第24話 赤い弾丸
次の部屋に足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。
石畳の広間。天井は高く、壁際には砕けた石像がいくつも転がっている。その中央で、硬い石の身体を持つ大型の四足の魔物が二体、こちらを睨んでいた。
「石の犬かよ……しかもデッカいのが二体」
風連が小さく毒づく。
固い体を持った大きな四足獣型モンスター。その素早さを利用してこちらを翻弄してくる相手だ。
「圭、どう?」
俺が横を見ると、長い金髪をひとつに結んだ圭が、軽く指を鳴らした。
「テンパーチャーとの相性は悪くない。直接中身焼くか、足場だけ凍らせて転ばせるか」
その声は、スポブラのおかげか、いつもより少しだけ軽く聞こえた。
「ただ、近づきすぎると爪や体当たり食らうな。遠めから崩したい」
「了解」
俺は、フードの中で丸まっているルベルに、そっと声をかける。
「行けそう?」
俺は、フードの中で丸まっているルベルに、そっと声をかける。
「キュッ」
首の後ろで、ルベルが一度だけ小さく鳴いた。
それだけで、十分だった。
俺は前に出る。
前衛の少し後ろ、圭と同じライン。
「東金、無理すんなよ」
川端の声が飛ぶ。
「大丈夫。ルベルと一緒なら、そこまで前には出ないから」
そう言いながら、右手を前に突き出した。
親指を立て、人差し指をまっすぐ伸ばし、残りの指を折りたたむ。
子どもの頃に誰もが一度はやった、「手の銃」の形。
その人差し指のすぐ前に、ルベルがころりと転がり出た。
赤い外甲の小さな体が綺麗な球体となり、その場で高速回転を始める。
キュイン、とでも表現したくなるような甲高い回転音が、指先のすぐ先で響いた。
「位置、オーケー?」
「キュ!」
ルベルの返事と同時に、俺は目標を定める。
右側の石犬……その右前脚。
タックルの初動になる足を止められれば、あとは前衛がどうとでもしてくれる。
「圭、右前脚、少し熱くしておいて」
「任せろ」
圭が、息を吐く音がした。
空気の温度が、ほんの一瞬だけ歪む。
石犬の右前脚の周囲に、陽炎のような揺らぎが生まれた。
甲殻の隙間から、じわりと白い蒸気が上がる。
「今!」
俺は、銃を撃つ真似をした。
引き金を引く動作をする。
「ルベル、ファイア!」
「キュキュッ!」
間抜けな掛け声になったけれど、ルベルは完璧に反応してくれた。
指先から弾かれるように、前方へ射出される。
高速回転しながら、一直線に石犬の足元へ。
テニスボール大の赤い弾丸が、灼けて赤熱化し始めた石の身体にぶつかった。
ガンッ!
鈍い音とともに、石犬の体がぐらりと揺れる。
右前脚が、完全に軸を失った。
圭のテンパーチャーで内部から熱され、ルベルの回転突撃で外側から叩かれた足は、踏ん張りを失ってその場で崩れた。
「今だ、川端!」
鈍い音とともに、石犬の体がぐらりと揺れる。
「任せろ! フレイム」
細く集約させた炎が槍のように一直線に向かってゆき、石犬を貫く。
しかし、身体中を炎で焼かれ、崩れかけの状態でありながら石犬は最後の力を振り絞りこちらへ飛び掛かって来る。
「湊!」
「キュルル……」
俺の元まで戻って来たルベルは、俺から石犬を遮るように前に出ると、そのまま回転し地面に強くバウンド。
跳ねた反動で勢いを付け、下から石犬の頭を砕いてみせた。
「悪ぃ、仕留め損ねちまった」
川端がばつの悪そうな顔で駆け寄ってくる。
「いや、大丈夫。ルベルが助けてくれたから。」
そう言いながら、俺の身体をよじよじとよじ登ってくるルベルを指差して答える。
「キュキュ!」
満足げに頷いた後、再びパーカーのフードの中に入り込んでゆくルベルを横目に見ながら、石犬の残り一体が仲間達に撃破されるのを視界の端に入れる。
いくら重要な回復能力とはいえ、戦闘に参加できないことには若干の後ろめたさがあった……でも、ルベルがいれば戦闘面でも皆のフォローが出来る。
そのことを喜びつつ、フードの中に入り込んでいる小さい仲間をそっと撫でた。




