↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
40/60

第38話 分配

 柊が決めた配分に従って、魚肉ソーセージとおにぎりが手際よく分けられていく。


 前衛組の手のひらに、薄く輪切りにされたソーセージが一切れずつ乗せられた。

 おにぎりは二つを四つに割り、それぞれ一人分として渡される。


「風連、先に食え」


 柊が、おにぎりの一切れを差し出した。


「べつに、俺は──」


 風連が反射的に言いかけたところで、腹の虫がぐうと鳴った。


 周囲が一瞬だけ静かになる。


「説得力ゼロだぞ」


 湊は苦笑しながら、風連の手におにぎりを押しつけた。


「今いちばん腹減ってんのお前だろ。

 体でかいぶん、減り方もエグいんだから、遠慮すんなって」


 風連は一瞬だけ迷ってから、小さく息を吐いた。


「……悪い」


 短くそう言って、おにぎりにかぶりつく。


 ごま塩の匂いが、ふわりと広がった。

 その表情が、一瞬だけ本当に幸せそうに崩れる。


 湊は、それを見て少しだけ胸が痛くなった。


 自分の腹は、そこまできつくない。

 ルベルと川端に紛れて、能力リセット前のパナシーアをこっそり自分でも飲んでいることを、ここにいる誰も知らないからだ。


「うまいな、これ」


 風連が、噛みしめるようにぽつりと言う。


「ただのごま塩おにぎりなんだけどな」


 圭が笑う。


「今はそれが、一番のごちそうってことだろ」


 前衛のほかの連中も、それぞれ自分の一切れのソーセージを口に運ぶ。

 薄い輪切り一枚だけなのに、みんな妙に静かだ。

 噛む音が、やけに鮮明に耳に入ってくる。


 川端は、少し離れたところで、温かいスープのカップを両手で包んでいた。

 湊と目が合うと、いつものように「俺はこれで充分だって顔」をして、軽く顎を上げる。


 湊も、何も言わずにうなずき返した。


 ほんのわずかな固形物に、ここまで空気が変わる。

 それを目の当たりにしながら、湊は思う。


 自分の秘密も、川端の秘密も、この場では口にしない方がいい。

 いま優先されるべきなのは、腹を鳴らして笑われた風連と、前に出て傷だらけになっている連中だ。


 薄い輪切りと、小さなおにぎりの一切れ。

 そのささやかな重みを、みんなが黙って噛みしめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。