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第21話 加島の野望・革新


 ダイスが、ぴたりと止まった。


 浮かび上がった目は――六。


『出目六。最大値を確認』


アナウンスの声が、いつになく頼もしく聞こえた。


『願いの内容を優先度高と判定。品質および数量を最大補正します』


「よっしゃあああああ!」


 加島がガッツポーズを決めた。


 男子たちも、どっと湧く。

 

「マジかよ、きっちりクリティカル出しやがった!」


「こういう時だけ有能だなお前!」


「こういう時『こそ』有能なんだよ!」


 加島が、なぜか誇らしげに胸を張る。


 透明な祭壇の上に、白い光が集まり始めた。


 ふわり、と布のような輪郭が浮かび上がり、次々と積み重なっていく。


『女性用下着セット、支給します』


 やや言いづらそうに聞こえるアナウンスの言い回しが、逆にじわじわくる。


 光が収まると、そこには箱がいくつも並んでいた。


 大きさも色もまちまちだが、共通しているのは、どれもそこまで派手な見た目ではないということ。


 圭が、一番手前の箱を慎重に開けた。


「……おお」


 中には、黒とグレーを基調にしたスポーツブラとショーツが、きっちりセットで収まっていた。


 変なレースもリボンもない。


 ショルダーストラップは太めで、背中側はホールド感のありそうなデザイン。


 ショーツも、動きやすさ優先のラインだ。


「完全に狙い通りじゃん」


 圭が、素直に感嘆の声を漏らす。


「サイズも……こりゃすげえな。ちゃんと幅広く揃ってる」


 別の箱を開けると、今度は白ベースにワンポイントカラーのスポブラが並んでいた。


 さらに別の箱には、くすんだ青やワインレッド系の落ち着いた色味のものが。


「可愛い系っていうか、シンプルオシャレって感じだな」


 圭が、ひとつ持ち上げて肩に当ててみる。


 男子たちが全員、反射的に視線をそらした。


「見ないでって言った方がいい?」


 苦笑しつつウィンクをしてみせる圭。


「その前に女の自覚持ってくださーい」


 誰かの突っ込みに、笑いが起きる。


 とりあえず、機能面とデザイン面は、ほぼ理想的だ。


 さすが最大値。


「……やるじゃん、加島」


 圭が、心底感心したように言う。


「こういう状況にはめっぽう強い男だからな、俺は」


 加島がどや顔を決める。


 そのときだった。


「あれ?」


 圭が、別の箱を覗き込んで首をかしげた。


「これは……」


 中に入っていたのは、明らかにさっきまでと仕様が違うものだった。


 レース。リボン。やけに面積の少ない、薄い布。


「おっと?」


 加島の目が輝く。


「いやいやいやいや」


 圭が即座に箱のふたを閉めた。



「これは違う。今の流れ的にこれは違う」


「でも出ちゃったもんはしょうがなくね?」


「お前の願いの文言、どこまでが有効範囲だったんだよ」


「『運動用メインの女性用下着セット』って言ったし……『メイン』ってことは、サブもあるかなって」


「言い訳がオタク」


 男子たちが、ざわざわと集まってくる。


 別の箱を開けたクラスメイトが、微妙な顔をした。



「おい、こっちは……なんかサイズ合わなそうなんだけど」


 中には、小さめのものから、どう考えてもこの場の誰にも合わなそうなサイズまで、バラバラに詰め込まれている。


「サイズ外の下着?」


「いや、もしかしたら、今後増えるかもしれない『女子』用かもしれんぞ」


 誰かの冗談に、場が一瞬静まり返った。


湊と圭以外にも、女体化するやつが出るかもしれない。


 そう考えると、笑いだけでは済まない。


「……まあ、余剰分は倉庫行きだな」


 圭が、あえてさらりと流した。



「それより問題はこっち」


 別の箱をぽん、と叩く。


 中には、ニーハイソックスがぎっしり並んでいた。


 黒。白。グレー。ボーダー。ワンポイント付き。


 どう見ても「運動用」の範疇から少しはみ出しているラインナップだ。


「誰が頼んだ、ニーハイ」


「えっとですね」


 加島が、ものすごく申し訳なさそうな顔をする。


「『健康にもよくて』って言ったじゃん、俺」


「うん」


「その流れで、『冷え対策とかも含めて』ってイメージしてたら、なぜかこうなった」


「言い訳がうまいようでうまくない」



 圭が額を押さえた。


 さらに隣の箱を開けると、今度はミニスカートが何枚も入っていた。


 無地の黒、チェック柄、紺色。


 丈は、どれも危ういくらい短い。


「……」


 しばしの沈黙。


 それを破ったのは、加島だった。


「これはその……」


「言い訳から入るのやめろ」



「いや、聞いて。『あんまり恥ずかしくない』って言いながら、『でも完全に地味なのもなあ』って思った結果が」


「お前の脳内どうなってんだよ」


 男子たちが一斉に頭を抱えた。


 とはいえ、ミニスカートも完全に無駄とは言い切れない。


 動きやすさだけで言えば、ショートパンツと同じくらいの丈のものも混じっている。


 戦闘用かと言われると微妙だが、待機組の部屋で着替え用に使う分には、ギリギリ許容範囲かもしれない。


「……まあ」


 圭が、ため息混じりに箱の中身を眺める。


「せっかく出たもんは、有効活用考えるわ」


「マジで?」


「うん。全部がお前の趣味丸出しじゃなかったのは褒めてやる」


 そう言いながら、さっきのスポブラの箱を指でつついた。


「こっちは完璧なんだよなあ……」


ーだこーだと言い合い始めた。


「スポブラは真面目に助かる」


「ニーハイは……寒い階層用?」


「ミニスカは、湊に穿かせたいって素直に言えよ」


「言わないで」


 即座にかぶせた。


 顔が熱くなるのが、自分でも分かる。


 圭が、ちらりとこちらを見て、少しだけ口元を上げた。


「湊が嫌って言うなら、無理に穿かせたりしねーよ」


 そこで一拍置いて、わざとらしく肩をすくめる。


「コスプレ扱いするな」


 男子校の一室で、下着とミニスカとニーハイを前に真面目に議論しているの、自分で思ってもカオスだ。


 だけど、そのカオスっぷりが、逆に救いになっていた。


 女体化。ペナルティ。スキル。


 重たい言葉の代わりに、今ここにあるのは「どうやってこの装備を使い倒すか」という、どこか文化祭前日のみたいな相談だ。


「加島」


 圭が、改めてその名を呼ぶ。



「とりあえず、ありがとな。マジで助かった」


「任せとけ。こういう局面でこそ、男子校生オタクの真価が問われるからな」


 胸を張って言われると、なんだかんだで頼もしい。


 加島のダイス願いは、狙い通りに機能的な下着セットをもたらしつつ、余計なものもいろいろ紛れ込ませた。


 でもそれはきっと、この男子校ダンジョンに必要な「笑い」の分だけ、上乗せされた結果なのだろう。

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