第13話
しばらくして。
藤堂は大きく息を吐くと、乱暴に袖で目元を擦った。
赤くなった目を隠すように顔を逸らし、照れ臭そうに笑う。
「……はは。カッコ悪いとこばっか見せちゃったな」
鼻声混じりのその声に、恭子は何も言えなかった。
夕方の風が、二人の間を静かに通り抜けていく。
空はもう、薄いオレンジから群青色へ変わり始めていた。
藤堂はしばらく黙ったあと、ぽつりと呟く。
「……納得は、まだできないけどさ」
膝に置いた手をぎゅっと握る。
「でも、わかった」
そしてゆっくり顔を上げ、恭子を見た。
その表情は少し寂しそうで、でもどこか吹っ切れたようにも見えた。
「大洗さん、倉持教授じゃなきゃダメなんだよね」
恭子は静かに目を伏せる。
胸の奥が、少し痛かった。
誰かを傷つけてしまったこと。
それでも気持ちは変えられないこと。
その両方が苦しかった。
藤堂は小さく笑う。
「話、聞いてくれてありがと」
「……まだ応援とかはできないけど」
そこで少し困ったように肩を竦めた。
「ちゃんと諦めるよ」
夕風が彼の髪を揺らす。
どこか強がっているようにも見えて、恭子は思わず唇を噛んだ。
すると藤堂は、ふと思い出したように笑った。
「でもさ」
「友達とかには、なれないかな」
恭子が顔を上げる。
藤堂は照れ臭そうに後頭部を掻いた。
「このまま気まずいの、なんか嫌だし」
「せっかく同じ大学なんだからさ」
その言葉に、恭子は少しだけ目を丸くする。
そして、ふっと小さく笑った。
「……うん」
「私で良ければ」
柔らかな笑顔だった。
その瞬間。
藤堂の胸が、どくんと大きく鳴る。
やっぱ可愛いな――なんて、一瞬思ってしまう。
慌てて頭を振った。
いやいや、もう終わったんだって。
自分に言い聞かせるように、藤堂はわざと大きく息を吐いた。
「あ〜……あと、倉持教授にも謝んなきゃなぁ」
「失礼なこと、めちゃくちゃ言っちゃったし」
その瞬間だった。
「なに!?」
恭子が勢いよく顔を上げる。
「何があったの!?」
普段はどこか冷静で、感情を表に出さない彼女が、珍しく食い気味に反応してくる。
その必死な様子に、藤堂は一瞬ぽかんとした。
それから、ふっと力が抜けたように笑う。
「……ホントに好きなんだね」
夕焼けが終わりかけた空を見上げる。
胸はまだ少し痛かった。
でも同時に、どこか清々しい気持ちもあった。
「完敗だわぁ……」
その呟きは、夕風に溶けるように静かに消えていった。




