混じりものはシノダノモリには還れない ⑤
いつの間にかデザートも飲んでいたミルクティーの容器も空になっていたことに気づいて、潮はふぅと息を吐いた。
「俺も大体流れは一緒~」
一応話は聞いていたようで、平は飽きた様子を隠すこともせず己の爪を眺めながら言った。
潮は一言も発しない汐緒をチラリと見て、能面のような無表情にギョッとした。
わりとハードな内容だった自覚はあるが、もしかして目を開けたまま気絶でもしているのかと顔の前で手を振ると、勢いよく手を掴まれた。
「潮さん」
「うおっ、な、何?」
「その呪い屋はまだ生きてるんですよね?」
「お、おう、たぶん」
「見つけ次第殺しましょう」
よく見るとその目は据わっていた。平だけは楽しそうにきゃっきゃっと手を叩いて笑っていたが、潮は全く笑えなかった。
「いやいや、お前少し落ち着け」
「落ち着いてなんていられません!!!!」
ビリビリと怒気の籠った激しい口調に、思わず驚いて目を丸くした。慌てて声を抑えるよに告げると、流石に他の客の視線に気づいたようで、ハッとしたように口を閉ざした。
やがて小さな声で「すみません……」と呟く。
汐緒がこのように声を荒げる姿は滅多に見ないので、何故彼がそんなに怒っているのかわからず困惑した。
「何でお前が怒んの」
「……当たり前じゃないですかっ、貴方をそんな目に遭わせた奴を野放しになんてさせられない。八つ裂きにしてやりたいくらいだ」
過激な発言に目を白黒させていると、彼は少しムッとした様子で潮を見つめた。
「どうして俺が怒っているかわかりませんか」
「ん~、まあ、ちょっと」
正直に頷くとギュムッと頬を強くつねられた。思わず手を振り払おうとすると、そのままテーブル越しに体を引き寄せられ抱き締められた。
彼の爽やかな香水の香りが鼻を擽る。
「貴方は本当にバカですね」
「……は? はあ?」
突然の暴言に目を吊り上げると、汐緒は万力のような馬鹿力で仕置きのように抱き締めた潮の体を締め上げる。
「ぐあっ……しぬ、おい、くるじい……」
「貴方のことが大事だからに決まってるじゃないですか」
囁くように絞り出した声が耳朶を打つ。その声はどこか震えているようにも聞こえた。
「潮さん、貴方が生きていてくれて、本当に良かったっ……」
じわりと顔に熱が集まった。存在そのものを肯定された気がして、何故か胸が苦しくなる。思わず肩にある彼の頭を撫でようとし「目立ってるからいちゃつくなら家でやれば?」と嫌そうに顔を歪めた平の一言に慌てて汐緒を突き飛ばして座った。
「……と、とりあえずもう出るか」
咳払いを一つしてそれだけを絞り出すように言うと、汐緒は苦笑を浮かべて頷いた。
店を出てすぐに平が「俺これから女の子と用事あるからバイバイ~」と端末をポチポチしながらあっさりと消えて行った。
何となく気まずいような居心地の悪さを感じながら並んで駅までの道を歩きながら、潮は躊躇いながらも汐緒に声をかけた。
「……あのさ、オレお前に言われるまで巻き込まずに一人でどうにかしようって頭しかなくて、誰かに頼るって選択肢がなかった。お前は守られるだけの弱い奴じゃないって、知ってたのにな。最初からお前に説明して頼るべきだったよ、ゴメン」
支え合いたいと対等でいてくれようとした男に、あまりにも失礼で不誠実だった。
ペコッと頭を下げた潮に、沈黙が降ってくる。チラリと見上げれば、彼はひどく驚いた様子で口をポカンと開けていた。潮の視線に気づいた汐緒はパチパチと目を瞬かせながら、思わずと言った様子で呟く。
「あんまりにも素直すぎて……」
「おい」
聞こえているぞと背中をどつくと、汐緒はふっと笑った。それに釣られ潮も笑いが込み上げてくる。
「潮さん、俺お酒飲める年になったんですよ」
「ん、知ってる」
「もう避ける必要なんてないでしょ、今から飲みに行きましょ、貴方の奢りで」
誕生日にLINEを送ったのだから知っていると頷けば、汐緒は珍しくからかうような表情を浮かべてそう言った。ポリポリと頬を掻きながら、年下の可愛い男に仕方ないなと笑った。
「それはそうと潮さん」
「ん?」
「早くアンノウン駆除しましょうね」
「……怖ぇって」




