せたにすぎない。

 けれど、少なくとも──


「前衛三人で、ちゃんと殴り合える階層だな」


 川端の小さな呟きに、誰も否定の言葉を返さなかった。

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