第37話 交換
【交換品一覧】
板チョコ
カップラーメン
魚肉ソーセージ
おにぎり×2(ごま塩)
缶コーヒー
缶コーラ
小フライパン
飯盒
米(一キロ)
相川が自分の目の前に表示されている交換品の一覧を読み上げる。
「……小規模だけど、なんか田舎のスーパーとかコンビニみたいな内容だな」
誰かがぽつりと漏らす。
「魔物の肉とかじゃなくて、完全に人間界のラインナップか」
柊も、半ば呆れたように表示を見つめた。
「で、それぞれ何ポイントなんだ?」
圭が相川を見る。
「あ、えっと……」
相川は慌てて、自分の視界の数字を読み上げた。
「板チョコが、蟻十体ぶんくらい。
魚肉ソーセージ一本が、蟻十五体。
おにぎりセット二個で、蟻二十五から三十体くらい。
カップラーメンは、ソーセージよりちょい高い。
缶コーヒーとコーラは、蟻八〜十体くらい、かな」
「思ったより、ちゃんと“頑張ったら届く”くらいの値段だな」
加島が腕を組む。
「第三階層を普通に歩いて戦ってりゃ、一日数セットは現実的って感じか」
「ただし、全部を食い尽くす前提ならな」
柊が釘を刺す。
「米一キロや飯盒は、完全に長期戦用の備蓄だ。
ここでポイントを全部使い切るわけにはいかない」
「『サニタリー・ゾーン』の備蓄食料のストックは?」
湊が問うと、宝殿がすぐに答えた。
「スティックタイプの栄養補助が、一人あと一本ずつ。
バターロールが、全体で数袋。
それで、一応“倒れないだけの栄養”は確保できます」
「つまり、サニタリーだけだと“死にはしないけど、常に腹は足りない”ってラインだな」
圭がまとめる。
「マルシェは、その上にちょっとだけ乗せて“まともな食事に近づける”役」
「じゃあ今日のテーマは、“この先の探索に耐えられるだけの最低限+士気が下がりすぎない程度”だ」
柊が全員を見渡した。
「いきなり米一キロと飯盒を買うのは保留。
米は強い敵やボスを倒して、ポイントに余裕が出た時に回す」
誰も異論は挟まない。
「だったら、即効性のあるやつからだろ」
加島が指を折る。
「今すぐ食えて、腹持ちよくて、戦闘前後のエネルギーになるやつ。
魚肉ソーセージと、おにぎり。あと、状況見て板チョコ一枚くらい」
「お試しでそれくらいが妥当だな」
柊も同意する。
「魚肉ソーセージを、今日の前衛組に。
おにぎりは、特に消耗の激しいやつに一セットだけ。
板チョコは“誰かの限界が近づいた時用”に一枚キープが理想だ」
「前衛っていうと、柊と八千穂と……」
湊が数えかける。
加島が何気なく聞いた。
「どうせ噛めねえだろ、ってのは分かってるけど、一応……」
「だから、それでいいって」
川端は肩をすくめた。
「俺はどうせ、固形は無理だし。
迷宮の栄養ドリンクとスープ飲んでりゃ、死にはしねえようにできてんだろ、多分」
空腹感については、あえて口にしない。
「大して腹も減らない」という事実は、わざわざ他人に言うほどのことではないと思っていた。
「食えるやつに、食えるもん優先してやれよ。
俺は横で温かいの飲んでるから、それで充分だって」
あくまで軽く言い切る。
「……そういうことなら」
柊は短く息を吐いた。
「今日のマルシェ枠は、前衛の消耗が激しい連中を最優先。
川端はいつも通り、迷宮ドリンクとスープで維持。食える奴に優先して回す……ってことでいいか?」
「異論なし」
川端が先に言った。
「ポイントは有限だしな。
どう考えても、前に突っ込んでるやつ優先でいいだろ」
「じゃあ決まり」
圭が手を叩く。
「相川、とりあえず今日は──魚肉ソーセージを三本と、おにぎりセット一回ぶん。
板チョコは一枚だけ買って、“誰かが本気で折れそうなとき用」にキープしようぜ」
「……う、うん。やってみる」
相川がこわごわ頷き、交換のイメージを固めた。
湊の視界の数字が、一瞬だけチカ、と揺れる。
現在ポイント:432 → 327
続いて、空間がゆらりと歪み、ビニール包装の魚肉ソーセージが三本と、ごま塩おにぎりが二つ、そして銀紙に包まれた板チョコが一枚、ぽとりぽとりと床に落ちた。
「……本物だ」
誰かがごくりと喉を鳴らす。
「じゃ、配るぞ」
柊が立ち上がった。
「前衛組は一人四分の一本ずつソーセージ。
おにぎりは、さっき一番削られてた二人に半分こ。
板チョコは──今日はまだ封を切らない。持っておく」
そう宣言したうえで、柊は一拍置いて付け足した。
「これは“今日を生き延びるための分配”だ。
味わうのは自由だが、“明日も戦うための食い方”を忘れるな」
第三階層の入り口で、彼らはようやく口にする。
迷宮が与えたものではなく、自分たちが戦って手に入れた、最初の一口を。




