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第35話 食料問題

「……とりあえず」


 柊が息をつきながら言った。


「服の話は一旦置いておいて、食料の配分を先に決めよう。

 今日の分をどう回すか、それを決めないと、この階層の方針も立てようがない」


 その提案に、周囲がうなずきかけた、そのときだった。


「待った。その前に、服の方だけ一個整理していい?」


 通路の奥から、少し軽めの声が飛んできた。


「圭ちゃん」


 振り向いた宝殿が、小さく名前を呼ぶ。


 金髪の長身が、こちらへ歩いてくる。

 八千穂圭だ。女体化した今も、歩き方や声のトーンは、以前と変わらない。


「悪ぃ、ちょっと聞こえちまってさ。女子制服がどうとか」


加島が肩をすくめる。


「東金のジャージがあの有様だからさ。

 替えの男子服も足りないし、余ってる資源っていったら女子制服くらいじゃん、って話」


「資源って言い方はやめろって」


 湊が小声で抗議する。


「で、東金は女子制服、今は嫌なんだろ?」


 圭がごく当たり前の確認のように尋ねる。


「……少なくとも、この場で即決させられるのは、勘弁してほしい」


「だよな」


 圭はあっさりうなずいた。


「じゃあさ。女子制服、一着は俺が先にもらう。

 見た目でもサイズ的にも、どうせ着られるの、今のメンバーだと俺くらいだし」


「え、お前が?」


 加島が目を丸くする。


「今はこんな見た目だし……ウチは女兄弟いるせいか、女子の制服なんかも湊よりは身近にあったからな。

 今さらスカート一本増えたところで、そんなダメージねぇよ」


 圭は、さらっと言った。


「それに、動きやすいかどうかって意味なら、自分で確かめといた方が早いし。

 “女子制服が実際どんなもんか”のレポート役くらいにはなれるだろ」


「……レポート役って」


 湊は苦笑するしかない。


「湊の分は、“選択肢”としてだけ置いとこうぜ。

 この先、どうしても必要になった時に、自分で選べるように」


 圭は、湊の方をまっすぐ見た。


「今このタイミングで、嫌がってる奴を無理やり着替えさせるのは、さすがに違うと思うし」


 その言い方に、宝殿がほっとしたように小さく息をついた。


「……圭ちゃんの言う通りだと思う」


 宝殿はうなずく。


「選べる余地があるのと、最初から奪われてるのとでは、全然違うからね」


「だそうだぞ、加島」


 圭が肩で小突くと、加島は両手を挙げた。


「はいはい。分かりましたよ、“今ここで無理やりはしない”。

 女子制服の件は、一旦、圭に一着渡して終わりで」


「最初からそれでよかったんだよ」


 湊は小さく息を吐いた。


「じゃあ服の話は、ひとまず整理ってことで」


 圭が場を見渡す。


湊は小さく息を吐いた。



「その上で、食料の話な」


 そう言って、圭は一人の男子を手招きした。


「おい、さっきから後ろでモジモジしてる“食料召喚系になりたいマン”。

 こっち出てこいよ。今が自己紹介のチャンスだぞ」


 湊が目を瞬かせる。


「ああ。こいつ、“食料が出せる系の能力”希望でペナダイス振ったやつな。

 まだちゃんと話してなかったろ」


 圭は肩をぽんと叩く。


「食料配分の前に、“どこまでなら補える可能性があるか”を、こいつから聞いといた方がいいだろ」


 温度と話題を、するりと切り替えながら。

 八千穂圭は、第三階層の空気をごく自然に、次の段階へと押し出していった。

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