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乙女ゲームの気弱なヒロインに転生したけど、私そんなに気弱じゃありません!!  作者: ふたーなる


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第5話 あれ、私嫌われちゃいましたかね?

 翌朝。


 私は、教室に入るなりセレフィーナの姿を探した。


 昨日の昼食で、私は彼女にずいぶんと偉そうなことを言ってしまった。


 自分の努力を他人のせいにするな。


 努力を無駄だと思うから無駄になる。


 ……うん。


 言っていること自体は、間違っていないと思う。


 けれども、言い方というものがある。


 私は転生してから、どうにも口が軽くなってしまった。


 元々、気弱な令嬢だったはずなのに。


 いや、私の中身が別人なのだから、当然といえば当然なのだが。


 問題は、私がこの世界でどういう立場にあるのかということだ。


 私は乙女ゲームのヒロイン。


 そして、セレフィーナは悪役令嬢。


 ゲームの中では、私が彼女に嫌われることが物語の始まりだった。


 ……いや、もう嫌われているのでは?


 そう考えると、急に胃が痛くなってきた。


「おはようございます」


 私は、セレフィーナの席に近づいた。


 彼女は本を読んでいた。


 昨日と同じように、背筋を伸ばして座っている。


 こちらに気づくと、彼女は本を閉じた。


「おはようございます、リュシエンヌ」


「えっと、その……昨日はごめんなさい」


 私は頭を下げた。


「昨日?」


「昼食のとき。ちょっと言いすぎちゃったかなって」


 セレフィーナは、私の顔をじっと見た。


 その視線が、なんだか怖い。


「……そうね」


「やっぱり?」


「あなたの言い方には、腹が立ったわ」


「ですよね」


 即答してしまった。


 セレフィーナは、少しだけ眉を寄せた。


「でも、言っていることが間違っていたとは思わない」


「え?」


「私が自分の努力を無駄だと思っている。それは事実ですもの」


 彼女は、机の上に置いた本を指先で撫でた。


「あなたに言われるまで、私はそのことを考えないようにしていたのかもしれないわね」


 私は、返す言葉を探した。


 昨日は、勢いで言ってしまった。


 けれど、今になって思う。


 セレフィーナは、私が想像していた以上に、長い時間をかけて魔法を学んできたのだろう。


 それを、私が一瞬で追い越してしまった。


 彼女が悔しくなるのも、当然なのかもしれない。


「……あのさ」


「何かしら?」


「私、セレフィーナの魔法を見てみたいんだけど」


 彼女は、少しだけ目を見開いた。


「魔法?」


「うん。昨日、魔法の本を読んでるって言ってたでしょ? どんなことを勉強しているのかなって」


「……あなたは、魔法に興味があるの?」


「あるよ。だって、魔法って便利じゃない」


 私は、そう答えた。


 セレフィーナは、しばらく私を見つめていた。


 そして、小さく息を吐く。


「……あなた、本当に変わった人ね」


「そうかな?」


「ええ。普通なら、私の機嫌を取ろうとするところでしょう?」


「えっ、機嫌を取ったほうがよかった?」


「そういう意味ではありませんわ」


 彼女は、呆れたように言った。


 その表情が、昨日よりも少しだけ柔らかく見えた。


     ◇


 放課後。


 私は、セレフィーナに連れられて学園の魔法実習室へ向かった。


 実習室は、石造りの広い部屋だった。


 壁には魔法陣が刻まれており、床には実習用の円形の紋様が描かれている。


 窓から差し込む夕日が、床の魔法陣を赤く染めていた。


「ここでは、魔法の制御を学ぶの」


 セレフィーナは、そう言って手をかざした。


 彼女の指先に、小さな光が浮かび上がる。


 光はゆっくりと形を変え、やがて小さな鳥になった。


 鳥は、彼女の手の周りを飛び回る。


「すごい」


 私は思わず声を上げた。


「これくらい、基礎の応用ですわ」


「いや、すごいよ。私、そんなことできない」


 セレフィーナは、少しだけ驚いたようにこちらを見た。


「あなたなら、すぐにできるでしょう?」


「え?」


「魔法の才能があるのですから」


 私は、首を傾げた。


「そうなのかな?」


「……あなた、自分の才能を理解していないの?」


「うん。だって、魔法を使えるのが普通だと思ってたし」


 セレフィーナは、額に手を当てた。


「……本当に、腹が立つわね」


「ご、ごめん」


「謝らなくていいわ。あなたに悪気がないことくらい、わかっていますから」


 彼女は、再び手をかざした。


 小鳥が、私の目の前を飛んでいく。


「魔法は、ただ力を出せばいいというものではありません。細かく制御することが重要なのです」


「へえ」


「あなたは、魔法を使うとき、どのように考えているの?」


「えっと……使いたいなって思ったら、使う?」


「……」


 セレフィーナは、黙り込んだ。


 そして、深く息を吐いた。


「あなたに魔法を教えるのは、骨が折れそうですわね」


「そんなに?」


「ええ。まずは、あなたが自分の才能を理解するところから始めましょう」


 彼女は、そう言って笑った。


 その笑顔を見て、私は少しだけ安心した。


 セレフィーナは、私を嫌いになったわけではないらしい。


 ……たぶん。


     ◇


 実習室を出ると、廊下には夕日が差し込んでいた。


 私は、セレフィーナの隣を歩く。


「ねえ、セレフィーナ」


「何かしら?」


「私、昨日のこと、ちゃんと反省してるから」


「……そう」


「だから、また一緒に昼食を食べてもいい?」


 セレフィーナは、足を止めた。


 そして、こちらを振り返る。


「あなたは、私と一緒に食事をすることが、そんなに大切なの?」


「うん」


 私は、即答した。


「だって、セレフィーナと話していると面白いし」


 彼女は、少しだけ目を見開いた。


 そして、すぐに視線を逸らした。


「……そう」


 その声は、いつもより小さかった。


「では、明日も一緒に食べましょう」


「本当?」


「ええ。ただし、昨日のように大声で説教するのはやめてくださいませ」


「わかった!」


 私は、笑顔で答えた。


 そのとき、廊下の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。


 アレクシスだった。


 彼は、私たちの姿を見て足を止める。


「セレフィーナ。リュシエンヌ嬢」


「殿下」


 セレフィーナは、軽く頭を下げた。


 私も、慌てて頭を下げる。


「リュシエンヌ嬢。君は、セレフィーナと親しくなったのか?」


「はい」


 私は、素直に答えた。


「そうか……」


 アレクシスは、少しだけ考え込むような表情を浮かべた。


 その視線が、私とセレフィーナの間を行き来する。


「……何か、あったのか?」


「何もありませんわ」


 セレフィーナが、即座に答えた。


「ただ、リュシエンヌと魔法の話をしていただけです」


「魔法の話?」


「はい」


 私は、頷いた。


「セレフィーナって、魔法のことをすごく勉強しているんですよ」


 アレクシスは、少し驚いたようにセレフィーナを見た。


「そうだったのか」


「……殿下は、ご存じなかったのですか?」


 セレフィーナの声が、少しだけ冷たくなった。


 アレクシスは、言葉に詰まる。


 私は、二人の顔を交互に見た。


 ……あれ?


 なんだか、空気が悪い。


 私は、慌てて口を開いた。


「えっと、セレフィーナの魔法はすごいんですよ!」


「リュシエンヌ」


 セレフィーナが、こちらを見た。


「はい?」


「あなたは、少し黙っていなさい」


「……はい」


 私は、口を閉じた。


 どうやら、また余計なことを言ってしまったらしい。


 アレクシスは、困ったように笑った。


「……二人は、本当に仲がいいんだな」


 その言葉に、セレフィーナは何も答えなかった。


 私は、ただ首を傾げる。


 仲がいい。


 そうなのだろうか。


 少なくとも、私はセレフィーナと友達になりたいと思っている。


 そして、彼女も私を完全に拒絶しているわけではない。


 ならば、これからもっと仲良くなればいい。


 私は、そう考えた。


 ……ただし。


 アレクシスが、なぜか私たちを気にしていることだけは、少し気になった。


 王太子殿下。


 お願いですから、私のことは放っておいてください。


 私は、セレフィーナと友達になりたいだけなのですから。

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