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100人の電車  作者: どどんこ


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村田聡の冷静な視線とは対照的に、この一時停止の時間を、新たな知識への渇望に変えている人物がいた。窓際の席で、イヤホンを耳につけたまま、小さな音でポッドキャストを聴いている金子聡美かねこ・さとみだ。彼女は、目を閉じ、微かに口角を上げていた。外見からはリラックスしているように見えるが、その内面では、知的な刺激への貪欲な「君」が活発に動き出していた。


へえ、そうなんだ。この宇宙の果てには、まだ未発見の銀河があるって。想像するだけで、鳥肌が立つ。地球でのちっぽけな悩みなんて、本当にどうでもよくなる。電車が止まって、周りの音が消えたから、いつもより音声がクリアに聞こえる。この静寂は、私と未知の世界を繋ぐための、特別な時間みたいだ。


最近、仕事で行き詰まってたんだ。あの会議で、私のプレゼンは結局却下された。正直、悔しくて、情けなくて、もう全部投げ出したくなった。でも、こうして宇宙の話を聞いていると、自分がどれだけ小さな存在で、どれだけ狭い世界で悩んでいたか、はっきりと分かる。この壮大な宇宙に比べたら、失敗なんて、ただの点に過ぎない。


このポッドキャストを教えてくれたのは、大学の時の教授だ。あの人、いつも言ってた。「世界は、君が知らないことで満ちている。知ることをやめるな」って。教授の声が、イヤホンの向こうから、今も私に語りかけてくるみたいだ。「君」は、私の中に、常に新しい知識への扉を開き続けてくれる。


窓の外の夜景。ビルの明かりが並んで、まるで銀河みたいだ。あの光の向こうには、どんな物語があるんだろう。右手の山は、黒い塊だけど、その奥には、きっとまだ誰も知らない植物や、生き物がいるんだろう。知りたい。もっと知りたい。


この電車の中の静寂は、私にとって、最高の集中空間だ。人々がざわついていると、どうしても気が散るから。この時間が、永遠に続けばいいのに。まだ聴いていないポッドキャストのエピソードが、何十個もある。あの新しい言語の学習アプリも、もう少し進めたい。時間は有限だ。止まっている間も、成長を止めちゃいけない。


金子聡美の心の中で、常に輝きを放つ「君」、それは、未知への「尽きることのない知的好奇心」と、それによって自己を成長させ続けようとする「向上心」そのものだった。その「君」は、イヤホンの向こうから、彼女の精神に絶えず刺激を与え続けていた。


金子聡美が知的な世界に没頭するその傍らで、全く異なる種類の「君」を胸に、ただ静かに窓の外を見つめている女性がいた。通路側の席に座る、山口彩香やまぐち・あやかだ。彼女は、少し疲れた様子の顔で、手元に広げたスマホの画面に、アイドルグループのライブ映像を映している。イヤホンはつけていないが、その映像から発せられる熱気と輝きが、彼女の内側に、秘めたる憧れを灯しているようだった。



あぁ、何度見ても、あの時のステージは最高だったな。照明がバーン!って弾けて、みんなが一斉にペンライトを振って。あの場所にいる人たちは、本当に幸せそうだった。私も、あの光の海の一部になりたかった。


このグループに出会ってから、私の日常は変わった。毎日、彼らの曲を聴いて、動画を見て。ライブに行ったり、グッズを買ったり。誰かに言わせれば、「そんなものに夢中になって、時間の無駄だ」って言われるかもしれない。でも、この気持ちは、誰にも邪魔されたくない。


仕事で嫌なことがあった日も、友だちと上手くいかなくて落ち込んだ日も、彼らの笑顔と歌声が、私を救ってくれた。彼らが頑張っている姿を見ると、私も、もっと頑張ろうって思える。どんなに些細なことでも、明日を生きる理由をくれる。それが、私にとっての「君」なんだ。


窓の外の夜景。あの光の一つ一つが、ライブ会場のペンライトみたいに見える。私も、いつか、あのステージに立ってみたい。無理だって、分かってる。でも、そう想像するだけで、心が少しだけ軽くなる。右側の暗い山は、私のどうしようもない現実や、叶わない夢のようだ。でも、その闇の中でも、あの輝きだけは、いつでも私の心に灯っている。


この電車が止まっている時間。彼らの歌声が聞こえないから、余計にあの時の感動が鮮明に蘇る。あの眩しい光の中に、私もいつか、一歩でも近づけるだろうか。ただのファンじゃない。もっと、彼らのように、誰かの心を照らせるような、そんな存在になりたい。


山口彩香の心に秘められた「君」、それは、アイドルへの「純粋な憧れ」と、それによって鼓舞される「自己実現への静かな情熱」そのものだった。その「君」は、スマートフォンの画面に映る輝きの中で、静かに、しかし確かな存在感を持って揺らめいていた。

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