第51話 呼び出し
今回は珍しく相川の一人称。
一方その頃……相川 昇は、湊と圭に呼び出され、『サニタリー・ゾーン』内の個室部屋の前に来ていた。
サニタリー・ゾーンの空気は、いつ来ても少し冷たい。
けれど、その日のオレは、いつもより心臓の鼓動がうるさかった。
「相川。こっち」
八千穂君が、慣れた様子で部屋のプレートの前に立つ。
オレが部屋の前へ来ると、八千穂君は勝手にドアノブを回した。
「おっじゃまー」
「ちょ、八千穂くん、勝手に開けないで……!」
抗議する声と同時に、扉が開く。
中から、柔らかい光と、少しだけ甘い匂いが流れてきた。
「……あ」
思わず、声が漏れる。
ベッドの端には、女の子が一人座っていた。
黒髪のショートカット。見慣れた顔立ちの男子……のハズだった。
男の頃は、あまり印象に残らない……といった印象を受ける相手だった。整った顔立ちはしている為、髪さえ伸ばせば「女子」に見えるだろうなと思っていたけれど──
実際に、今目の前にいるその子は、完全に「女子」だった。
言うまでもなく東金 湊君。
もう一人は、その隣に飛び込むように寝転がりにいった長身の女子。八千穂 圭君。元々はアイドル顔負けのイケメンだっただけに、妙な違和感がある。
女体化して一層際立つ、八千穂君のあまりの美少女ぶりに、咄嗟視線を逸らす。すると、その先には東金君の姿があった。
その格好を見た瞬間、オレの思考は完全に止まった。
上は学校指定のジャージの上着。
しかし前はラフに開けられていて、その下にはグレーのタンクトップ。
下は、膝上どころか太ももがほとんど見えているショートパンツ。
さっきまで体育倉庫でだらだらしていたみたいな、完全オフの服装。
男子更衣室で会っていた東金君は、もう、どこにもいなかった。
「……」
言葉が出ない。
出たとしても、何を言えばいいのか分からない。
「ほら、ちゃんと鍵閉めとけって言ったろ」
八千穂君が、呆れたように肩をすくめる。
「別に変なことしてたわけじゃねーし……」
東金君が小さくむくれる。
その拍子に、タンクトップの肩口がわずかにずれて、細い肩が覗いた。
視線の置き場に、本当に困る。
「……あの」
ようやく声を絞り出すと、東金くんがこちらを振り向いた。
「ご、ごめん相川! 今ちょうど着替えてたとかじゃなくて、その……」
「ほら、今みたいに突然、男子が入って来たらお前も困るだろ? 今回は俺みたいな美少女と無害な凶悪顔男子だけだったからよかったけど」
八千穂君が、冗談めかした感じで口を挟んでくる。
「……ていうかさ」
彼はじろっと俺を見た。
「なあ相川。お前、今の状況、自覚ある?」
「自覚……?」
「サニタリーゾーン内の、湊の専用部屋に」
「女子二人と魔物一匹……と、一緒に閉じ込められてる男子が一人」
言われて、ようやく状況が頭の中で組み上がる。
サニタリーゾーン。
東金くんの個室。
女子二人。
ルベル。
そしてオレ……。
「……っ」
耳まで一気に熱くなるのが分かった。
「圭、その言い方やめろって!」
東金君が真っ赤になって抗議する。
「事実だろ」
「事実だけどさ!」
わあわあしていた二人だったが、
オレの様子に気付いた東金君が、困ったように笑って声を掛けてきた。
「と、とりあえず座って。立ってると落ち着かないし」
促されるまま、オレはベッドの反対側の端に腰を下ろした。
女子二人と向かい合う形になる位置だ。
ルベルが「キュッ」と鳴き、オレの足元に転がってくる。
いつも通りの、少し冷たい甲羅の感触だけが、妙に現実的だった。
心臓の音は、まだうるさいままだった。




