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しおとせお  作者: 柚希
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重いこうべをしな垂れる⑧

 いつからか、村はおかしくなった。ほんの少し前まで普通のありふれた日常が、ある日を境に壊れた。

 最初は原因不明の体調不良を訴える者が出たことを皮切りに、やがて村には化け物ばかり増え始めた。

 段々と人間が減っていく。これ以上は看過できない。数を減らさなければ。


「とられた女は泣いてばかりだ」

「仕方ねぇさ、あれらを生かしてもなんにもならねぇ」

「だけど哀れでよぉ」


 化け物を愛する女たちと化け物を殺そうとする男たちの間でいつしか諍いが起きるようになった。それらは村の分断を招き、そうして全てが──灰に帰す。





 それから十年以上が経った頃、一つの企業がとある見出しで一面を飾った。


<呪いや疫病ではなく、原因は○○工業だった!?>





※※※※※※※※※※※※※


 苦虫を何匹も噛み潰したような顔で潮から話を聞いた輝良が口を開く。


「魂があの異形の中にいたってことじゃなく、混ざってるだって? つまり、自然発生した怪異じゃなくて、第三者が関わってるってことだよな?」


 悍ましくて堪らないと口元に手を当てる彼の顔色は蒼白で、隣で同じように聞いていた汐緒がちらりとこちらに視線を向ける。


「呪い屋ですか」


 ポツリと呟いた汐緒は何事か思案するかのように顎に手を当てる。何となく彼の考えていることがわかった。つい最近も似たような案件を片付けているのだ、聡い彼のことだ、何かしら()()()()()()のかもしれない。あえて潮に聞いてこないのは、それが汐緒の中で確たる証拠がないため判断しかねているのだろう。


「これ、オレらだけでどうにかしていい案件つうか、どうにかできる案件なのか?」


 輝良の躊躇いはわからなくもない。昔とは違い、このご時世に呪い屋案件に携わることは滅多にない。最近の遭遇率が異常なのだ。


「一度戻って親父たちに指示を仰いだ方がいいんじゃないか」

「オレたちが異界に侵入したことはここを創った奴にもとっくにバレてんだろ。今ここを放棄したら、隠される可能性もあるぞ」

「……う~んっ」


 悩ましそうにはするが否定しないのは、輝良もそうなる確率が高いことがわかっているからだろう。


「ま、ここでウダウダしててもしょーがなくね? とりあえず核になるもん探して異界ごとぶっ壊すしかないでしょ」

「俺もそう思います。それに探索したら何か手がかりが見つかるかもしれない」

「手がかりかぁ、あんのかぁ?」


 平に賛同した弟分を見る輝良の表情は渋い。なるべく汐緒を危険から遠ざけたいのか、過保護な面がちらついていた。


「俺はあると思う」

「何を根拠に?」

「多分この異界は、どこかの村を模倣したものじゃなくて、実在した村そのものが異界に組み込まれたんじゃないかと思うんです」


 何か確信でもあるのか、汐緒は肉片を指差しながら言った。


「この異形が人間の魂を混ぜて作られているとしたら、行方不明者の魂だけで作るにしては数が多い気がしませんか?」

「あぁ、確かに! 把握できてない人たちがもしいるとしても、数が多いな」


 納得するように頷く輝良を視界に入れながら、目を伏せる。それは潮も気になってはいた。


「おい、魂は一体に一つだったか?」

「んー、いんや? 二つ混ざってる。いや、一つと半分、みたいな」

「半分?」


 一体に複数の魂が混ざっているとしたら、確かに行方不明者だけの魂で作るにしては数が多い。


「なんつうか、生まれ損なった? 成り損なった? みたいな」

「赤ん坊か」

「うん、多分。でも、魂の起源みたいなのが歪められてる感じ。ただの死んだ赤ん坊じゃなくて、生まれてから人間の枠から無理やり押し出された魂を使ってる。だから半分」

「??? よくわからないが」


 疑問符を頭上に浮かべた輝良に、珍しく平が困ったような顔をする。魂の感覚は多分潮と平にしかわからないだろう。


「何となくわかった。はぁ……やっぱ探索するしかねぇか」

「そうですね。二人もそれでいいですか?」

「いや、わかってる。わかってはいんだけど……危なくないか?」


 過保護な兄貴分が心配しているのは自分のことだとわかっている汐緒は、少しだけ苦笑した。


「俺は大丈夫。もう子供じゃないよ」

「……そう、だけど」


 一人躊躇している輝良の過保護ぶりに、流石に面倒臭くなる。未成年ですらない祓い屋の人間に対してあまりに甘い態度だ。これでは育つ者も育たない。


「お前より汐緒のが強いのに、何をそんな不安がってんだよ」

「それはっ……」

「ガキじゃねぇんだ、テメエがこいつ信用できねぇでどうすんだよ」


 潮の言葉にハッとした顔をした輝良は、やがて渋々頷いた。


「お前に言われなくても、汐緒は一族随一の霊力があるんだ、一族で一番強いのはオレが一番わかってるし」

「犬神は二番目に強いコだけどね」

「それは汐緒が……いや、何でもない。と、とにかく探索するぞ!」


 当主が一番強いのではないのかと疑問に思いながらも、先ほどとはうってかわって張りきって先頭を切ろうとする輝良を押し留めた。


「待て、こっからは二手に別れるぞ」

「いや、あの数に囲まれたら少人数で行動する方が危険だろ?」

「逆だ。さっきみてぇに四人全員囲まれて何かあったら身動きとれなくなるだろうが」


 本当は異能を自由に使うためだが、そこはシラっとあたかもこちらが正しいような口ぶりで煙に巻いた。札で凌ぐのも限界があるし、最悪見られても構わなかったが、やはり能力について後からぎゃあぎゃあ聞かれても面倒臭いなという感情の方に比率が傾いたための発言だった。


「だったら俺は潮さんと……」

「はあ!? お前はオレとだろ!!」


 揉め出した犬神憑きたちにうんざりしながら眉間を揉みほぐしてから、興味なさそうにしている平の腕を引っ張った。


「オレはこいつと動く。犬神コンビは好きにしろ」

「え、潮さん!?」


 驚いた様子で潮の名前を呼ぶ汐緒に視線を向けた平は、にんまりと笑った。


「え~なんかごめんねぇ? ご指名されちゃった」

「……」


 瞬間ビリビリとした殺気が汐緒から放たれるが、彼は潮のげんなりとした様子に気づいて顔を伏せた。


「とりあえず一時間経ったら一回ここに集合しろ。平、行くぞ」

「はーい」


 視線を背中に感じながらも気づかないふりで、潮は平を引っ張ってその場を後にしたのだった。

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