第41話 第三階層ボス戦①
第三階層ボス部屋の扉を押し開けると、そこは、さっきまでのむっとした熱気がウソのように涼しげな空気に包まれた空間だった。
「……やっぱ、ボス部屋の範囲までは巻き込めてねーんだな。あわよくば、とか少しは期待したんだがな」
牛久が苦笑しながらそう言う。
広い部屋の中央に、それはいた。
他のスライムより一回り大きい、半透明の塊。
ただの球ではなく、細長い前肢と三角形の頭部を形作っている。
「カマキリ……?」
湊が思わずつぶやく。
スライムでできた鎌がゆっくり持ち上がる。
内側には、うっすらと固い刃と甲殻の影が見えた。
「普通のスライムより、だいぶ気持ち悪いな、これ」
延徳が低くつぶやく。
「湊、どうする」
柊が短く問いかける。
すでに両手の手甲を軽く握りしめ、足の裏で床の感触を確かめていた。
「まずは様子見。柊と牛久、前に出て牽制。延徳は一歩下がり気味からハルバードでカバー。川端は、スライム部分がどれくらい燃えるか見たいから、最初は小さめに」
「了解」
川端が右手を前に突き出す。
「風連は、後ろからワン・サード準備して。動き見て、タイミング合いそうなところで」
「……分かった」
風連が、ごくりとのどを鳴らしながらうなずく。
「ルベルは、前衛のフォロー。やばそうなのが来たら、すぐ下がって」
湊がそう告げると、肩のあたりにいたルベルが「キュッ」と鳴き、前へと滑るように飛び出していった。
「行くぞ」
牛久が一歩踏み出す。
それに合わせて、柊が横に広がり、延徳のハルバードが肩の高さに上がった。
半透明のカマキリが、ぎしりと軋むように動く。
次の瞬間、スライムで形作られた鎌が、あり得ない速度で前衛へと振り下ろされてきた。
「速い」
柊が一歩だけ床を蹴る。
ムーヴで最小限だけ位置をずらし、鎌の軌道から外れる。
鎌の先が床をなぞり、石の表面にぬるりとした粘液が張り付いた。
「触るな、それ。装備やられる」
湊の声が飛ぶ。
「おう!」
牛久が短く返し、槍の穂先で鎌の外側をはじいた。
金属とスライムがぶつかる鈍い感触が、腕に伝わる。
「川端、いけるか」
「あぁ、試してみる」
川端の掌に、淡い炎が灯る。
狙いを絞り、ボスの鎌の付け根あたり、スライムが厚く溜まっている部分へ向けて、細い火線を走らせた。
炎が触れた瞬間、スライムの表面がじゅっと音を立てて縮む。
「燃えるな。行ける」
川端の目が細くなる。
「じゃあ、焼きながら、本体の弱いとこ探ってく感じでいこう。風連、今はまだ待機でいい」
「……おぅ」
風連が、ボスの動きを目で追いながら、静かにワン・サードの準備を進める。
その肩越しで、ルベルが「キュキュー」と短く鳴いた。
第三階層ボス戦が、本格的に動き出した。




