第38話 分配
柊が決めた配分に従って、魚肉ソーセージとおにぎりが手際よく分けられていく。
前衛組の手のひらに、薄く輪切りにされたソーセージが一切れずつ乗せられた。
おにぎりは二つを四つに割り、それぞれ一人分として渡される。
「風連、先に食え」
柊が、おにぎりの一切れを差し出した。
「べつに、俺は──」
風連が反射的に言いかけたところで、腹の虫がぐうと鳴った。
周囲が一瞬だけ静かになる。
「説得力ゼロだぞ」
湊は苦笑しながら、風連の手におにぎりを押しつけた。
「今いちばん腹減ってんのお前だろ。
体でかいぶん、減り方もエグいんだから、遠慮すんなって」
風連は一瞬だけ迷ってから、小さく息を吐いた。
「……悪い」
短くそう言って、おにぎりにかぶりつく。
ごま塩の匂いが、ふわりと広がった。
その表情が、一瞬だけ本当に幸せそうに崩れる。
湊は、それを見て少しだけ胸が痛くなった。
自分の腹は、そこまできつくない。
ルベルと川端に紛れて、能力リセット前のパナシーアをこっそり自分でも飲んでいることを、ここにいる誰も知らないからだ。
「うまいな、これ」
風連が、噛みしめるようにぽつりと言う。
「ただのごま塩おにぎりなんだけどな」
圭が笑う。
「今はそれが、一番のごちそうってことだろ」
前衛のほかの連中も、それぞれ自分の一切れのソーセージを口に運ぶ。
薄い輪切り一枚だけなのに、みんな妙に静かだ。
噛む音が、やけに鮮明に耳に入ってくる。
川端は、少し離れたところで、温かいスープのカップを両手で包んでいた。
湊と目が合うと、いつものように「俺はこれで充分だって顔」をして、軽く顎を上げる。
湊も、何も言わずにうなずき返した。
ほんのわずかな固形物に、ここまで空気が変わる。
それを目の当たりにしながら、湊は思う。
自分の秘密も、川端の秘密も、この場では口にしない方がいい。
いま優先されるべきなのは、腹を鳴らして笑われた風連と、前に出て傷だらけになっている連中だ。
薄い輪切りと、小さなおにぎりの一切れ。
そのささやかな重みを、みんなが黙って噛みしめていた。




