自由
スマートフォンが震えた。
それが誰からのメッセージかは分からないが、もはやどうでもいいことだった。
自殺の名所と呼ばれる場所に立っている僕が、スマートフォンに連絡を入れた人間が誰だろうかと思案する様は滑稽に思えた。
僕は死ぬのだろうか?
ここに立って一時間ほどになるが僕は死なないのではないかと思っている。
借金もあり恋人とも別れ両親から縁を切られた、だがそれがなんだというのだろうか。
死ぬか生きるかは僕自身が決められる。
いろいろな制約のある現代社会の中で僕は確かに僕自身に選択の権利を持てたことがうれしかった。
誰かは前世の行いが悪かったのだろうと言った。
前世でそれだけ悪いことをしても人間に生まれたのだから神というのはずいぶんといい加減な基準で判断しているらしい。
ふと空腹感を覚えた、そういえば今朝から何も食べていなかったことに気づいた。
ここで一体何人の自殺者が出たのかは知らないが、自殺したものも自分でそれを選んだのだから満足しているだろう。
人生で完全に自由な選択は少ない。
人は生まれを選べず、進学、就職は制限され、望んだわけでもないのに病気になる。
だが、僕は確かに自分の意思でここにいる。
誰かに言われたわけでもなく完全な自由意志に基づいている。
僕は王様にでも鳴ったような気分だった、いや王様だってしがらみから逃れられるとは思えない。
僕は究極の自由を手に入れている。
気分が楽になると急に空腹感に支配された。
いい飯でも食ってそれから好きにしよう。
そう決めて崖から離れていく僕の心は軽やかだった。




