第47話 階層ボス撃破ボーナス
湊の目の前に、例の光るダイスがぽん、と浮かび上がった。
『第三階層ボス撃破ボーナス。特別報酬ダイスを付与します』
機械じみた声が、待機エリアに響く。
全員の視線が、自然と湊とダイスに集まった。
「え、また俺?」
「おう、今回も東金でいいだろ」
「広域殲滅の主犯は圭だし、女装被害者代表も東金だしな」
「意味わかんない理由で押しつけないでよ!」
口では抗議しつつも、湊はもう慣れた手つきでダイスを掴む。
前みたいなペナルティは無いと説明されているとはいえ、あの一回きりの「とんでもない願い」が頭をよぎって、指先が少しだけ震えた。
「……じゃあ、行きます」
小さく息を吸って、湊はダイスを放る。
宙を転がる光が、ぱちぱちと弾けるように明滅して──ぴたりと止まった。
『結果を表示します』
空中に、青白いウィンドウが開く。
『第三階層特別報酬:待機エリア拡張・大浴場』
『次階層、すなわち第四階層滞在中に限り、待機エリアの面積を二倍に拡張します』
『拡張エリア内に、大浴場施設を一基設置します』
『当該大浴場は、第四階層使用時のみ利用可能です』
淡々としたアナウンスに、場が一瞬静まりかえった。
「……え?」
湊が思わず素で声を漏らす。
「それって……」
「待機エリアが広くなって……」
「大浴場……?」
誰かがゆっくりと単語を反芻した瞬間、
空気がはじけた。
「風呂じゃん!」
「湯船だ! マジの風呂だ!」
「サニタリーのシャワーだけじゃなくて!? 浸かれるやつ!?」
一気に立ち上がるやつ、トーストを握ったままガッツポーズを決めるやつ。
待機エリアが、さっきまでとは比べものにならない騒がしさに包まれる。
「ちょ、うるさい、耳が死ぬ!」
湊は両手で耳を押さえながら、しかし口元の緩みを止められなかった。
ずっと、シャワーだけの世界だった。
汗も血も、とりあえず流せればいい、という割り切りの設備。
そこに、突然の「大浴場」。
「……やば。絶対気持ちいいやつじゃん」
ぽつりと本音が漏れる。
横から、圭が肩を小突いてきた。
「お前が振ったんだから、素直に喜んどけ」
「圭のおかげでもあるでしょ、ポイント的に」
「まあな。でも風呂はデカいぞ。手足伸ばして、身体ちゃんとほぐせる」
圭は何でもないといった感じの表情のまま、口調だけ少しだけ弾んでいた。
「ってことは、第四階層の待機エリア、二倍の広さに湯船付きってことだよな……」
「やべぇ、今から第四階層入りたくなってきた」
「まず攻略だろ。風呂はそのあとだ」
柊のもっともなツッコミに、何人かが「ですよねー」と笑う。
『補足説明。大浴場の利用は、サニタリーゾーンの制限時間とは別枠で処理されます』
『入浴中の生徒は、休息判定および軽度回復判定に有利な補正を得ます』
「回復ボーナス付きとか、至れり尽くせりだな、おい」
「第三階層まで頑張ったご褒美ってやつだろ」
誰かの言葉に、湊はこくりとうなずく。
ここまで、怖い思いも、痛い思いも、たくさんした。
それでも、みんな生きて第三階層を抜けた。
その先に用意された、一度きりの大きな湯船。
「……よし。第四階層も、ちゃんと帰ってきて」
「みんなで、風呂入ろう」
湊の小さな宣言に、
「おー!」という返事と、笑い声が重なった。
こうして、第三階層は幕を閉じた。




