第42話 第三階層ボス戦②
川端の炎がスライムの外側を削っていくたびに、部屋の温度がじわじわと上がっていく。
それでも、カマキリの動きそのものは鈍らなかった。
「動きは、まだ落ちてないな」
柊が手甲で鎌をいなしながら、短く言う。
ムーヴで最小限だけ位置をずらし、拳を叩き込んでも、手応えは柔らかいままだ。
「こっちも、押し切る感じじゃないな」
牛久の槍が胴を貫き、スライムの体がぶよりとへこむ。
すぐに形を戻したカマキリが、頭をかしげるように揺らした。
次の瞬間、頭の奥で何かがぎらりと光る。
「来るぞ!」
延徳が声を上げたと同時に、片方の鎌がまっすぐ突き出される。
さっきまでの振り下ろしとは違う、一直線の速い刺突だった。
「――っ!」
牛久がとっさに槍を横にして受ける。
重い衝撃が腕をしびれさせ、足が一歩、床を滑った。
「牛久!」
湊の声と一緒に、ルベルが「キュッ!」と鳴いて飛び出す。
鎌の側面に体当たりをかけ、軌道をわずかにそらした。
それでも、鎌の先端が牛久の槍をかすめる。
スライムがべったりと金属にまとわりつき、じわりと白い煙が上がった。
「……溶けてるな、これ」
牛久が顔をしかめる。
「ルベル、下がれ!」
湊が叫ぶと、ルベルは「キュウ!」と短く返事をし、すぐ距離を取った。
「今の突き、さっきより明らかに速かった」
柊がボスの頭部をにらむ。
「頭の中で、何か光ったよな。あのタイミングで」
延徳が低く言う。
「あぁ。さっきも、一回だけあった。あそこが動いたときだけ、突きが一段階速くなってる」
牛久が息を整えながら答えた。
「外側のスライムは、川端で削れる。けど、動きそのものは、中身が決めてるってことか」
柊の言葉に、湊が小さくうなずく。
「風連」
呼ばれて、風連がびくりと肩を揺らした。
「……何だよ」
「ワン・サードで、あいつの“速さ”を落とせないか。突きの速さとか、動きそのものとか」
湊ができるだけ具体的に言葉を選ぶ。
「全部まとめて、は多分無理だ。でかすぎるから」
風連は、スライムカマキリの頭部をにらむ。
圧だけで胃が縮む感覚を、ぐっと飲み込んだ。
「でも、さっき速くなった瞬間が、分かった。あの“光ったときの突き”だけなら、狙えるかもしれない」
「突きの速度を、三分の一にできれば、前衛でさばけるはずだ」
柊が静かに続ける。
「……分かった。あの“速くなる瞬間”を、三分の一にする」
風連は、汗ばむ手をぎゅっと握りしめた。
いつものように、大きさや重さをいじるのではなく、「速さ」を狙うのは初めてだ。
「俺たちが、もう一回、あの突き出させる。風連は、光った瞬間だけ、意識を全部そこに向けてくれ」
湊が言うと、ルベルが「キュッ」と短く鳴いた。
「おう、もう一発くらいなら、何とか受ける」
牛久が槍を構え直す。
「長い突きが来たら、俺がムーヴでずらす。そのあいだに、頼む」
柊の視線が、風連と一瞬だけ交わった。
「……やってみる」
風連は小さく答えた。
ワン・サードの感覚を、頭の中で何度もなぞりながら。




