第31話 宝殿の独白
湊と別れて数分後。
宝殿は、待機エリアの隅にある空きベンチを見つけて、そっと腰を下ろした。
「……ふう」
誰に聞かせるでもない吐息が、石壁に吸い込まれていく。
さっきまで向かいにいた東金湊の姿を、頭の中でなぞる。
細くて、華奢で、服の上からでも分かるくらいに「女の子の形」をしていて。
「反則だよね、あれは」
思わず、声に出ていた。
男子校にいたころ。
「宝殿は女顔だから」
「満、なんか女子みたい」
そう言われて、からかわれて、笑われて──それでも、嫌ではなかった。
自分が“ちやほやされる側”にいることに、いつの間にか慣れていた。
「今は、東金くん、か」
さっきの待機エリア。
誰かが湊に毛布を持ってきて、別の誰かが飲み物を渡してやっていた。
その輪の中に、自分の姿はなかった。
「……別に、いいけど」
口の中でつぶやいて、自分でもその言い方が少しだけとげとげしいと感じる。
湊のことを嫌いかと言われたら、そうではない。
むしろ、外見だけなら、好みのど真ん中だ。
「かわいいよね、東金くん」
自分好みの、線の細い、守ってあげたくなるタイプ。
それを、みんなも同じように見ている。
それが、胸の奥をちくりと刺す。
「ボクも、ああなれたら……」
そこで、思考が止まる。
この世界のペナルティは、時間では消えない。
それは、何度も、何度も聞かされた言葉だ。
女体化がペナルティになることは、もう分かっている。
湊が、その証拠だ。
「でも、ボクがペナルティダイスを振ったからって、ああなるとは限らないし」
かすかに笑う。
女体化を願ったとして、その「望み通り」になる保障なんて、どこにもない。
もっとひどい形で変えられるかもしれない。
外見だけ魔物みたいにされるかもしれない。
願い方によっては、ろくなスキルすらもらえずに、ただデメリットだけを抱える可能性だってある。
「……それは、さすがに、いやだなあ」
ベンチの端に置いた自分の手を見つめる。
細くて、指は長くて、「女の子みたい」と言われてきた手。
「東金くんは、望んでないのに、ああなっちゃったのに」
ボクは、少しだけ、うらやましい。
ボクは、少しだけ、怖い。
それが、今の自分の正直な気持ちだと、宝殿はようやく認めた。
「……ボクのクリエイトポーション、二十回しか使えないけど」
ぽつりと独り言が落ちる。
「その間に、ちゃんと見ておこうかな。
東金くんが、どうやって“あっち側”で立ってるのか」
あっち側。
ちやほやされる側。
守られる側。
そして、中心に立たされる側。
「ボクは、どこまで行けるんだろ」
問いに答える声はない。
けれど、発光石の白い光だけが、宝殿の横顔を淡く照らし続けていた。




