第29話 クリエイト・ポーション
第二階層のボスを倒し終えたあと、しばらくは勝利の実感より疲労の方が強かった。
誰もが息を整え、壁や床に体を預けている。
無傷のやつなんて一人もいない。
それでも、頭の奥に響いたあの声で、全員が顔を上げた。
『第二階層ボス撃破を確認しました。
階層ボス撃破ボーナスを実行します。
代表で一人ダイスを振って下さい』
ペナルティダイスとは違う。
階層ボス撃破ボーナスのダイスには、少なくとも露骨な代償はない。
だから空気は張っていても、あの嫌な重さまではなかった。
とはいえ、誰が振るかとなると、ほんの一瞬だけ間ができる。
その時だった。
「じゃあ、僕が振ってもいいかな?」
名乗り出た声に、何人かがそちらを見る。
宝殿 満だった。
もともと目立つやつだ。
女顔の整った顔立ちに、華奢な体つき。
男子しかいない教室では、何もしなくても視線を引く。
転移前はちやほやされることの多かった宝殿が、こうして自然に前へ出るのも、別に不思議なことじゃなかった。
「珍しく積極的だな」
川端が言うと、宝殿は少しだけ眉を上げた。
「ボーナスなんでしょ。だったら遠慮する理由もないかなぁって」
「まあ、それはそうだな」
風連がうなずく。
柊も特に反対はしなかった。
湊は黙って宝殿を見る。
前に出ること自体は、こいつに似合っている。
目立つことに慣れているやつの自然さがあった。
床の中央に、淡い光の輪が浮かんだ。
その中に現れた青い宝石のようなダイスはゆっくりと空中にうかびあがり、宝殿はそれをしゃがんで拾い上げる。
「これって、ペナルティはないんだよね?」
「たぶんな」
「少なくとも今までの感じだと、ボス撃破ボーナスは別枠だ」
何人かが答える。
宝殿は小さくうなずいて、指先でダイスを転がした。
「じゃあ、せっかくだから、振らせてもらうね」
軽く放られたダイスが、石床の上で乾いた音を立てる。
一度、二度、短く跳ねて止まった。
全員の目が、その出目に集まる。
『ボーナスを確認。回復制限付きの簡易スキル『クリエイト・ポーション』を付与します』
「簡易スキルなんてあるんだ」
「普通に便利だな」
「ポーション生成……回復スキルか」
空気が少しだけ和らぐ。
戦闘直後だからこそ、わかりやすく役立つ能力のありがたみは大きい。
宝殿自身も、一瞬きょとんとしたあとで、少し笑った。
「へえ。僕が作る側なんだ」
『スキルの詳細は対象者に開示されます』
直後、宝殿の表情がわずかに変わる。
頭の中に情報が流れ込んだらしい。
目を伏せて内容を確かめ、それから静かに息をついた。
「どうだ」
柊の問いに、宝殿はすぐ答えた。
「回数制限あるみたい。でも、ちゃんと使えるよ。応急処置用としてはかなり助かるかも」
「いいじゃねえか」
川端の言葉に、周囲からも小さく同意が漏れる。
宝殿はダイスを見下ろして、それからいつもの少し人好きのする笑みを浮かべた。
「じゃあ、今後は僕にも働いてもらわないとだね」
その言い方は冗談めいていたけれど、まるきり軽口というわけでもなかった。
戦える力とは少し違う。
それでも、自分に与えられた役目をちゃんと戦力に数えようとしている声だった。
湊はその時、宝殿満という同級生を少しだけ見直した。
目立つやつだとは思っていた。
ちやほやされるのもわかる見た目をしている。
けれど、それだけじゃないのかもしれないと、この時少しだけ思った。




