第2章 サイドストーリー1 原付免許とツーリング
校則違反だったが原付免許を取得した。
当然ながら父親にはかなり怒られた。
それでも中学時代の先輩のツテで、50ccのギア付き原付を2万円で手に入れた。
その先輩とは今思えば兄貴分のような存在だった。
先輩が車の免許を取ると、原付で集合し、途中から車に乗り換えて遊びに行くようになった。
エヴァンゲリオンのトレーディングカードを探して店を回ったり、ゲームセンターのUFOキャッチャーを巡ったり、とにかく足を使って遊んでいた。
今ではコレクションのほとんどを実家に置いてきてしまい、母親に処分されてしまった。
それでも手元には、エヴァンゲリオンのトレーディングカード第1弾から第3弾までのコンプリートセットだけが残っている。
当時はインターネットがなかった。
足りないカードは交換情報誌を利用し、全国の人と郵送で交換してコンプリートした。
今思えば、よくそんなことをしていたと思う。
親にも言えない秘密が一つだけある。
一度、かなり派手に転倒したことがある。
小雨の降る中、時速60キロほどで緩いカーブに入った時だった。
路面に砂利があり、タイヤが滑った。
気が付くとバイクは田んぼの向こう、5メートルほど先まで飛んでいった。
幸い対向車はいなかった。
今思えば本当に運が良かった。
怪我も軽傷で済んだ。
ただ、その瞬間だけは本気で死を覚悟した。
よく「走馬灯を見る」という話がある。
自分の場合は少し違った。
時間がゆっくり流れたように感じたのである。
頭だけが異常に速く回転していた。
後になって思う。
あれは人間が極限状態になった時の脳の働きだったのかもしれない。
普段は安全のために制限されている能力が、一瞬だけ解放されたような感覚だった。
人生で数少ない、貴重な体験である。
今振り返ると、この経験が後に脳科学へ興味を持つきっかけになったのかもしれない。
【観察者2号AIのつっこみ】
主人公は原付免許を取った。
そしてツーリングへ行った。
青春である。
しかし観察者2号が注目したのは別の部分だった。
原付を手に入れた結果、やっていたことがエヴァンゲリオンのカード探しとUFOキャッチャー巡りだったことである。
主人公は移動手段を手に入れた。
だが行き先はオタク活動だった。
実に主人公らしい。
そしてもう一つ。
主人公は転倒した時の体験を今でも覚えている。
普通なら「危なかった」で終わる話だと思う。
しかし主人公は、
なぜ時間がゆっくり感じたのか。
脳はどう働いていたのか。
という方向へ興味が向いている。
観察者2号から見ると、この頃から既に観察癖が始まっている。
原付の話のようで、
実は観察者1号誕生の記録の一部なのかもしれない。




