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第13話 ボス部屋前と八千穂の決断


 通路の空気が、急に変わった。


 前を歩いていた直江が、足を止める。


「……ここから先、匂いが違う」


 石の壁から、ほんのりと熱っぽい気配が伝わってくる。

 さっき倒した蛇の比じゃない、もっと大きな何かの存在感。


 やがて、行き止まりのような広間に出た。


 正面の壁に、円形の巨大な扉。

 表面には、蛇のレリーフが刻まれている。

 その目の部分が、ぼうっと赤く光っていた。


『警告。この先はフロアボス区域です』


 あのアナウンスが、直接頭の中に響く。


『フロアボス戦は、挑戦者のみ入室可能です』


「挑戦者“のみ”ってことは……」


 川端が、眉をひそめた。


「戦えない連中は、ここで足止めだな」


『なお、ボス区域への入室者以外は、ボス部屋周辺の待機エリアに滞在する形となります』


 扉の左右の壁が、すうっと割れて、小さな部屋がいくつか顔を出した。

 簡易的な待機スペースらしい。


『フロアボス撃破まで、待機エリアからこのフロア外への移動はできません』


「つまり、ここでじっと待ってろってことか」


 藤堂が、ずり落ちそうなジャケットの袖を引き上げながら吐き捨てる。


「ボス部屋の中に入れる人数は?」


『パーティ人数は最大六名を推奨します』


 六人。


 自然と、戦力の顔ぶれに視線が集まった。


 前線なら柊。

 火力担当の川端。

 デバフなんかの補助役に風連。

 回復役の俺。

 あとは、そこそこ動けるやつを二人。


「……待機組、襲われる可能性は?」


 石切が、おそるおそる聞く。


『ボス戦開始中も、周辺エリアにおける一般モンスターの出現は継続します』


「マジかよ」


 木古内が顔をしかめた。


「じゃあ、外側も守れるやつが必要じゃん。

 戦えない組だけ残してたら、普通に食われるぞ」


「そうなるな」


 直江が短くうなずく。


「ボスに挑む六人と、外で待機しつつモンスターから守る組。

 どっちも、それなりの戦力が要る」


 そのとき。


「──じゃ、ここで俺の出番ってことで」


 ひょい、と手を挙げたのは、金髪の男だった。


 八千穂 圭。


 さっきまで一歩引いたところから全体を眺めていた彼が、珍しく前に出てきた。


「お前、スキルまだ取ってないよな」


 川端が言う。


「うん。様子見してたけど、そろそろ決めるタイミングかなって。

 “戦闘にも、待機組の護衛にも、両方効くスキル”」


 八千穂は、蛇のレリーフが刻まれた扉を見上げた。


「石の蛇ってことは、たぶん動きは鈍いけど、防御硬いだろ。

 炎とか物理とか、正面からぶつけるだけじゃ、ジリ貧になりそう」


「まあ、そんな気はするな」


「だったら、“温度いじれるやつ”一人いると、楽にならない?」


 あっけらかんとした口調だったけど、その目は真面目だった。


「温度?」


「そう。

 敵の体温下げて動き鈍らせたり、逆にこっちの周囲温めて、川端の能力ちょっと強化したり。

 あと、待機組の部屋の温度調整して、体力管理したり、色々出来るかなって」


 言いながら、自分の手のひらをじっと見る。


「そこまで使える能力になるかどうかは、ダイス目次第だけどな。まぁ、そんな訳で守る方は俺に任せな」


 八千穂は、そう言って笑った。


 けれど、その笑みの奥に、ほんの少しだけ覚悟みたいなものが見えた。



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