第12話 新装備での実戦
装備を新調した俺たちは、再び通路に戻った。
男子陣は、それぞれ丈夫そうなジャケットやパンツ、防具付きインナーを身につけている。
色味は地味だけど、前よりも「パーティ」っぽい雰囲気が出てきた。
俺は、パーカーのフードを軽くかぶる。
顔の半分が影になるだけで、周囲の視線が少しだけ気にならなくなる。
「どう? 動きやすい?」
八千穂が、歩きながら聞いてきた。
「まあ、前の制服よりはな。
走るのも蹴るのも、だいぶマシだと思う」
試しに、軽くその場でステップを踏んでみる。
ショートパンツのおかげで、膝の可動域は広い。
太ももは少しスースーするけど、すぐに慣れそうだ。
「いいじゃん。
じゃあ、その性能がどれくらいか……」
そのときだった。
通路の先で、カササッと何かが走る音がした。
「来るぞ!」
直江の声と同時に、俺たちは構える。
暗がりから這い出してきたのは、さっきの犬型とは違うタイプの魔物だった。
細長い体。
うろこに覆われた肌。
地を這うようにして近づいてくる、巨大な蛇。
「うわ、キモッ」
「毒ありそう」
「巻き付きそう」
見ているだけで本能的な嫌悪感が湧いてくる。
蛇は、低い唸り声のような音を立てながら、先頭の直江に狙いを定めた。
「柊!」
「大丈夫だ」
蛇が飛びかかる瞬間、直江は一歩踏み込んで、その頭部をかわしつつ拳を叩き込んだ。
バキ、と鈍い音。
だが、蛇は体をくねらせてしがみついてくる。
「クソ、硬い……!」
「川端!」
「分かってる!」
川端が手を突き出す。
「燃えろ、《フレイム》!」
炎の束が蛇の胴体を舐める。
だが、うろこのせいか、さっきの犬型ほど効いていない。
蛇は、猛然と暴れながら、尾を振り回した。
はじけた。
パーカーの前面に、薄い膜のようなものが展開される。
尾がそれにぶつかって、弾かれた。
「っ……!」
衝撃はあった。
けれど、制服のときみたいな「直撃感」はない。
胸のあたりがじん、としびれる程度で済んだ。
「大丈夫か、湊!」
直江が叫ぶ。
「……平気! 防具のバリアみたいなのが出た!」
急いで距離を取る。
パネルを確認すると、パーカーのステータスに「一時シールド展開:残り二回」と表示されていた。
「おお、やっぱ防御スキル付きか」
藤堂が感心している間にも、蛇は暴れ続ける。
その巨体が、今度は風連の方へ迫った。
「ひいいいい!!」
「風連、《ワン・サード》!」
「で、でもさっき速くなったし──」
「動き自体は速くなっても、体重減るなら動かしやすくなるだろ!」
川端の指摘に、風連は半泣きで手を伸ばした。
「ワ、ワン・サード!!」
蛇の体が、ぎゅっと縮む。
長さも太さも、三分の一。
さっきまで壁一面を占めていた胴体が、ぐっとコンパクトになる。
確かに、動きはさらに素早くなった。
だが、質量が落ちたぶん、暴れたときの一撃が軽くなっている。
「今だ、押さえろ!」
直江が飛び込み、縮んだ蛇の頭部を両腕でホールドした。
その瞬間、蛇の長い舌が彼の腕に触れる。
ピリ、と嫌な音がした。
腕の皮膚が、じわっと赤くただれていく。
「柊!」
「くっ……!」
直江の顔が歪む。
俺の中で、さっきと同じスイッチが入った。
「《パナシーア》、毒!」
叫ぶと同時に、手のひらに瓶が現れる。
今度は、さっきよりも小さい、ショットグラスみたいなサイズだ。
その隙間に、瓶の中身を一気に流し込んだ。
「っ……!」
直江の喉が、ごくりと鳴る。
効果は、早かった。
ただれていた皮膚の色が、みるみるうちに引いていく。
「効いてる!」
その声と同時に。
「川端!」
「任せろ!」
風連の『ワン・サード』で軽くなった蛇の胴体に、炎が集中する。
さっきまで以上に、火の回りが早い。
長さも細さも三分の一になった分、焼き切るのも早いのだ。
やがて、蛇は身をよじる力を失い、その場でぐたりと崩れ落ちた。
像できない程度まで回復していた。
『使用:パナシーア(毒) 残り回数:3/5』
表示が、一つ減っている。
「やっぱ、湊のスキル強えな」
藤堂が、心底感心したように言う。
「防具もちゃんと機能してたし。
さっき尾の一撃食らってたら、普通に肋折れてたぞ多分」
「……マジかよ」
自分の胸元を押さえる。
パーカー越しに、まだ微かなじんじんとした感覚が残っていた。
「お前の願いのおかげで、マジで助かったわ」
「い、いや、俺はその……」
石切は、照れたように視線をそらした。
その横で、加島がニヤリと笑う。
「ほら見ろ、“実用性と映え”の両立は正義なんだって」
「映えはいらないって何回言わせんだ!」
そう言いながらも、心のどこかで、パーカーのフードをもう一度軽く引っ張る。
温度変化を防ぐ効果のおかげか、汗が冷えても体が冷えにくい。
さっきの一撃を防いだシールドもある。
女子の身体になったことも。
この装備を着せられていることも。
全部まとめて、少しずつ「攻略のための要素」に変わっていく。
そう思えた瞬間、ダンジョンの空気が、ほんの少しだけ軽くなった気がした。




