重いこうべをしな垂れる④
次の日、早朝から乗り込んだ新幹線の中は地獄だった。
無駄に大きな男二人に成人男性の平均身長のある男の計三人が肘をぶつけ合いながら三列シートにぎゅうぎゅうに座るのですらキツイというのに、相性の悪い人間団子が完成すればそこはただの無限地獄である。
せめて二人と一人で分けろやと内心奥螺を罵りながら、汐緒へと変なちょっかいをかける平をいなしながらの移動は過酷を極めた。平の隣に座らせることは憚られたので仕方なく潮が真ん中に座ったが、平は飽きると汐緒と潮両方にちょっかいをかけ始める。
何度あの男の頭を殴り付けたか知れない。
よく四年近くも奥螺はこの男の保護者代わりを務めたと今になって彼の苦労が窺い知れる。本来平は別の祓い屋が面倒を見る筈だったが、そこでも色々やらかしたあの男は色々な人間から匙を投げられてしまい、仕方なく救急事情を知る奥螺が代わりに面倒を見ることになってしまった経緯があった。勿論線加が納得する訳もなく、しかし年に一回会うだけの潮とは違って、平はただ黙ってやられる質ではないので、糀谷にいる間は大層喧嘩ばかりしていたそうだ。というより、後半は苛烈で容赦ない性格の平に一方的に線加がやられていたそうだが──そのこともあってなのかは知らないが、平は四年後にフラリと糀谷の家を出て行った。急に行方知れずとなった阿呆に奥螺だけは肝を冷やしたようだが、検診の時にひょっこりと顔を出したことで安堵しながらも平の頭を叩いていた姿を思い出す。
案外奥螺は面倒見が良い故に、自分から厄介ごとを背負うのだ。
「やっと着いた……」
結局新幹線の中で一眠りするつもりが一睡もできず、目的地に到着した頃には最早憔悴しきっていた。
「潮さん、大丈夫ですか?」
いつの間にか水を買ってきてくれていた汐緒が、心配そうな顔でペットボトルを渡す。
「さんきゅ……」
「はぁーやっと着いたぁ。あれ、しーちゃん顔死んでね? なしたの?」
「てめえのせいだよ、ぼけかすが……」
怒鳴り付けたいが今ここで体力を消耗することは避けたい。肝心の仕事はこれからなのだから。
「あ、潮くんだよね?」
うんざりしながら水を飲んでいると、後ろから可愛らしい少女の声がして振り向いた。小柄な少女は潮の顔を確認すると、ホッとした様子でこちらに駆け寄ってくる。
「おう、祈か。久しぶり」
「うん、久しぶり。今日はよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる礼儀正しい彼女を見ると、横でニヤニヤとしている男の非常識さに不快感と教養の違いを見た気がして力が抜けた。
「え~誰、この子? 若いよね、もしかしてJK? JK?」
「えっと、はい。開口祈です。高校生です」
「祈、この馬鹿のことは無視していい。今後二度と会うこともないだろうからな」
「は~? 一緒に仕事すんなら自己紹介はするべきでしょ? 俺は平だよ、仲良くしようね」
「煩ぇ、話しかけんな。イカれ具合がうつる」
戸惑う視線を投げかける祈を平の視線から隠すようにしつつ、煩い彼を無視して汐緒を呼んだ。
「こいつは犬狩汐緒、仲良くすんならこっちな。汐緒、この子が祈」
「汐緒です。よろしくね、祈さん」
柔らかな雰囲気の汐緒に安堵したのか、すぐさま打ち解けた様子で楽しそうにし始める二人を眺めつつ、そういえば犬塚の坊っちゃんは祈となるべく接触させないために先に件の山の麓へと行かせたということを思い出す。
「ほら、時間ねぇんだ、とっとと行くぞ」
今回はタクシーを呼んでいるので潮たち三人と平は別々で乗り込む。やっとあの男から暫しの間とはいえ離れられることができて、一気に気が楽になった。
新幹線で眠るつもりが全くできなかったせいで、妙な疲れもあって最早瞼が重い。
「潮さん、到着するまで寝てていいですよ。あの人のせいで疲れたでしょうし、体力を回復しておいてください」
すぐに潮の様子に気づいた汐緒にそう言われミラー越しにチラリと祈を窺うと、彼女も寝てくださいと笑顔で言ってくれたので遠慮せずにそうすることにした。
初対面の二人で気まずい思いをするのではないかと一瞬だけ思ったが、そもそも二人共人見知りしたり物怖じするような性格ではないことを思い出してそのまま緩やかに瞼を閉じた。




